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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

都市伝説〜2018

作者: おとじろう

「……はぁ……はぁ……クソッ!!……俺は死にたくない……こんな所で死ぬもんか……!」



 腕の感覚が無い。否、腕が無い。厳密には片腕だけだが、すっぽりと右手が無くなってしまってるのには代わりは無い。



 ――全く、どうしょうも無いゲームだ。爪、目玉、と来て次は右腕とは。デスゲームにも程がある。



 世間知らずの青年は、今、本当の『恐怖』というモノを味わっていた――。
















「ねぇ、保坂君、保坂君は知ってるかな?『呪いのアプリ』っていう噂」


「呪いのアプリ?」



 全ては自業自得だ。だが――もし誰かに責任を押し付けるなら――それは『コイツ』に他ならない。



「……知らないね、そんな物」


「え!? ウッソー!? あの保坂君が知らないなんて有り得ないんですけどー!!」


「……いいから勿体付けずに教えろよ。何だよ、それ」


「あのね、呪いのアプリっていうのは……」




 朋子が話すにはこうだ。このインターネットの中にはGoogle Playがサポートをしていない非公式なアプリ……つまり『野良アプリ』というのが存在する。


 ……野良アプリとはその名の通り非公式な流通サイトで出回っていたり、時にはネットの片隅にすら放流されているアングラなアプリだ。これらのアプリを総称して『野良アプリ』という。文字通り『野良のアプリ』っていう訳だ。


 野良アプリにはサポートが終了した為に廃止になったような物も存在するが、中には悪質なウィルスが仕込まれたような代物ものもあり、使うには自己責任、ダウンロードした人が悪いという物まである。まさにアンダーグラウンド。だが、その中に極めつけにヤバい代物が存在する。それが――。




「『呪いのアプリ』」




 このアプリは文字通り呪われていて、スマホがクラッシュする、個人情報が流出する等では済まされない。――文字通り、ダウンロードした瞬間死ぬのだ。


 ――曰く、朋子が語るには人間には死期、というモノが存在あるらしい。


 このアプリが奇天烈なのはその『死期』が近い人間の前にこのアプリは現れ、そうして迂闊うかつにダウンロードしてしまった者はそのアプリに取り殺されてしまうのだという。まさに――呪いのアプリ。




「っていう話しなんだけど――」


「――くだらないね。無時間の無駄だったよ」


「えっ、そっ、そんなこと無いでしょ!?」


「……休み時間を無駄にしたな。失礼するよ」


「ち、ちょっとー!?」


 後ろでギャーギャーと騒ぐ朋子を無視して俺は外に出た。









「くだらない噂だったな。余りにもくだらないな」


 放課後、部室でバックをあさりながら一人愚痴る。勿論むろん――朋子は居ない。


 あれから、友達グループの数人で『例の話』を、やれ『信憑性』があるだの、やれ実際に『人が死んでいる』だのくだらない与太話をふって来た。俺は全てそれらを論破したが、朋子はそれにキレてしまい、どうやら一人で帰ってしまったようだった。



「……ふん、どうせ俺はぼっちさ」



 そう呟くと途端に悲しくなった。……やめよう。例の『アプリ』の事を考えながら帰ろう。












「……うん、あれは『赤の部屋』のパクリだな。間違いない」


 ――『赤の部屋』。一時期ネットで流行ったフラッシュゲームだ。内容は例の『怪談話』に酷似していて、インターネット広告の中に絶対に消してはいけないポップアップ広告が存在あり、その広告を消してしまうと命を取られる――という与太話だ。明らかに酷似しており、これを真似した事は言うまでも無い。


「――それにしても『ポップアップ広告』から『野良アプリ』かぁ……時代だなぁ……」


 そんなキモい事を言いながら俺は一人道を帰りながらふと考える。噂に発信源があるはずだ――と。


 それを紐解き、朋子に突きつけて、ズタボロに論破するのもいいだろう。



「……見てろよ朋子、俺を置いて一人で帰った事を後悔させてやんよ……!」



 そうと決まれば話は早い。早速帰って『論破』の準備だ。俺は直ぐ様帰り道を急いだ。

















「ただいま」



「おう、保坂、帰ったか? 飯は――」



「――悪い、もう買って来たからいいわ。母さんはまだ出張か?」



「ああ、そうだな」


 部屋へ急ぐ俺の足を父さんが止める。


「またネットサーフィンか?――あんまり遅くまでやるんじゃないぞ。遅いと受験にも響くぞ?」



「まだそんな時期じゃねーよ。早く寝るわ」



「――夜9時半までには寝ろよー」




























「さて、始めるかね」


 俺はコンビニで買って来た鮭のおにぎりをパクつきながらそう呟くと、スマートフォンを手に取った。

 ――やる事は1つ、勿論『呪いのアプリ』についてのソースを徹底的に洗い上げるのだ。そうと決まれば話は早い。――他のサイトに気を取られない内に俺は検索ネットサーフィンを始めた。










「ほーら見ろ、やっぱり根も葉も無い根拠の無い噂じゃねーか。やっぱりこんな事だろうと思ったぜ」



 叩けば出てくる、埃が、滾々《こんこん》と湧き出づる。どうやら――元々は2chに投稿された根も葉も無い噂が情報源の元のようだ。――さらに、最初に流された噂は今流されている噂と多少違い、その内容は


 『とある女が呪われたアプリを開発し、恨みと共にネットの海に流した。万が一、このアプリをダウンロードしたならば、直ぐに消さなければならない。何故なら、消さなければ、貴方はその『腕女』によって呪い殺されてしまうからだ――』というという非常にくだらない物だった。――それが、何故かこのように変化してしまったのだ。何故そうなったのか?――それは誰にも分からなかった。




「まぁっ、流してた本人も今頃は困惑してるだろうなー、まっ、噂なんてそんなもんだよなー」




 噂という物は何故か変化し、歪められてしまう。そういう現象モノなのだ。俺は早速面倒臭かったが、証拠ソースとなるサイトのURLとサイト名をメモすると、ブラウザバックして少し休む事にした。








「……あ〜やっぱり目ェ疲れるわ〜やっぱドライアイ気味なんだろうなぁ、俺」



 そんな呑気な事を言って買って来たコーラを飲む。さて、そろそろ――自分の調べたい事を調べようと、思っていたのだが――。


「……ん? 何だコレ?」



 ――そこにはさっきまで見た事も無いようなサイトが表示されていた。




「……さっきこんなサイトは無かったよなぁ……よしっ、とりあえず入ってみっか」




 意を決してそのサイトに入る。そこには、文字化けの海に埋もれた中に1つのアプリとダウンロードボタンがあるだけの不気味なサイトだった。アプリの周りの文字は赤くなっており、一層不気味だ。


 谿コ縺励※繧?k縺雁燕驕斐?莠九r蜈ィ蜩。谿コ縺励※繧?k縺槭♀蜑埼#縺ッ遘√?莠九r蠢倥l縺溘□繧阪≧縺檎ァ√?縺雁燕驕斐?莠九r荳?譎ゅb蠢倥l縺滉コ九?辟。縺九▲縺溘◇遘√r驢懊>縺ィ鄂オ縺」縺溘♀蜑埼#縺梧?縺??∫ァ√r陬丞?縺」縺溘♀蜑阪′諞弱>縺雁燕縺後d縺」縺滉コ九?蜈ィ驛ィ隕壹∴縺ヲ縺?k縺樒ァ√r關ス縺ィ縺励◆縺雁燕繧峨′諞弱>菴輔b遏・繧峨↑縺九▲縺溘↑繧薙※莠九?險ア縺輔↑縺?ァ√?莠コ逕溘r霑斐○遘√?逞帙∩縺ォ豌嶺サ倥>縺ヲ縺上l縺ェ縺九▲縺溘%縺ョ荳也阜縺梧?縺?ィア縺帙↑縺?ョコ縺呎ョコ縺呎ョコ縺呎ョコ縺呎ョコ縺呎ョコ縺呎ョコ縺呎ョコ縺呎ョコ縺


「……駄目だ、読めないなぁ。何か意味はあるんだろうか? コレ?」



 まぁどうせ意味なんて無いだろう。『この手のサイト』のくだらない演出の1つだ。そんな事より――。



「……ダウンロード出来るの? コレ」



 ――不意に、興味本位でダウンロードボタンを押す。これから始まる惨劇なども知らずに。



「えっ!?……出来た!?」



 慌ててダウンロードを止めようとしたが、もう遅い。もはや後の祭りだ。



「……まいったな、ウィルスとか入って無いだろうなぁ……」



 『万が一』の時の為、提供元不明のアプリへのセーフティは外しておいた。だが、それが仇となった。まさか『それらしき物』が実在してるとは露程つゆほども知らなかったのだ。



「……とりあえず、見てみっか」



 インストールされたアプリを開く。アプリの名前は【騾?£繧峨l繧九→諤昴≧縺ェ】。どうやらタイトルまで文字化けしているようだった。背景画面も暗く、時折ノイズのようなモノまではしる始末だ。ゲーム画面には【START】の文字のみで、非常に殺風景だった。



「……はは〜ん、さては『赤の部屋 完全版』と同じだなあ? 全く、何時もやる事は変わらないんだから」



 あの『赤の部屋』がアップロードされてから数年たったある日、ネットにはそのポップアップ広告を模した『全く同じモノ』が作られていた。それが、『赤の部屋 完全版』である。



 俺が小学6年生だった頃にはもはやネットの廃れたコンテンツの1つだったが、俺が学校で広めたせいで多くの同級生やつらが犠牲になってしまった。――最も、俺が広めたのは本家本元の『赤の部屋』そのものなんだが。


 ――『赤の部屋 完全版』は不出来な二次創作できそこないに過ぎない。――確かにアイデアは良い。だが、オチが――陳腐すぎる。一体何の為に『赤の部屋』は態態わざわざ大きな音や、不快な画像に頼らないであのような傑物げいじゅつを作り出したのか。本家に――失礼にも程がある。何より画像のチョイスが壊滅的だ。何を思ってあの『青い手の人影』が顔が傷だらけの少女が正体だと思ったのか。怖ければなんでも良かったのかと小一時間問い詰めたい程だ。



「どうせコイツも低クオリテイなんだろ? わざわざブロックを解除して入れてやったんだから有り難いと思えや」



 そう悪態とさえ思われる程、大言壮語を吐いて起動する。


 いきなり目の前には真っ暗闇と灰色の壁が現れた。どうやら一人称視点のようで、何処かのダンジョンに居るようだ。目の前の壁には何か花とも渦巻きとも言える奇妙な図形が渦巻いているが、全てが灰色モノクロだ。画面の左下にはロウソクのようなマークが映し出されているが、何に使うのかは現時点では解らない。BGMさえもかかっておらず、辺りは無音で非常に不気味だ。



「……ふーん、雰囲気いいじゃん。いかにも『呪われたアプリ』って感じだな」



 先程の態度とは打って変わって上機嫌で進めて行く。どうやらスマホの画面をスワイプする事によって前に進めるようだ。



「……フリックで左右への視点変更、タップで半回転、か。やりにくいなぁ……まぁフリゲーだししゃあないか。それに『こういうの』は雰囲気を楽しむ物だからなぁ」



 大層なご高説を語りながらキャラを先に進める。どうやらこの『ゲーム』はこの陰鬱かつ不気味なダンジョンを探索して行くモノのようだ。











 ――灰色と漆黒の世界をただ歩く。壁のテクスチャは変われど、相変わらず辺りにはBGM1つしない。ただ無音の空間に足音がこだまするだけだ。


 ――画面は相変わらず平穏だ。だが、何時恐ろしい存在が飛び出してもおかしくないように心構えをする。――これはホラーゲームなのだ。それにしても――。



「……飽きて来たなぁ。このままずーっとこの画面が続くんだろうか? 何か仕掛けは……ってうわぁ!?」



 聞こえて来たのは女の悲鳴とも断末魔ともいえない不気味な叫び声だ。真に迫っているその声はそこらのホラーゲームより迫真だ。



「……不気味だなぁ。なんか妙にリアルだし……でも、いい感じじゃないかぁ!!」



 いきなり暗闇というシチュエーションを活かして化け物を出すのではなく、あくまでも不気味なSEを使って恐怖を高める――成る程よく出来ている。さらには辺りには何時の間にか不安を煽るようなBGMと思われる不協和音が流れ始めている。



 ――これは、来るな。




 そう思った瞬間、目の前に化け物がぬっ、と現れる。




「はいはい、テンプレ乙」




 鼻で嗤う。BGMとSEで煽ったならば、次に来るのは当然『化け物』のご登場だ。どのゲームも変わり映えしないテンプレートのようなモノだ。



「ほほ〜う。コイツが『腕女』か。……って事はもうこのアプリはしまいかな?」



 ――改めて化け物の容姿を見る。両手首には何か刃物のような物で斬った深い傷跡があり、今も僅かながら流れ出す血の跡が痛ましい。髪は長く、目の前に垂らしてる貞子スタイルなので顔が見えない。笑っちゃう程テンプレートな幽霊だが、この場がモノクロな事と、不気味なBGMからかろうじて恐ろしい印象を与えた。

 きっとホラゲーに慣れて無い人なら失禁するレベルだろう、多分。



「……差し詰め、『自殺した幽霊』って所の設定か? 成る程、『そう解釈』した訳ね」



 そう呟いていると、突如スロットマシンのようなモノが目の前に現れた。――どうやら、回せという事らしい。



「……あー、そうなりますか。そうなっちゃいますか……はいウンコ」



 『コイツ』もゲーム要素に走るのか。露骨に。正直ガッカリだ。このガッカリ感は『ふぁんたじーあいらんど』の後半をプレイしている時に感じたのと同じだ。



 ――今でも忘れない。あの時はまだ11歳頃だった。だが鮮明に今も覚えている。最後の方にはホラー要素がドンドン抜け落ちて行って、完全なRPGのようなモノになってしまった事を。『傑作』扱いしている奴らは最後までプレイしてから言えと小一時間問い詰めたい。

 どうして純粋なホラーを汚すような真似をするんだろうか?ホラーというのはもっと救いが無く、暗いモノでいい。それを明るいゲーム要素でなくし、救いをもたらすようなエンディングなんてもっての他だ。


 そんなくだらない事を考えているとスロットが勝手に回転しだした。どうやら時間経過で勝手に回ってしまうらしい。



「……おいおい、なんてクソ仕様だよ……っ!?」



 ――寒気を感じる。外気からのではない。背筋を走るような内側からの寒気。画面に出た表示は目玉のようなマーク、足のようなマーク、そして爪?のようなマーク。


 ――吐き気がする。

 ――回せ。

 ――回さなければ。

 ――不意に、回していた。



 次に出たマークは目玉2つに足1つ。画面が揺れる。光る。どうやら成功したようだ。だが、僅かな怖気が走る。――よく見れば画面には何時の間にかライフが表示されている。どうやらバーを見る限り自分が優勢のようだ。


「っあ……行っけぇ!!」



 ――スロットが回る。爪、爪、爪。勝ちだ――。



「っしゃあ!!」



 ――何故か倒した事が無性に嬉しくて仕方が無かった――。




「……まだ続くのかよ」


 画面には【先へ勧め】とだけ表示されると、鍵が開くような音が鳴り響いた。

 ――どうやら、先に進むしか無いらしい。



「……どうする? 少し休むか?」



 さっきの突然の体長不良を思い出して考える。……まぁいいか、さっきみたいに気分が悪くなったらすぐやめよう。3D酔いは気になるが、セーブ機能なども無さそうなこのクソゲー。折角ここまで進めたのに最初からやり直しなんてぶっちゃけありえない。だから――進む事にした。


「……さっきみたいになったらスグやめよう。スグ」











「……雰囲気変わりすぎだろ。急にどうした……」


 灰の扉を開ける。すると、そこに現れたのは洞窟のようなマップだった。中は薄暗く、両壁のくぼみの燭台しょくだいの火だけが道標みちしるべだった。



「……世界観位統一しろよ……つーかこれ絶対『ふぁんたじーあいらんど』を模倣しただろ……分かってるぞ!」



 さっきの露骨なまでのゲーム要素、不気味な雰囲気、探索要素――間違い無い。これは『ふぁんたじーあいらんど』を模造もとにしたに違いない。

 『ふぁんたじーあいらんど』は確かに最高傑作だ。だが――ボスが酷すぎた。

『ふぁんたじーあいらんど』のボスは某ファーストフードチェーン店のマスコットそっくりの敵だったのだ。



 ――もっと、他になんか良いの無かったのか――。



 今でもあの時の虚しさと中々倒せなかった記憶が胸を離れない。時期が時期なら、某笑顔動画でMADムービの1つでも創られていそうだ。――最も、俺のように度胸があってクリア出来る奴がいるか――は謎だが。


 そんなくだらない事を考ていると、例の『腕女ばけもの』が現れた――。



「――出たな、『腕女』」


 ――縺昴s縺ェ蜷榊燕縺倥c縺ェ縺



 画面にノイズが走る。随分と長い道を歩かされたが、そろそろ来る頃だと思っていた。

 ――恐らくコイツが『この階層のボス』。『このゲーム』は恐らく階層事に『腕女』が存在し、それを倒す事によってドアが開き、先へ進めるようになるという仕組みのハズだ。――問題は、それが何階まであるかなんだが。



「……まさか100階まであるんじゃないだろうな……さすがにそれは無いか」



 確か某ハードウェアに1万階もの膨大な塔を登るゲームがあったはずだ。名前は……興味が無くて覚えていない。だか、そんなには無いだろう。……多分。

 そんなこんな考えていると、現れたスロットが回り出した。慌てて止める。



 ――リールの出目は爪、爪、指。中々良い滑り出しだ。画面が揺れ、『腕女』にダメージが入る。



「このまま決めさせて貰うぜ!!」



 再度リールを回す。だが――次の出目は目玉、足、指。――失敗だ。――体に怖気が走る。だかそんなモノは無視した。



「クソッ!! だったらこれでっ!!」



 リールを回す。だが――再度出たのは、目玉、足、指。――不幸にも程がある。まるで相手に意志があるような――


 画面が灰色に染まる。どうやら、キャラの体力の限界が近いらしい。――体に怖気が走った。だかそんなモノは無視した。勝つ事が先決だ。



「……このままじゃヤバいな……GAME OVERだけは避けねば……」


 このゲームにはセーブ機能があるかすら怪しい。ここで負けるという事は全てが水泡に帰すという事だ。そう思いながら、リールを回した。


 ――目玉、指、爪。――負けた。


 画面が真っ暗になり、砂嵐のような音と共にスマホが落ち唖然とする。――どうやら、敗北するとアプリが落ちる演出らしい。――死んだという事だろうか?あるいは、起動した瞬間に脅かしが入るのか。

 ――何れにしても早速どうでもいい。肩の力が抜けた。負けたのだ。全てが水の泡だ。


「……オートセーブがあるのを祈るしかない」

 


 こんなクソゲーにある訳が無いか――と嘲笑う。ふと、時計の針を見ると既に9時を超えており、10時を回る頃だった。



「……寝ようかな」



 ……何はともあれ朋子を論破出来るソースは手に入れた。


 ボロボロに論破した後、このゲームで一緒に遊んで機嫌を取るのもいいだろう。何より――体調が悪い。



 ――さっきから起こる原因不明の体調不良。最近夜更かしをしすぎたせいだろうか?寒気が酷い。風邪にでもなっていたら大変だ。

 来月からは入試の為に受験勉強を初めなければならない。全く、国立なんて志望しやがって、こっちにとってはいい迷惑だ。



「……9月も遊びたいなー」



 白露はくろの季節からは受験勉強が開始される。こうして遊べる時期ももう終わりか――そう思うと感慨深いモノがあった。



 ――とりあえず今日はトイレにでも入って寝よう。そう思って、部屋を出ようと、したの、だが――。



「なんだ?」


 ザザーッという音共に振り返る。どうやらスマホが再起動したらしい。



「……ははぁ〜ん、さては内部ではこっそり『動いて」いたな?」



 恐らく内部では実は動いている状態で、うかつにスマホが落ちたからといって電源を入れると大音量と共に例の『腕女』が画面いっぱいに表示される……という『オチ』だったんだろう。――なる程、機械には詳しく無いが凄い仕掛けだ。最近のホラーゲームは本当に進んでいる。


 ――画面には【コンテニュー】という表示と、『戦闘』時に表示されているスロットが回転している。違いがあるとすれば、リールとシンボルが1つだけのスロットだ。――どうやら、コンテニューする為にはこのリールを止めなければならないらしい。



「……おいおい、こんな所でもスロットマシンをやらされるのか? 勘弁してくれ……」



 こんな事なら名前を『呪いのアプリ』じゃなくて『パチスロ』に変えたらどうだ?――そんなくだらない事を考えていた。



「――爪、だな」


 ――今の内だけは。


 ――止まったリールに描かれたシンボルは、爪。――直後、『腕女』と思わしき手が奪い去る。――リールからは爪のシンボルが消え、残りのシンボルは4つとなった。


「あっ、なる程、つまりコンテニューしていけばいく程シンボルが減っていくのか!! なんだ、結構あま――っ!?」



 ――激痛が走った。――痛い。痛い痛い痛い痛い痛い。


 激痛が左手の親指にはしり、のたうち回る。余りの痛さに咄嗟にシャツで抑えるが、直後、刺すような激痛が走り呻吟しんぎんする。


「ハアッ……ハアッ……一体、一体なんなんだよ……」


 ――おむむろに左指先を見る。爪が――無い。



「……は?……あぁ……あぁ……?」



 ――理解が出来ない、否、理解が追いつかない。


 ――何が――何が起きた。




 『剥けた指先』からは露出した赤々とした肉のゼリーが視えてなんとも痛々しい。



 ――まるで理解が出来ない。俺はただ――スマホのくだらないゲームをやってて、それで、気付いたら激痛が走って――。



 それから――。



 それから――そう考えた瞬間『ある事』に気付いてしまった。



「……いや、そうじゃない……そんな訳無い!!……そんな訳」


 ――違う。


 ――そうじゃない。


 ――あってはならない。


 ――絶対に。


 ――絶対に。


 ――絶対に絶対に。


 ――絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に。



 思考あたまでどれだけ否定しようとも、気付いてしまったこの現状げんじつは覆らなかった。ああ、つまり『コレ』は――。



 直後、凄まじい勢いとなって恐怖が全身からだを貫いた。



「ああっ―――あああああああっ!!」


 スマートフォンを投げ出し、恐怖のうちに手足をばたつかせる。――手足にぶつかったコーラが吹き飛び、物が辺りに散乱する。


 背中を壁で強打した。


「ふざけんなよ、ふざけんなよ!! コレ――『本物』じゃねぇかああああっ!!」


 錯乱とも絶望とも取れる叫びをあげ――ふと冷静になり、言葉が頭を走馬灯のようにぐるぐると駆け巡った。



『でね、そのアプリが怖いのは、「今にもお迎えが必要ですっ――」て人の前に現れるらしいのよ。年齢とか性別とかは関係無いわ――アプリをダウンロードしなきゃ助かるけれど、死に往く人はダウンロードしちゃうんですって!!』



『とある女が呪われたアプリを開発し、恨みと共にネットの海に流した。万が一、このアプリをダウンロードしたならば――』



 ヤバい――!!どの噂が本当で、どの噂が嘘かなどはこの際早速どうでも良い。このままでは殺されるのは確実だ――!!



 そう思った瞬間体はドアの方へ駆け出していた――ドアノブを捻って引く――ただそれだけで助かる――ハズだったのだが。



「ああっ――あああああっ!!」



 ――しかしまるでドアは開かない。もう何十回も乱暴に扉を開くように引き続けたが、開く気配は一向にしない。



「あああああっ! 父さん!! 開けてくれ!! 父さん!!」



 必死の叫びも虚しく父は来ない。――そもそも、これだけ騒がしくしていれば、怒鳴り込みに来るのが『普通』の親というものだ。だが――恐怖で混乱した頭では理解出来る訳も無かった。



「――だったらああああぁ!!」



 ――起死回生。方向を270°転換し、勉強机に走り寄り、椅子を持つ。窓を割って出ればいい。――そう思ったのだが。



「あああっああ!!」



 恐怖のあまり腰を抜かす。



 ――確かに居たのだ。窓の外に『腕女』が――。




「クソッ!! クソクソクソクソッ!! どうしら、どうしたらいいんだよ――」



 泣きそうな声で乞う。――ふと、目に入るのは1台のスマートフォン。



「……やるしか……やるしかないのかよ……」


 ――やるしかない。涙を乱暴に拭い、スマートフォンを手に取る。


 ――ゲームをクリアするのだ。もしかしたら――このゲームをクリアすれば助かるかもしれない。今の所――もうこれ以外手が浮かばない。



「……待ってろよ。俺は死なない!! 必ずお前を殺してやるぞ!!」



 決意を手にリールを回し始めた。














「これ、は……」



 その後、『何も奪われる事無く』無事に切り抜ける保坂だったが、辺り一面が灰色に覆われるエリアに出た。――このエリアには見覚えがある。



「……まさか、ループ?」



 一瞬絶望しかけて、ハッとなる。



「……違う! 違うぞ!! いや違う!! ここは来た事のある場所なんかじゃない!!」


 確かに壁のテクスチャ、雰囲気、色合い等は先程の一層と変わり無い。しかし――この階層はよく見ると、天井が開いており、星空のような物が仰ぎ見えた。

 確かに一層にも似たような部分は存在したものの、部分的であり、ここまで大規模では無かった。



(……先に進もう)



 これが『ただのゲーム』だったならば、先程のようなテンションで『使い回しかよ』と嘲笑えたが、さすがに今はそんな気力は沸かなかった。











「……出口が近いぞ!!」



 そう憶測したのはふと、風の音が聞こえ始めたからだ。出口が近い――そう考えるのも無理は無い。――尤もだだ外のエリアに続いているだけかもしれないが――。


 ――そもそもこのゲームにクリアなんてあるのか。そんな絶望的観測が頭を擡げ始めた時だった。


 (――奴だ)



 『腕女ヤツ』が現れた。――どうやらこの階層の『ボス』で間違い無いようだ。



「……退けぇ!!」



 裂帛れっぱく絶叫さけびと共にリールを回す。――傍から見ればこれ程滑稽な光景は無いだろう。だが――こちらは命がかかっているので仕方が無い。



 ――負け――

 ――勝ち――

 ――負け――



 残り体力は3分の1。どうやらクリティカルが出た事が大きいようだ。だが――不利なのには変わりは無い。

 もし負ければ――また奪われる。それだけは何としても避けたい――!!



「行けえええぇぇ!!」



 期待と切望が入り交じった叫びと共にリールを回す――目、目、指――勝ちだ――!!



 「――やったぞ――勝ったあああああああっ!! 勝っ――」



 ――言葉が止まった。


 ――そんな。


 ――そんなそんな。


 ――そんなそんなそんなそんな――。


「――そんな馬鹿なあああっ!!」



 ――現れたのは2体目の『腕女ばけもの』。体力は――そのままだった。



「ふぅざけぁけぇるなァアアアア!!」



 激情と共にリールを回す。だが――勝てる訳も無く。



「……ああっ……ああああっ!!」



 光芒一閃。激情は冷め、恐怖へと移り変わる。――奪われるのだ。



「嫌だああああっ!! あああああっ!!」



 無様に足掻き、地を転がりまわる。だが――無常にも『腕女』の手は伸びた――。







「……あぁ…………あぁ………」



――右目の視力が無い。恐らく『腕女ヤツ』に奪われたのだろう。



「……ふふ……はは……」



 ――漏れたのは狂ったような笑いだった。



「……ふふ……ははは……あっはははははは!!」



 ――保坂は完全に狂っていた。



「あああああああああ!!」



 だが、逆に『ソレ』が功を奏していた。



「殺す――殺してやる――殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるぅ!!」



 精神が廃人寸前に近づく事によって、恐怖が吹き飛んだのだ。――皮肉にも、発狂する事が今の保坂にとっての原動力となっていた。



「いえおおおぉ!!」



 正気のこもらない叫びと共にリールを回す。――残るシンボルは指、腕、足。


 爪、目が減って『奪われる』確率は大分減った――だが、このゲームがそんなに優しい訳が無い。




 新たな『腕女ぜつぼう』が舞い降りた――。









「……はぁ……はぁ……クソッ!!……俺は死にたくない……こんな所で死ぬもんか……!」


 腕の感覚が無い。否、腕が無い。厳密には片腕だけだが、すっぽりと右手が無くなってしまってるのには代わりは無い。


 ――皮肉な事に、左腕を奪われた事が保坂にとって正気に戻る要因だった――否、正気に戻されてしまったのか。



 もはや保坂にとって時間の感覚すらも曖昧な物になっていた。



 ――何時果てる事もないこの大迷宮。彷徨い続けるが、一向にゴールは見えて来ない。


 ――このまま自分は『何もかも』奪われて死ぬんじゃないか――そう思うと何かがせきを切った。



「……朋子ォ……許してくれ……朋子ォ……」



 保坂の精神がまた崩壊しそうになったその時――。




「あ……!」


 ――空だ。


 ――青い空。


 先程までの黒い無機質な空と違って澄み渡るような青い空だった。



 ――通路の奥底には一際豪勢な黄金の扉が建て付けられている。――出口だ!!



「やったぞおおお!! 出口だあぁぁ!!  助かったんだあぁぁぁあ!!」


 熱涙を流しながら脱兎の如き勢いで通路を駆け抜け、扉を開く。


「これで助っ――」



 ――言葉が止まった。


 ――目の前に『腕女れいのばけもの』が現れた。


 ――そして消えた。



「何っ……」



 ――その先は言えなかった。保坂の持っていたスマートフォンから腕が飛び出したからだ。



「ああああっ!!」



 恐怖でスマートフォンを取り落とす。――だが、そうしている内にみるみると『腕女』は小さなスマートフォンの画面から現実に出現しつつあった。



「ああああっ!! ふざけんなぁぁ!! ふざけんなよ!!」



 ――なんと滑稽な光景だろうか。見れば誰もが笑うだろう。



 恐怖に震え、ドアをなんとか開けようとする。だが――無情にもドアは開かない。



「ふざけんなよふざけんなよ!! ふざけんなよぉぉぉぉお!! クリアしただろ!! クリアしただろぅぅが!! ゲームってのはなぁぁあ!! クリアしたら『救われるべき』ものなんだよぉぉお!! ふざけるなふざけるな

ふざけるなふざけるなふざ――け」



 ――言葉が止まった。――血が凍った。


 ――居る。――コイツは居る――俺の背後のすぐ後ろに居る――!!




「嫌ああああっ!! 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないお父さーん!! お父さあぁぁぁん!!」


 ――ゆっくりと影は忍び寄り。



「お父さん!! 助けてお父さぁぁん!! 僕まだ死にだぐないよ!! まだ死にだぐ――」



 ――そして。



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ」



 ――また、命を刈り取った。

















 ――それが、保坂君に会った最後の日だった。 


 その日から、保坂君は学校に一切来なくなった。心配になった私は、保坂君の家に行って彼がどうなったか聞いてみる事にした。


 ところが保坂君のお父さんに事情を聞いてみると、とんでもない事が分かった。――保坂君は失踪していたのだ。


 聞いた話によると保坂君はある日、こつ然と姿を消したらしい。自室の様子はかなり異常で、部屋中に荷物が散乱し、ドアには爪で引っ掻いたような無数の跡があった。スマートフォンの情報、履歴は全て消されていて、直前に何をしていたかも分からないらしい。


 私物・金品の類は一切家に置いたまま消えた事から、保坂君は自殺しに行ったんじゃないかってとにかく心配していた。


 その後、保坂君のお父さんが学校におしかけて来て大変だった。いじめは無かったか?としつこく聞いてまわり、時には怒鳴り散らしたり暴れたらしい。――そんな事をするもんだから、学校からは要注意人物としてマークされてしまった。


 ――当然警察には連絡した。私も保坂君が心配だから捜索願を警察に届け出た。――けど、保坂君は『家出人』として登録されたみたいで、まともに警察は取り合ってくれなかった。


 保坂君のお父さんは案の上「何時になったら見つかるんだ!!」と苦情を警察の窓口で言い続けたらしい。


 そうしたら、警察側から「これ以上続けるなら『威力業務妨害』で逮捕するぞ」と脅されたらしく、さすがの保坂君のお父さんも引き下がらざる負えなかったらしい。


 警察に愛想を尽かした保坂君のお父さんは、今度は探偵に依頼する事にしたらしい。――私も、探偵料をお小遣いやアルバイト代を削って負担してたけど、あまりにも高くなり続ける探偵料に耐えられなくなり、ついには出すのを辞退しようとしたら「お前は保坂が心配じゃないのか!!」って怒鳴られて暴力を振るわれそうになった。怖くなった私は、もう保坂君のお父さんに関わるのをやめた。


 ――それがいけなかったのだろうか。数年後、恐る恐る保坂君の家に行ってみると、表札が変わっていた。どうしたのかと、近所の人に聞いてみたら、どうやら保坂君のお父さんとお母さんは離婚して互いに離れて暮らすようになったらしい。なんでも、離婚する前から毎晩怒鳴り声が聞こえ、諍いが絶えなかったらしい。



 ――あれから4年、保坂君は未だに現れない。



 ――でも、何も悪い事ばかりじゃない。近年、日本では失踪者の数が急激に増加している。これは全く喜べる事じゃないけど、あまりの急増ぶりに、警察は本格的に失踪者に対して対策、対処をしていくつもりらしい。もしかしたら――近い内に保坂君が見つかるかもしれない。




「……本当……何処行っちゃったのよあの馬鹿……」


 ――ふと、涙がこぼれた。



 ――ハッ、いけない明るく振る舞わなければ。




 ――あの日の話はまだ、終わっていない。保坂君が帰って来たら、見せつけてやるつもりだ、証拠を。


「……だから早く帰って来なさいよあの馬鹿……!」

 




 ――私は『呪いのアプリ』を手に保坂君を何時までも待ち続けた――。





本当はフラッシュゲームの方も実名で使いたかったのですが(リアリティの為に)、内容が否定的な為になくなく名前を変えざるおえませんでした……


作者はあのフラッシュサイト好きです。

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