第9章 ドラゴン危機一髪
サリエルを先導とし、その後をマルースにまたがったイーリス、そしてドラゴン記者のヒュペリオ、さらにその後ろからジュピテルも来た。
ヒ「なあなあ、あんさん。1つ聞きたいことがあるんやけど。ええか?」
イ「何でしょう?」
ヒ「あんさんの国では、下っ端に将軍が直々に命令することが普通なんか?」
イ「どういうことでしょうか。」
ヒ「わし、いろんな星や国を回って取材しとるんやけどな。あんさんみたいなところはひときわ珍しいんや。大抵な、将軍直属の部下が命令することが大半なんや。そこんとこ、どう考えとるん?」
様々なぶっちゃけ情報が飛び出す中、イーリスは答えた。
イ「普段は私の上司が命令することが多いんですが、確かに今回は異例でした。」
一方その頃。
ヴ「なんですって!?」
ヴェスティーア部隊長は一通りの事情を聞いたあと、
ヴ「あの馬鹿達は!ちょっと行って来ます!」
真っ先に飛び出した。
「ギャァン!」
先ほど見えた太陽龍はジュピテルではなく、ヴェスティーアの使い龍であった。
ヒ「ふうん。やっぱそうなんや。ところで嬢さん!やつはまだ見えて来んか?」
サ「話しかけないでください!気が散る!」
サリエルはピリピリしている。
ヒ「あのお嬢、どないしたん?さっきと雰囲気ちゃうで。」
イ「サリエルは遠くの音を判別することで、素早くそこまで走ることができるんです。だから、あまりうるさくしないでください。」
ヒ「お、おおう。分かったで。ほんなら、静かにしとる。」
それからはヒュペリオは不要な発言はしなかった。
数分後。
サ「そろそろです!」
サリエルが降下し始めた。それに合わせ、マルースも下がって行く。
ゆっくりと地面に立つ。
さわ…さわ…
サリエルは風の動きを読んだ。
サ「こっちです!」
サリエルは走り始めた。
ヒ「おおっ、速いなあ!」
イ「追え、マルース!」
マ「グオオ!」
また、得意の早駆けでそこに向かい始めた。
イ「サリエルは早駆けが得意なんです。今までにもそれが役立っていたんです。と言うか、あなたとの初対面の時にも、ものの数分でそちらに着いたと聞いたんですが。」
ヒ「はあ!?そ、そりゃぶっ壊れとるやろ!わしの事務所からあの城まで、走っても15分はかかるで!?それを数分で!?あのお嬢の足はバケモンか!?」
イ「あ、本人にそれは言わないでください。一応気にしてるので。」
ヒ「分かっとるわ!わしな、こう見えて女には気遣いできる方なんやで!」
どうでもいい。
さらに数分が経ち、現場周辺に着いた。
イ「おい、どう言うつもりだ?部隊長も将軍も怒ってたぞ?」
イーリスは近くにいた兵に話しかけた。
「仕方ないですよ!いきなりあっちから飛びかかって来たんですから!指示を待ってる暇なんてないですよ!」
あちらの言い分を聞くと、巡回していたところいきなり襲いかかって来たんだそうだ。それを受け、とっさに対抗したらしい。ヴェスティーア部隊長も遅れて着く。
ヴ「現状を教えろ!」
側には見慣れぬ方もいた。
ヴ「彼は飛兵隊の部隊長『アイテール』だ。部下の責任を彼が取らされる羽目になったから、言いたいことがあると連れて来たんだ。」
ア「お前ら!なんで勝手なことをした!指示があるまで待機といったはずだ!」
「そうは言ってもウダウダグチグチ…」
ヒ「じゃかあーしい!!」
急に、ヒュペリオが大声を出した。
ヒ「んーなこと言って責任転嫁しとる場合か!今あんたらがしなきゃいけんことはなんや!こやつを抑えることやろ!ここで喧嘩することやなかろう!」
ア「…そうだったな。すまない。説教は全て済んでからだ。」
「…はい。」
ヒ「さーてと!これでよーやくゆっくり取材出来るでえ!」
それが目的か。
ア「では改めて、現状はどうだ。」
「とりあえず麻酔薬て眠らせましたが、いつまた復活するか分かりません。それまで、原因を調査しなくては。」
その時、
「グオオ、グギャアア!!」
いきなりドラゴンが目覚めた。
「!?」
サ「こちらです!」
ブワッ!
サリエルは全員を一旦避難させた。
攻撃を素早く避ける。木々の隙間から見ると、それはどうやら太陽龍のようだ。口からは血を流している。なるほど部隊長が攻撃を渋ったのにはこういう訳があったのか。
イ「ヒュペリオさん。死にたくなければ、帰ってもいいですよ。」
ヒ「阿保言うなや。帰るわけないやろ。ドラゴンにやられて死ねるなら本望や。」
もはや病気だ。
イ「…勝手にしてください。」
ヒ「ああ。勝手にしたる。」
ヴ「ドラゴンは貸し出しませんよ。危険ですから。」
ヒ「記者は足で取材するんや。そんなんに頼らん。」
ヴ「さいですか。」
ヒュペリオは別行動し始めた。念のため、兵を2人護衛に使った。
ア「さあ、始めるぞ!」
まずはドラコンの相手に飛兵隊を使う。そして、サリエルの先導のもと、イーリスら偵察兵隊が、ドラゴンの手足を縛るというプランだ。
ア「さあ来い!」
「ギェアアー!!」
ドラゴンは弱っているとはいえ、まだ技の威力は高いまま。皆必死に避ける。
「このやろ、喰らえ!」
バシュッ!ドゴオ!
兵隊側の攻撃が、ドラコンに当たる。目は虚ろになりながらも、ドラゴンも反撃する。
イ「…なんか変だな。」
サ「どうしたんですか?」
イ「この間みたいに、意識が薄い。でも、今回の場合は拒否反応も見られない。誰かに操られているのか…?」
その時、一足先に行動していたヒュペリオと交流した。
ヒ「おお、あんたら。なんかな、こいつ変なんや。今まで数多くのドラゴンを見てきたが、こいつは何かがおかしい。」
ヒュペリオも、ドラゴンの異変には気づいているようだ。
イ「こんなところにいたら怪我しますよ。」
ヒ「余計なお世話や。自分の身は自分で守る。」
すると、飛兵隊の1人がやって来た。
「なんとか攻撃したんですけど、まるで手応えがありません。いくら攻撃しても、ちっとも効いてる様子がないんです。麻酔をいくらしても、気絶すらしないんです。」
イ「…やっぱり何かがおかしいな。速いとこなんとかしないと。」
サ「…避けてください!」
サリエルの急な指示に、イーリスは素早く対応した。上から血だまりが降って来た。
イ「早く手足を縛って、救護室に運ぶんだ!」
そこで、まずは羽を無効化することにした。羽の付け根に攻撃し、ドラゴンが降って来た。
イ「今だ!」
意識を取り戻す前に、まずは手を縛った。間一髪で間に合った。ドラゴンは立ち上がろうとするが、手を縛られているため自由な動きはできない。この隙に足に攻撃し、うつ伏せに倒した。そして、足も縛った。遠くから見たら分からなかったが、マルースよりも一回り大きく、龍王ジュピテルよりも少し小さい、大型のドラゴンだった。
イ「急げ!救護室に運ぶんだ!」
みんなドラゴンを巨大な板に乗せ、使い龍でそれを運んだ。
登場人物
アイテール
飛兵隊部隊長。正直覚えてなくてもいい(かわいそ)。