第7章 戦場へ
イ「…これが、私たちの調査の結果です。」
2人は本日の成果…もとい残念報告をした。
プ「そうか。まさか、水棲龍の卵が真下にあったとはな。城を築けないのは残念だったが、それ以上に余計な被害を出さずに済んだよ。よくぞ報告してくれた。よくやった。」
プルトゥ将軍は2人を褒めるが、やはり内心残念そうだ。
ところで、帰路に2人はこんな話をガリアから聞いた。
イ「…え?あれが社会問題になってるんですか?」
ガ「ああ、そうなんだ。何でも、今回のケースのように建物の建築予定地に卵が埋まってあって、今回は早めに気づいたから良かったが、気づかずに建築してしまい水間欠泉に巻き込まれ、たくさんの被害者も出ているんだ。」
ガリアは深刻そうに言った。
サ「なんとか、水龍をひとまとまりにできませんかね。」
ガ「難しいな。どこに卵を産むかがあらかじめ分かっていれば話は別なんだが。」
イ「…ということなんですけど。何とかなりませんか。」
イーリスはガリアが気にしていたことをプルトゥ将軍に相談した。
プ「そうだな。また城を駄目にするのもごめんだし。考えておくよ。」
イ「そこで、私から1つ提案があるのですが。」
プ「何だ?」
イ「どうせなら、水龍の産卵場を設けるのはどうでしょうか。孵化の度にそこを埋め立てるくらいなら、始めからここと決めておいたほうがいいんではないでしょうか。そうすれば穴ぼこ被害も防げますし。」
プルトゥ将軍はひどく納得した様子だった。
プ「ほう!それはいい考えだ。しかし、産卵場を設けるだけでは物足りんぞ。お互いの交流場も作らんとな。よし、そこは俺に任せとけ。」
その数日後。見事水龍異変を収束することができた。と言うのも、陰陽の狭間に両国公認の産卵場を設け、そこに人工池を作ったのだ。陰陽の狭間ならどちらのドラゴンもいるので、孵化時の対応も成り立つ。治癒の泉も近くにあるのでいざという時も安心。さらに、光日・闇夜の国の広場に大きな噴水も作った。ここで水龍を歓迎する。闇夜の国の将軍もこの異変に悩まされていたようで、それがなくなるのなら容易いものだと了承してくれた。
プ「いやはや、お前の機転には驚かされるばかりだ。これこそ、我が軍に相応しい人材だ。」
プルトゥ将軍も鼻高々といった様子だ。そこで彼に褒美をやろうと考えて、提案したところ。
イ「でしたら、サリエルに使い龍か、空中用の乗り物を贈ってください。」
プ「む?それはまた何故?」
イーリスは前々から気になっていたことがあった。実はサリエルは今度の異変の際も、マルースが飛んている最中ずっと動向を見守っているだけだった。それはそうだろう。サリエルに空中歩行術はない。(ていうか全人類にそんな能力はない。)このままでは勿体無いし、何よりサリエルに申し訳が立たなかったからだ。
プ「分かった。それも考えておこう。しかし、お前は本当に謙虚なやつだな。自分よりも仲間を大事に思うとはな。その心、忘れるんじゃないぞ。」
イ「はい。」
その次の日、プルトゥ将軍はサリエルを呼び出した。
サ「私に使い龍を?」
プ「そうだ。お前の早駆けの実力は認めるが、太陽龍軍は空を飛ぶこともある。その際に空に行けなければ駄目だ。従って、お前にはいくつかの選択肢がある。まず1つは、新たに使い龍を得ること。もう1つは空中用の乗り物を贈呈すること。他にも希望があればそれでもいいし。」
サ「いやしかし、私なんかがそんな扱いを受けても…元々イーリスさんの手柄ですし。」
プ「実は、そのイーリスからお願いされたんだ。自分は空で戦うこともあるのに、お前にだけ今までのような扱いをするのは申し訳ないんだそうだ。その気持ちは、汲んでやってくれ。」
サ「イーリスさんが…。」
サリエルは少し考えた。
プ「ま、お前が可能なのなら、空中歩行術を教えてやってもいいがな!はっはっは!」
プルトゥ将軍はジョーク混じりの提案もしたが、
サ「え、そんなことができるんですか!?」
思ったより食いついた。
プ「い、いやいや、今のは冗談だ!それでお前はどうする?」
サリエルは顔を下に向けると、
サ「でも、私だけそんな破格の扱いを受けても、逆に申し訳ないです…。」
上司が上司なら、部下も部下だ。
プ「うーむ。そう言われてもな、そうすると俺もイーリスに対しても顔向けができんのだ。…そうだ、こういうのはどうだ?」
プルトゥ将軍はある提案をした。
サ「さあ、行きますよ、イーリスさん!しっかりついて来てください!」
サリエルの背中には、グライダーのようなものが付いている。プルトゥ将軍の提案で、サリエルにはグライダーを贈与された。これで空を飛ぶこともできる。
イ「マルース、サリエルについて行け!」
マ「グワァ!」
マルースも後について飛ぶ。
イ「しかし、よく慣れたな。」
サ「イーリスさんのおかげです。私のことを配慮してこれをくれたおかげで、私もあなたの部下として務め甲斐があります!」
イーリスはサリエルのために、グライダーでの飛び方もレクチャーしたらしい。これで、さらに行動範囲が広がる。さらに、その後ろを。
「キェア!」
黒い、小さなドラゴンが健気についてくる。アスラだ。ちなみにこれは、アスラの飛行訓練でもある。
その様子を、ベランダからプルトゥ将軍はじっと眺めていた。
プ「上達したじゃないか。」
後ろにはなぜかヴェスティーア部隊長も。
ヴ「私の部下ですから。おーい!キリのいいところで引き上げるんだぞー!」
イ「はーい!」
プ「ところで、あなたは彼ばかりに付いていていいのか?他の奴らの管理もあるんじゃ?」
ヴ「皆に言われますけどね。もう上司離れといいますか。すっかり他の連中には相手にされなくなりまして。そうすると必然的に、ですね。」
プ「そうか、まあいい。」
2人は部屋に戻った。
さらに数日後。
ちょうど軍に入って一年が経つくらいの時だ。
イ「…え?実戦の訓練?」
プ「そうだ。お前もここに入って長い。そろそろ本格的な戦い方というものを学んでおいたほうがいいと思ってな。ちょうど、近くで太陽龍軍と月光龍軍の小規模な戦いがあってな。それの援軍に、お前とサリエルを入れたいんだ。大丈夫か?」
イーリスはしばし何を言われているのか、理解するのに時間がかかった。しかし、事が飲み込めると、
イ「…は、はい、大丈夫です!ありがとうございます!」
プ「そうか。なら長くて3日で準備を整えてくれ。出来次第派遣する。」
イ「分かりました!」
イーリスは部屋を出ると、サリエルに知らせた。
サ「え、本当ですか!?私たちが実戦の訓練に!?」
サリエルは喜びを隠しきれないようだ。それはそうだろう。カース時代の時は戦いどころか自由な行動すら許されなかったのだから。ここまでの異例な出世は稀だ。2人はすぐさま軍備を整えた。グライダーの手入れ、マルースの体調管理等、準備に励んだ。
そして、当日。
プ「いよいよだな、お前ら。しっかり戦いを手伝ってこいよ。」
イ・サ「はい!」
そして、2人は仲間の援軍たちとともに空へ飛び立って行った。
プ「…行ったか。さて、お前はどうする、アスラ。」
ア「グルル、グルオ…。」
プルトゥ将軍は1人残された月光龍のアスラに声をかけた。出会って半年で、マルースの3分の2くらいにまで成長した。さすがに太陽龍軍に入れるのは憚られたのだろう。
プ「ま、観戦くらいはさせてやるか。」
そう思い、龍王ジュピテルの背に乗せてやった。
プ「くれぐれも怪我させるんじゃないぞ。」
ジ「我輩がそんなヘマするか。」
プ「だよな。じゃ、頼むぞ。」
ジ「おう。」
ジュピテルは飛び立った。