第5章 新たな出会い
カース将軍の不正が暴かれ、それから1週間が経った。あれからイーリスはサリエルを連れてマルースにまたがり、自由に動き回ることを新将軍に許可されたので、今まで散々できなかった偵察を真面目に行うことができるようになった。
サ「やっとここまで来ましたね。私、正直この状況が続いていたら辞めてました。でも、あなたのおかげでまたやる気が出ました!ありがとうございます!」
イ「いやいや、俺もカースには恨みがあったからな。まったく、不正をバラされたくなかったから父上や俺に深追いさせまいとしたなんて、迷惑な話だよ。ま、結果的にそれがあいつの将軍人生の寿命を早めたんだがな。」
2人とも、もうカースに対して敬語なんて使っていなかった。今日は積極的に動けることを強みに、光日の国沿いの陰陽の狭間を探訪していた。
イ「相変わらずサリエル、いやさん付けすべきかな?とにかく、また早駆けの技術を上げたな。」
サ「サリエルでいいです。そうですか?なんかこないだ放送局に走ったときから、また50m走の記録が上がったんです。7.6秒が6.9秒ですよ。家族からはまた超人化したねって言われます(笑)(基本寮生活だが、家族との連絡や一旦の帰宅は自由。)あ、私はなんて呼べばいいですか?」
イーリスは少し考え、
イ「普通にイーリスでいいよ。堅苦しくしなくていいし。」
サ「分かりました、イーリスさん!」
サリエルは微笑みながらそう言った。ただし走ったままで!
イ「もうサリエルの早駆け技術にはほとほと感心しかないよ(汗)。」
(※現女子日本最速記録は6.47秒です。〈Wikipedia参照。〉しかもその速度を長時間維持して、且つ会話も成立して、さらに微笑んでいることから、その体力と瞬発力はまさに超人ものですね(笑))
サ「えへへ(照)」
結構、笑うとサリエルは可愛らしい顔をする。見た目は完全男にしか見えないが、そこが女の子らしい。年齢を聞くなどという無粋な真似はしないので年は分からないが。
サ「おっと!」
サリエルは幅跳びのような格好をして止まった。しかも息切れしていない。まさに超人(笑)マルースは勢いよく止まった。
イ「どうした?」
サ「しっ!何かいます!」
また、手を横に出した。
ガサッ、ガサッ。
何か草むらが揺れる音がした。
サリエルはゆっくり忍び足で音に近づく。マルースもこっそり後に続く。
イ「いや、降りた方がいいな。」
イーリスもマルースから降り歩き出した。
サ「ここですね。」
音の出所らしきところまで近づいた。かなり小さなものらしい。サリエルがこっそり近づき、虫を掴むようにがばっとうつ伏せになった。しばらくそのままでいたが、ふっと立ち上がると、
サ「これですね。」
イーリスに見せた。それは、小さなドラゴンのようだった。おそらく子供のドラゴン、ドラゴネットだろう。容姿から、月光龍と判断した。
サ「なんでこんなところに迷い込んだんでしょうか。」
そこは陰陽の狭間。別に月光龍が迷い込むことも特段珍しくない。しかし、ドラゴネットが来ることは少ない。
イ「とりあえず保護しよう。…っておい、こいつ怪我してるぞ!」
足に大きな傷が見えたのだ。それなら問題ないが、その怪我はこのあいだのドラゴンのように光日の国の罠にかかって火傷をしていたものだったのだ。おそらくカース将軍の一隊が仕掛けたものだろう。しかもタチの悪いことに、毒まで盛られていたらしく腐りかけていた。
サ「え、どうするんですか!?」
イ「この近くに、治癒の泉がある。そこで治療しよう。」
再び得意の早駆けで泉まで走った。治癒の泉は陰陽の狭間の中央に位置する。なので、太陽龍も月光龍も治療に使うことがある。ここでは皆平等だ。
サリエルは早駆けで一足先に治癒の泉に着いた。月光龍も何頭か見える。
サ「心配ないです、イーリスさん。来てください。」
さすが囮隊員。安全確認をして、イーリスを誘導する。
サ「どうするんですか?」
イ「マルースの力を利用する。」
マルースの尻尾の球は、光ることで応急処置だけでなく治癒の泉の効力を上げることができる。事態を窮することだ。光日の国に連れ帰っても間に合わない。かといって、ここの泉に浸すだけでもこの重症は治りそうにない。そこで、マルースの能力、治癒の光を使って効力の底上げ、また治癒の促進を図るつもりだ。
早速泉にドラゴネットを沈めた。
イ「よし、マルースいけ。」
ぱあ――。尻尾の光が泉に照り始めた。傷が徐々に癒えていく。5分も経つと、もう立つこともできるまでに回復した。
イ「よし、これでいいな。だが、念のために本部にも連れて帰ろう。」
サ「はい。」
2人はドラゴネットを手に抱え、本部に帰った。
ヴ「…何?月光龍を保護した?」
まずはヴェスティーア部隊長に報告した。
イ「はい。応急処置はとりましたが、念のため大事を持ってここでしばらく面倒を見たいのですが。」
ヴ「俺は別に構わんが、医学長がうんと言うかな…。」
ヴェスティーア部隊長は了承を渋った。
サ「そんな悠長な事を言っている場合ではありません!無理矢理にでも認めさせてくださいよ!」
サリエルはヴェスティーア部隊長をせき立てた。
ヴ「そんな無茶苦茶な…。」
イ「今このドラゴンは月光龍でも太陽龍でもありません!怪我をしたか弱きドラゴネットです!太陽龍軍だからと言って、怪我をした月光龍ドラゴンを差別するのはおかしいと思います、間違ってます!」
そうイーリスから指摘をされ、ヴェスティーア部隊長は折れた。
ヴ「…分かった。俺もなんとか頑張ってみる。ただし、元気になったらもう俺は責任を取らんぞ。それは覚悟しろ。それが、ドラゴンを保護すると言う事だ。」
イ・サ「覚悟はしております!」
こうして、2人はドラゴンの保護を認められた。ドラゴンが元気になると、2人の部屋に連れて行った。
サ「ふふっ、可愛いですね。」
イ「だね。」
それを2人でしばらく愛でていたが、ふとサリエルが、
サ「どうせなら、この子に名前を付けませんか?イーリスさんが。」
イ「いや、見つけたのはサリエルだから、サリエルが付けるべきだよ。」
サ「そんな、私なんかが付けても…。」
そんな事を言っているうちにも時間は過ぎるだけなので、2人で決めることにした。
サ「実はもう見当付けてるんですよね、名前。」
そう言うと、イーリスも、
イ「奇遇だな。実は俺もだ。」
サ「じゃあ、『アスラ』でどうですか?」
イ「え…俺もその名前を考えていたんだが…。」
まさかの一致。
サ「な、なんでその名前に…?」
イ「いや、偶然だが…サリエルは?」
サ「わ、私も…。」
2人とも、ふと思いついた名を口にしていたのだ。
サ「じゃあ決まりですね。この子の名前は、『アスラ』ですね!」
イ「そのようだな。今日からよろしく、アスラ!」
ア「ギャアア!」
アスラはイーリスとサリエルの足元にすり寄った。名前を気に入ってくれたのだろうか。
サ「っ!!か、可愛い…//」
サリエルは顔を赤らめた。また女の子らしいところを見せた。
サ「でも、月光龍なんですよね、この子。表沙汰にするわけにもいきませんし、どうしましょう。」
サリエルはアスラの身を案じているようだ。
イ「ここに1人残すわけにもいかないし、小さいうちはごまかせるけど、大きくなったら皆に言うかな…。」
サ「それではますます反感買うだけですよ。何故今まで黙っていたのかとか、色々言われかねません。もう覚悟決めて、次の朝礼の時に皆に言いましょう。」
そこで、みんなに翌日アスラのことについて言うことにした。
イ「…と言うことで、このドラゴン、アスラの保護を許可して欲しくて、今日話しました。」
イーリスは皆の前で、無論新将軍の前でも述べた。新将軍の名は『プルトゥ』と言い、カース前将軍の財閥に入っていない人間だ。カースよりも結構若手の将軍だ。
プ「…ふむ。よくぞ言ってくれた。ドラゴンの種族の垣根を越え、その保護を自ら申し出るとは。その覚悟、並大抵のものではなかろう。良かろう、認めよう。皆の者!今後はこのドラゴンもといアスラに、太陽龍だから、月光龍だからと言う事なく、分け隔てなく接するように!」
プルトゥ将軍は許可してくれた。これがカースだったら、真っ先に不許可を出していただろう。
イ・サ「あ、ありがとうございます!!」
こうして、2人はあけっぴろげに隠す事なく、アスラの世話を認められた。
登場人物
プルトゥ
太陽龍軍新将軍。比較的イーリスの自由行動には寛容。
アスラ
イーリスが偵察で光日の国の国境沿いで保護した幼いドラゴネット。