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第3章 陰陽の狭間の異変

2人の扱いはその後、変わることはなかった。そんな矢先、カース将軍より緊急の招集があった。陰陽の狭間にて、月光龍が暴れているとのこと。早速2人は向かう。

 それから翌日経っても、未だ2人の扱いは変わることはなかった。雑用仕事をしている時。

 イ「なんか、すまないな。俺が恨まれて俺自身の出世がなくなるのは勝手なんだが、そのせいで部下のお前にまで迷惑かけて…。」

 サリエルは首を振った。

 サ「いいえ。大丈夫です。こんな扱いはもう慣れていますので。」

 イーリスは怪訝な顔をした。

 サ「実は私、姉が1人いるんです。私よりも姉の方が優秀で、私はいつもついでやおまけ扱いでした。ですので、実力主義のここに就職することに決めたんです。いつか、あいつらを見返してやりましょうよ!高い地位に乗っかって踏ん反り返っている将軍もどきの悪漢を!」

 口が悪いのは相変わらずだ。

 イ「あ、ああ、そうだね…。」

 サ「あなたがいくら世間から恨まれても、私はあなたの部下です。何があろうと、全力で付いて行きます!私だけは、あなたの味方ですからね!」

 嬉しいことを言ってくれる部下だ。

 今日は、陰陽の狭間で弓矢の訓練を行うそうだが、これにも2人は参加しなかった。いや、参加できなかったと言った方が正しい。

 ヴェスティーア部隊長が(カース将軍の命令で)許可しなかったのだ。彼も泣く泣く許可しなかったのだろう。掃除の為に彼の部屋に近づいたら、声を殺した泣き声が聞こえたからだ。

 サ「…はあ、やっぱりカースは私たちを意地でも戦場に出さないつもりなんですね。まったく、腹立つったらないわ。」

 サリエルはぶつくさ文句を言いながらも仕事はこなす。

 イ「仕方ないさ。今は許可が出るまで一生懸命に仕事をこなすしかない。」

 正午頃になったとき。

 ヴ「おい、お前ら大変だ!太陽龍軍全員に、招集命令が出た!無論、お前らにもだ!」

 2人「!?」

 ヴェスティーア部隊長がドアを勢いよく開け入ってきた。突然の成り行きに、2人は戸惑いを隠しきれない。

 3人は本部のところに走った。イーリスは走りながらヴェスティーアに尋ねた。

 イ「招集命令って、どういうことですか!?しかも、私たちにもって!?」

 ヴ「まだ詳しくは聞いてないんだが、急を要することなんだそうだ。本当は、お前らは将軍は出したくなかったそうだが、そうも言ってられなくなったんだと。」

 そこまで急を要することとはなんなのか。

 3人は部屋に着いた。

 ヴ「偵察兵イーリス、囮兵サリエル、今ここに到着しました!」

 そう呼ばれると、今頃軍人として認められたんだと悔しく思った。しかし、それ以上に嬉しさもあった。

 カ「わざわざご苦労だった。ここにお前らを呼んだのは他でもない。お前らに、初めての実戦を行ってもらいたい。」

 今まで誰が実戦をさせてこなかったのかと思ったが、2人は黙っていた。

 サ「実戦とは…?」

 カ「うむ。本日は我が軍の弓矢の訓練を行っていたことは知っているな。実はそこに巨大な月光龍が現れ、暴れているそうなんだ。それを収めて欲しいとのことだ。」

 巨大な月光龍?何が何だかさっぱりだったが、とりあえず行ってみれば分かると思い、2人は承諾した。


 イ「急げ、飛ばせ、マルース!」

 マ「ガオオ!!」

 イーリスはマルースにまたがり猛スピードで陰陽の狭間に向かった。その先を、サリエルがそれを上回るスピードで飛ばしていた。

 イ「見かけによらず、素早いんだね。」

 イーリスは正直な感想を述べた。

 サ「私、これくらいしか取り得ないんです。自慢じゃありませんが、早駆けは得意なんですよ。」

 それを走りながら言うもんだから、持久力は大したものだ。

 サ「見えてきました、あそこが陰陽の狭間です!」

 その速さ、30分もかからなかった。そこには、遠巻きから見ても分かるほど超巨大なドラゴンが暴れている。

 そのすぐ近くまで来ると、サリエルはスピードを落とし始めた。それに合わせ、マルースも速度を弱めた。そして2人が止まった時には、もうドラゴンの足元の近くまできていた。しかも、そこまで走っておいてサリエルは一切息切れしている様子を見せない。凄まじい身体能力だ。

 サ「あれですね、暴れているドラゴンというのは。」

 サリエルは護衛のように手をマルースの前に持っていき、そう呟いた。そのドラゴンは猛虎のごとく猛り狂っていた。その周囲には太陽龍軍がいるが、太刀打ちできていないようだ。

 サ「どうします、私たちで勝ち目ありますでしょうか。」

 サリエルは手をそのまま動かさずにそう尋ねる。

 イ「いや、あれは何かおかしいな。」

 そう言うと、サリエルをマルースに乗せた後自身も乗って飛び上がらせた。そして、ドラゴンの顔下に近づいた。

 サ「どうしたんですか?」

 イ「怒り狂っているにしては妙だ。しきりに何かを守ろうとしている感じに見える。あの仕草は…。」

 イーリスは必死に思い出した。マルースの幼き頃や、触れ合ったドラゴン達のことをー。そして再度ドラゴンと目が合ったとき、ついに思い出した。

 イ「まずい!おい、今すぐ降下しろ!このままでは、取り返しのつかないことになる!」

 マルースは指示を聞き、大至急地面に降り立った。そして、サリエルを床に下ろすと。

 イ「あのドラゴンは怪我をしている可能性がある!傷口を探すんだ!」

 そう叫んだ。

 サ「は、はい!」

 サリエルを先陣に、傷口を探すことになった。その道中。

 サ「怪我をしているって、どういうことですか?」

 イ「あの仕草を見て、昔を思い出したんだ。」

 それは、マルースと出会ってすぐの頃。

 マルースが黒鉛を誤飲して苦しみ悶えたことがあった。太陽龍にとって黒い物質は危険だ。大至急胃の洗浄をして、命は助かった。しかし、それ以降マルースは黒い物質を見ただけであの時のような仕草をするようになったのだ。

 イ「あのドラゴンの仕草は、あの時と似ている。苦しみ悶え、しきりにそこを探そうとする。あのドラゴンはおそらく何かを誤飲したのではなく、何かが体に刺さってそれを取ろうとしているんだ。そして、それを太陽龍軍が邪魔をしていると思い、攻撃しているんだ。あの攻撃は怒りからくるものではない。」

 サ「…え?」

 そして、後を続けた。

 イ「苦しみから来る自己防衛だ。」

 そして2人はドラゴンの周囲をグルグルと回った。そして。

 サ「見つけました!ここです!」

 そこはドラゴンの左足だったが、その脛の部分に矢が刺さっていたのだ。

 イ「これか!急いで処置しないと。…ん、これは…。」

 イーリスは、何かに気づいたようだ。

 サ「どうかしたんですか?」

 イ「そしてこの葉っぱは…ははあ、そういうことか。こいつが暴れた原因が分かった。」

 1つ葉っぱを摘み取り、確信したように言った。

 イ「その前に、こいつの処置が優先だ。ちょっと協力してくれ。今から毒抜きをする。」

 サ「え、ど、毒抜き!?」

 イ「早くしろ!取り返しがつかなくなる前に!」

 サ「え、でも毒抜きの技術あるんですか!?」

 イ「簡単な処置くらいはできる!とりあえず近くにある川から水を汲んで来い!器は…これでいい!」

 イーリスはサリエルに近くにあった捨てられていたタライを投げた。サリエルはそれを見事キャッチすると早速向かった。

 イ「よし、こっちも準備するか。」

 そして上空に上がると。

 イ「みんな――、攻撃をやめろ――!今から毒抜きをする!こいつから離れるんだあーー!」

 思いっきり叫んだ。

「な、何!?」「毒抜き!?」「あいつ何を考えてるんだ!?」

 一同皆動揺している。ヴェスティーア部隊長が飛んで来る。

 ヴ「ば、馬鹿やろ!お前一体何を考えてるんだ!」

 イ「こいつは矢に刺さって苦しんでいるだけなんだ!そいつを取り除けば、こいつは大人しくなる!頼む、手遅れになる前に!」

 そうイーリスは真剣に訴えた。そう言うので。

 ヴ「…確信はあるんだろうな。」

 イ「はい、矢も発見しました!」

 そうして、ヴェスティーア部隊長は許可した。

 ヴ「おい、この中に医学に富んでいる奴はいるか!いたらこいつの手助けをしてやれ!」

 前回書き忘れたが、部隊には兵やドラゴンの治療をする『医学隊』も存在する。

 イ「…た、隊長?」

 ヴ「お前1人に任せたら、俺の首が飛ぶだけじゃ済まねえからな。やるなら成功させろよ。」

 イ「は、はい!ありがとうございます!」

 こうして、ドラゴンの毒抜きを始めた。

「ああ〜、こりゃひどいな。なんでこんな草なんか誤飲したりしたんだ。」

 やはり、あの葉っぱが原因の1つのようだ。

 イ「何とかなるか?」

「余裕。簡単な処置でいいよ。幸いだったな。もう少し事実発見が遅れたら、これじゃ済まねえぞ。」

 サ「水持ってきました!」

 サリエルも帰ってきた。

「よーし!いっちょ始めっか!」

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