第16章 囚われのイーリス
一方、こちらは一足早く落下していったサリエル。
ヒュ――、ドスン!
グライダーが破けたので自由に動けず、うつ伏せに倒れ落ちた。
サ「痛ったたた…。酷い目にあった…。」
そこに。
ピシュン!シュタッ。
パラシュートを付けたヒュペリオが降り立った。
ヒ「いやあ、けったいなことになりよったなあ。怪我はないか?」
サ「…。」
ヒ「ん、どないしたん?怪我が痛むんか?」
サ「相変わらずヒュペリオさんって、分かりませんね…。」
ヒ「?」
サ「いえ、なんでもないです。」
その直後。
「グワァ――ッ!!」
ドスン!
ドラゴンが降ってきた。マルースだ。
ヒ「な、なんや!?」
サ「あれ!?イーリスさんは!?」
そう、落ちてきたのはマルースだけだったのだ。
ヒ「さしずめ、あの闇夜族に連れ去られたかなんかやろな。イーリスはんも落ちてくる気配ないもんな。」
サリエルは膝から倒れ込み、啜り泣き始めた。
サ「…ううっ、イーリスさん…。…わ、私のせいだ…私が庇ったりしたから…。」
ヒ「そんなことしとる場合か。早うマルースはんを手当てせなあかんとちゃうか?無論、その破けたグライダーもや。」
サ「で、でも、どこに運べば…。」
ヒ「とりあえずは、あの治癒の泉でええやろ。応急処置としてはな。」
その時、懐から例のクラムポンが現れた。サリエルが正式に飼うことになった、カプリコンだ。
ヒ「いつの間に紛れとったんか。」
そして。
ゴオン、ゴオン、マルースの足元の床を叩き出した。そのわずか10秒ほど後、
カタカタカタカタカタカタ…
森中の木という木の脇から大量のクラムポンが現れた。
ヒ「わっ、気持ち悪!」
カプリコンは仲間のクラムポンに何かジェスチャーをするかのごとく、腕を上下に振り始める。その後、仲間のクラムポンはマルースの体の下に平たい腕を仕込んだ。
ク「ギーコ、ギーコ、ギーコ!」
鳴き声だろうか。変な声を出し始めた。すると、マルースに異変が起こった。ゆっくりと持ち上がってきたのだ。
ヒ「そうか!このマルースをでっかい岩に見立てたんか!クラムポンはチームワークがある生き物や。目の前に粉砕できないほど大きな岩があると、仲間同士で持ち合い、外に持って行ったり地底湖に捨てたりする習性があるんや。えろう上手い事考えよったなあ。蟹のくせしてなあ。」
マルースが30センチくらい持ち上がると、今度は手で支えたまま体をマルースの体の下に入れた。そして、全員中に入るとゆっくりと動き出した。
ヒ「よしっ、行くでえ!」
サ「でも、どうやってクラムポンを誘導するんですか?」
ヒ「それなら抜かりない。クラムポンは目が悪いんや。だから音の反射で自分のいる位置を理解すると言われているんや。なら、音を出し続けていればクラムポンを誘導できるという寸法や。」
そういうと、ヒュペリオは小さな銅鑼を出し、手で叩き始めた。
ボーン、ボーン。鈍い音が響く。
サ「ど、銅鑼!?なんで普通に持ってるんですか!?」
ヒ「ドラゴンの威嚇用や。」
その銅鑼の音に反応し、クラムポンはヒュペリオについて行くように歩いた。
ヒ「うっし!これで治癒の泉まで誘導するで!」
2人と一体と数十匹は森の中に入っていった。
「う、ううーん。」
一方こちらは、さらわれたイーリス。
イ「一体、何があったというんだ…。」
中にいたのは、薄暗い牢獄っぽいところだ。
イ「くそっ、闇夜族め…。こんなところに監禁しやがって…。」
「おい、お前。」
いつの間にか扉が開いていた。今の独り言を聞かれたのではないかと心配したが、その闇夜族はスルーするかのようにイーリスに話しかけた。
「龍王様がお呼びだ。立て。」
手には手錠が掛けられていた。イーリスは蹴飛ばしたい思いでいっぱいだったが、ここは大人しく従うことにした。
そして、大きな扉の前に立たされた。上の表札には、こうあった。
『龍王の間』
「龍王様、連れて参りました。」
「…入れ。」
扉が勝手に開いた。闇夜族と一緒にイーリスも歩き始めた。中には後ろ姿ではあるが威厳を感じる巨大なドラゴンがいた。
「龍王様に危害を加えられたら困るからな。」
闇夜族はそう言い、近くの柱に手錠を付け、イーリスを固定した。そして、部屋を出て行った。
闇夜族が出て行くと、龍王は振り返った。
イ「…龍王。」
「…我が名は、月光龍王『ジュノース』である。」
ジュノースはそう答えた。
イ「ジ、ジュノース…。」
イーリスは視線を落とした。その名を聞くと、昔の記憶が蘇ってくるような感じがした。
イ「ええ、覚えていますよ。あなたの名前は。」
イーリスは顔をゆっくりと上げると、
イ「私の父上を殺した、憎き相手であるとね!」
そう叫んだ。
ジ「…。」
イ「なんとか言ったらどうです。龍王ジュノース。私はあなたが許せません。龍王に似つかわしくない卑怯な手を使い、私から父上を奪った。この鎖が無ければ、今ここであなたを刺し殺しているでしょう。あなたがやったことですよ。暗殺ですよ。」
ジュノースは恨み節を暫く黙って聞いていたが、一通りイーリスが話し終えると、
ジ「言いたいことはそれだけか?」
そう呟く。
イ「どういうことですか?」
ジ「ならば、我輩からも言わせてもらう。貴様が本当に我輩を憎んでいるのならば、何故我輩を敵に回さなかったのか?巨龍異変でもお前はあいつを見殺しにすることもできたし、今回のことだって大人しく宣戦布告を受けていれば、我輩を討つこともできたはずだ。何故、余計なことをして我輩から距離を遠ざけようとしたのか?」
イ「あなたに何が分かるんですか。」
イーリスは一呼吸置くと、
イ「私は幼い頃からドラゴンが好きでした。ドラゴンが罠に落ちた時も助け出して、叱られたこともあります。だから、ドラゴンが困っていた時は助けてあげる。それが龍契士というものではないですか?」
ジ「…貴様ならそう言うと思っていた。よかろう。あの時起こったことを教えてやる。」
ジュノースは、父オケアーノの死の真相を話し始めた。
登場人物
龍王ジュノース
月光龍軍の王。第2話にて、イーリスの父をさらった。




