第14章 決戦に向けて
それから数ヶ月が経った。
突如、ヴェスティーア部隊長がイーリスを含む偵察兵さらに囮兵全員を呼び出した。
イ「全員集合なんて、何が起こったんだろうな。」
「知るか。ただ、何か大きい事態なのは確かだな。」
一同、訓練室に着いた。そこには、真剣な趣のヴェスティーア部隊長がいた。
「一同、皆います!」
ヴ「そうか。いいかお前ら、今から重要なことを言う。心して聞け。」
そう前置くくらい何か深刻な事態なのか。
「一体、どうしたんですか?」
ヴ「実は将来的に、光日と闇夜の国の全面戦争が起こるかもしれないんだ。」
「ゑ"ゑ"!?」
「ダニィ!?」
突然の急展開に、みんな驚きの声を上げる。
ヴ「なぜ急に、と思うかもしれない。俺だってそうだ。まあ、事情を言わないことには納得しないだろうから、今から経緯を説明する。」
ヴェスティーアの話によると、こういうことだ。それは今から数週間前、陰陽の狭間である1人の光日族が。
「な、なんだお前!」
「グガア!」
突然、月光龍が襲いかかって来たのだ。男は驚き、急いで近くの木を掴み、ドラゴンに投げたのだが。当たり所が悪く、目に直撃してしまったのだ。その龍は全治5ヶ月の重傷を負い、闇夜族は賠償を求めた。しかし、男は正当防衛を主張した。だが、闇夜族はそれを認めず、これをきっかけに光日族に宣戦布告を申し立てた、ということだった。
ヒ「…とまあ、これは表向きの理由な。」
ヴェスティーアの話が済んで部屋に向かった2人をヒュペリオが呼び出したのだ。今3人がいるのは、光日の国の近場のカフェ。
イ「だとしても、一応相手側の言い分も分からなくもないですが、なぜ正当防衛を認めなかったんでしょうか。」
サ「そりゃそうですよ。月光龍が死にかけたのに、正当防衛で終わらすわけないじゃないですか。」
ヒ「まあ、相手はそう言うわな。でもなあ、ここからがまだどこにも漏らしとらん極秘情報なんやが。」
ヒュペリオは声を潜め、2人はさらに近づき、
ヒ「こりゃ、闇夜族の陰謀なんやないか、て説も考えとるんや。」
イ・サ「陰謀?」
ヒ「まあ、何の根拠なく言うてる訳やのうて、ちゃーんと理由もあるんや。わいはドラゴン記者をやる前は考古学者をしとってな。二つの国の歴史を調べとったんや。」
それについて話し始めたが、関西弁で話しても訳が分からないので、ここからは常体で話そう。
まず二つの国の背景だが、もともと温厚な人の多い光日族と比べ、闇夜族には荒くれが多い。光日族は二つの国の共存を望んでいるが、闇夜族は光日の国を占領して環境を作り変えようと考えている。その価値観の相違が長年の戦争の引き金となっている。
ヒ「そんな中起こったのが、あの巨龍異変や。確かにあの異変のきっかけはカースや。しかし、それ以前にその計画を提案したのは、闇夜族なんや。」
こちらも、表向きの理由は双国の繁栄だ。しかし、光日の国の乗っ取りを考えている闇夜族はカースの性格を利用し、こちらが戦争を仕掛け易くなるよう誘導したのだ。当初の計画通り月光龍の巨大化が起こり、太陽龍軍が出動した。その日、太陽龍軍による弓矢訓練が行われることもあらかじめ知っていたので、そこにいた兵たちが軍の救援を要求してくることも分かっていた。
と、ここまでは予測していた。しかし、一つだけ誤算があった。イーリスがドラゴンを助けたことだ。本来の計画はドラゴンを殺害した太陽龍軍に、それを理由に攻め込むつもりであった。さらに、それがきっかけでカースも退陣に追い込まれてしまった。これで、月光龍軍は光日の国に戦争を仕掛ける理由がなくなってしまった。
この事件は光日の国だけでなく闇夜の国でも大いなる衝撃をもたらした。月光龍はイーリスを讃えたが、先ほども言った通り、闇夜族には荒くれが多いので、光日の国との戦争を望む世論が多かったために、闇夜族は余計なことをしたということでイーリスを非難した。
当時の月光龍軍将軍は光日の国との戦争に消極的だったので、闇夜の国は積極的に戦争を仕掛けようという対抗派と、光日の国との関係を守ろうという保守派に分裂してしまったのだ。巨龍異変から3ヶ月後、対抗派がクーデターを起こし、全面戦争も辞さない完全対抗派の将軍の大臣『カリラ』が将軍の座についた。
ヒ「そんな歴史的背景があるから、今回のこの事件も陰謀だと踏んとるんや。」
ヒュペリオの長き説明が終わった。
サ「…もしその通りなら、いい迷惑ですよね。でもヒュペリオさん。何でそんな大事なことを私たちなんかに言うんですか?もっと重要な方に伝えた方が…。」
ヒ「わいはドラゴン以外には興味ないし、人間のドロドロした関係も嫌いやしな、憶測で記事は書きたくないんや。でも、あんたらは知らん仲やないから、一応伝えたかっただけや。まあ、信じるか否かはあんたらの勝手やけどな。」
その時、
「ご注文いかがですかー?」
店員がやって来た。するとヒュペリオは、
ヒ「おやっさーん、いつものを三杯!」
「かしこまりましたー。」
言ってもないのに、ミルクコーヒー三杯が運ばれて来た。
ヒ「さ、これはわいの奢りや。飲みやー。」
サ「…もしかして、ヒュペリオさんここの常連ですか…?」
「ヒュペリオさん、今度はどんな話を聞かせてくれるんですか?」
先ほどとは別の女性店員の1人がヒュペリオに話しかける。
ヒ「おおっ!何ならな、また奥の席で話そうや。ほなあんたら、また後でなあ。」
ヒュペリオは店員とともに席を移動した。元いた席には、きちんと料金が置かれていた。2人はヒュペリオの方を見ると、
「それでそれで、今回の話題は?」
ヒ「せやなあ、あんさんの好きなドラゴン闘技場での珍現象の話はどうや?」
「へえ!何かあったんですか!?」
ヒ「新聞記事ではあのドラゴンのボケが当たり障りのないことのように書かれてるやろ?でもな、その裏ではこれがあってな…。」
ヒュペリオは店員にネタ帳を見せ、店員はそれを見てくすくすと笑う。それを見ていた2人は呆れ苦笑い。
イ「ヒュペリオさんって…。」
サ「よく分かりませんね…。」
ヒュペリオらのドラゴン談義は当分続きそうだ。2人はカフェを後にした。
その帰り道。
イ「あの言い分だと、闇夜族は何が何でも戦争に持ち込みたいようだったな。」
サ「ええ。しかもそれでクーデターですよ。普通じゃありえませんね。」
2人は考え込んだ。
イ「…しばらくの間は技の技術を鍛えておいた方がいいのかもな。」
サ「でしたら、私も一緒に付き合いますので。ね!」
ビュンッ!
サリエルはいきなりダッシュし始めた。
イ「ちょ!?ま、マルース!!」
イーリスは急いでマルースにまたがると、猛スピードで走るサリエルを追いかけ始めた。
サ「ほらほらぁ!まだまだ遅いですよ!」
イ「言ったな!見せてやる!俺たちの本気を!」
わざわざ人のいない道を選び、走り去った。昼下がり、1人の人影と一頭のドラゴンの影が猛スピードで過ぎていった。
登場人物
カリラ
クーデターにより新しく月光龍軍の将軍になった元大臣。




