第11章 その先には何が
出口が岩で塞がり、とりあえず先に進むことになった2人は、ある事実に気づいた。
イ「これ、人的に作られた道かもしれないな。さもなければ、二つの道が同時に崩落するなんてあり得ないし、ましてや俺らが通った後に奇跡的に助かったなんて偶然が続くはずがない。」
サ「ですよね。なんかおかしいと思ってたんですよ、私も。でも、何のために?」
イ「分からない。」
その時、
グルォ…
さっきのドラゴンらしき声がまた聞こえた。
イ「こっちだ。」
さらに奥に進むと、そこには地下水脈があった。
イ「なるほど。ここの水が浸水した原因か。という事は。」
ザバァ!
「グオオ!」
顎が巨大な頭でっかちなドラゴンが水の中から飛び出して来た。
イ「やっぱりお前か。『ダンクルオス』。」
それは洞窟の中に生息する水棲龍の中の一つの種族だ。ちなみにこの間戦った水棲龍は『リヴァイア』という。太陽龍と月光龍のどちらにも区分されないドラゴンは、このように固有の名が付けられるのだ。その多くは陰陽の狭間に生息しており、どちらの国にも生息数は少ない。使い龍には使えない代わりに、観賞用としてペットにする人もいる。それでも、ペットとして使えるドラゴンとそうでないドラゴンはいるが。
話を戻して、ダンクルオスは巨大な頭を持ち、この強靭な顎で獲物を襲う。しかし、その頭とは対照的に手は歩くより泳ぐために発達したものでヒレに近く、後ろ足は退化してほとんど突起のようなものになっている。尻尾も半分背びれのようになっている。(例えるなら、顔はサメ、体つきはムツゴロウ、大きさは大型犬くらい。)
半ば脱線してしまった。話をイーリスに戻そう。
ダンクルオスは浅瀬に大量に群がっていた。そこからも、この地下水脈の構造が分かる。と言うのも、ダンクルオスは深みのあるところに巣を作るからだ。つまり、この奥の地底湖は水深が深いと言う事だ。その先は暗くてよく見えないが、おそらく壁になっているだろう。
イ「単純に考えれば、ここから先は潜っていかないといけないな。どこから深みにはまるか分かったもんじゃないし。」
サ「そうですよね。…潜るんですか…。」
イ「他に迂回ルートがなければ、そうなるな。」
ダ「グオオ」
その時、ダンクルオスが一声上げた。見ると、普段は使われていない小さな穴があった。それは、人1人がやっと通れる大きさだった。
イ「いいけど、ここから出口に繋がっている保証もないし、何より行き止まりかもしれないしな。」
サ「とりあえず行ってみたらどうですか?それで行き止まりだったらまた戻ればいい話ですし。」
サリエルの言葉で、イーリスは決心した。マルースは穴の入り口で待たしておくことにした。あかりは懐中電灯を使用することにした。あらかじめ持っておいていたのだ。
しばらく進むと、
カーン、カーン。
あの、金属音が聞こえて来た。
イ「これかな?洞窟から聞こえて来た音って。」
サ「なんで入り口近くまで聞こえて来たんですかね。」
イ「進んで来てて気づいたんだが、この洞窟は水以外に音を遮るものがない。この壁自体も、かなり音が響く。だから、おそらく音が反響を繰り返して入り口近くまで聞こえて来たんだと思う。」
声も少し反響している。
サ「でも、こんな狭い穴で誰が何をしてるんですかね?」
イ「さあ。」
奥に進むにつれ、その音は大きくなっていく。音の原因が大体掴めてきた。
見ると、洞窟の奥の方に天井に頭が付きそうな程大きな蟹のようなものが、壁をしきりに叩いていたのだ。その際にあの音も鳴る。これが、音の原因だ。これは『クラムポン』という種類の蟹で、巣穴を作るために岩を崩してそれを背中にまとってヤドカリのようになる。見たのは1体だけだが、暗くて気づかなかっただけで天井にも大量にクラムポンがいたに違いない。ところどころから音がしたのもこういう訳だ。
イ「こいつか。原因は。まあ、人が関係していなくてよかったとでも言うべきか…?」
サ「でも、原因が分かったとはいえ、未だにあそこから出る事はできない状況ですよ?」
イーリスは一つ考えが浮かんだ。
イ「おい、ちょっとお前を借りるぞ。」
イーリスはクラムポンを掴むと、後ろに下がって戻るようサリエルに告げた。戻る最中はクラムポンはおとなしかった。
穴から抜け出すと、マルースが2人を受け止めた。
イ「クラムポンにあの岩を壊させて見るんだ。無論、一体だけじゃ無理だから仲間も呼ぶ。」
その後イーリスは何を思ったか、ダンクルオスの頭をクラムポンに叩かせ始めた。ボーン、ボーンと鈍い音が響く。
サ「何をしているんですか?」
イ「クラムポンは、低い音に惹きつけられる性質があるんだ。これでなんとか来てくれればいいが…。」
予想はなんと的中、あたり一面からクラムポンがわらわらと群がってきた。あとはイーリスたちの後をずらずらと付いてきた。
イ「ああ見えて仲間意識が強いんだ。だから、一帯を囮に使った訳さ。」
サ「なるほど。」
そして、先ほど塞がったところまで連れてきた。クラムポンをそこに放つと、岩をしきりに叩き始めた。それに合わせて、仲間も合わせて岩を攻撃した。
カン、カカン、カン…
それがだんだんタイミングが合ってくると、岩に亀裂が入ってきた。やがて、
ドゴオ――ン!
岩が崩れた。向こう側には、
「おい、大丈夫だったか!?って、うおお!たくさんの蟹が!」
ヴェスティーア部隊長がいた。
イ「…って、ヴェスティーア部隊長!?なんでここに!?」
ヴ「どうしてもこうしてもあるか!陰陽の狭間の洞窟から轟音が起こったという知らせを受けたから、そこに向かったお前らの無事を確認しようとしたらこの有様だ!心配かけやがって!…でも、無事で何よりだった。」
イ・サ「ご迷惑をおかけしました…。」
ヴェスティーア部隊長に連れられ、2人は洞窟を出た。
ヴ「ああ、そうそう。お前らが留守にしている間に、進展があったぞ。あの暴走したドラゴンのことだが、その原因が掴めたぞ。犯人は『ドラゴンフルーツ』だ。」
イ「ドラゴンフルーツ!?」
それは肉食で凶暴な植物だ。陰陽の狭間で他の植物に寄生して育つ宿り木の一種だが、その宿主の精神状態を乗っ取って、勝手にその栄養を吸い取ってしまうたちの悪い植物だが、真の恐ろしさは動物に寄生した時だ。ドラゴンフルーツが意識の主体となるため、おとなしい動物も暴走してしまう程脅威な存在だ。
ヴ「その過程で人肉を口にしたことで、人の味と匂いを覚えたドラゴンフルーツが人を襲ったとすれば、全て辻褄が合うんだ。」
麻酔をしても動き続けたのは、意識の主体がドラゴンではなくフルーツの方だったからだ。いくらドラゴンの意識がなくても、こちらの意識があれば同じことだ。
イ「…もしそうだとすれば、ドラゴンの命が危ない!」
イーリス・サリエル・ヴェスティーア部隊長らは急いで光日の国に帰った。
登場人物?
ダンクルオス
陰陽の狭間の洞窟にある地底湖に住む魚龍。頭と体がアンバランス。
クラムポン
ダンクルオスの獲物の甲殻類型ドラゴン。岩を叩き、掘り崩した洞窟で暮らす。




