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第10章 最悪の事態

 急いで救護室に運び込まれたドラゴンは、丁重な手当てを受けた。

 イ「ドラゴンの具合は?」

「いやはや、すこぶる悪いですね。と言うのも、麻酔が効かないんですよ。正確には、効いても反応してしまうんです。どうやら、眠ったまま行動しているらしいんです。」

 イ「眠ったまま?」

「ええ。一種の夢遊病ですかね。しかし、それでは手当のしようもないので、座席に体を縛り付けた上手足を縛り、さらに口も縛ったまま手術しました。」

 その後の経過も悪く、人を見るたび襲おうとするので、地下室に監禁することにしたのだ。

 イ「…もしかして…。」

 イーリスは一つ提案をした。


 ヒ「へえ。わしがおらん間に、そんなことがあったんか。そりゃけったいなこったなあ。」

 サ「散々ドラゴンに付いてましたからね。」

 ヒュペリオはサリエルの部屋にいた。

 ヒ「ええやないの。で、あいつはどないしたん?」

 サ「なんか、やることがあるみたいですよ。」


「どういうことだ?」

 イ「今言った通りだ。あいつは、人肉を口にした可能性がある。だから、人に襲いかかったんだ。」

「じ、人肉!?」

 救護隊員は驚いた。

 イ「それを確かめるために、今から試す。」

 イーリスは一つの肉の塊を手に取った。これ自体はただの食肉だが、これを人間の血の中に浸している。そして、擬似的に人肉のようにしているのだ。

 イ「もしあいつが人肉を口にしているのなら、これを貪り食うはずだ。それで確かめる。」

 2人は檻の前に来た。この檻は闇結界を張っているので、ぶつかると大怪我をするのだ。

 イ「しかし、よくこんな無茶な作戦を許可してくれたよな。」

「また暴れられたら困るからな。」

 そして、餌置き場の小窓に肉を置いた。すると、

 ガンッ!ズドンッ!バカーン!グジャリ。

 檻の中から何か叩きつける音の後、かなり汚い音が聞こえて来た。

 イ「思った通り。こいつは人肉を喰ってる。それも何度も。」

「え、どうするんだ?」

 イ「これからのこいつの食事は、肉に人の血を浸したものを与えてくれ。ただし、日に日にその濃度は薄くして。こうして、人肉離れをさせる。さもないと、拒否反応で大変なことになる。」

「分かった。部隊長に伝えとく。」

 イ「しかし、精神異常でない限り、人肉を喰おうとは考えないはずだな。誰かが意図的に与えているか、人的に操っているかのどちらかだな。そこらへんもまた、調べててくれ。」

「了解。俺の同僚に伝えとくよ。」

 イ「まあ、俺も調査して見るがな。」

「おう。」

 そして、地下牢を後にした。ちなみにここ地下牢は、このように危険なドラコンを一時的に監禁するだけでなく人間用の牢には犯罪者も閉じ込めている。…とは言うが、それはあくまで非常に重い罪の犯罪者のみ。こちらのように死刑こそないが、ドラゴンとともに暮らさねばならないので、それこそ危険極まりない。なので、阿保でない限りは重罪を犯すことはほとんどない。え?カース?あれはただ権力に溺れただけでしょ?

 …話が逸れてしまったが、その後イーリスはサリエルと合流し、ヒュペリオを事務所に帰したらしい。

 サ「あの方、結構面白かったですよ。若干言葉遣いがうざったらしかっただけで、話す内容はとても興味深かったです。」

 イ「…ああ、それならいいんだが…。」

 サ「あ、そういえば彼の方、気になることを言ってましたよ。」

 イ「気になること?」

 サ「ええ。なんでも、ドラゴンの取材の最中にちらっと見ただけらしかったんですけど、あの辺りに小さな洞窟があったのですが、そこから妙な音が聞こえて来たそうです。」

 イ「妙な音?」

 サ「何か、カーン、カーンって金属を叩いているかのような音らしいです。」

 金属を叩くかのようなカーン、カーンという音…イーリスはそれが気になり、調査をすることにした。

 イ「でも、よくそんな音が耳に入ったよな。」

 サ「私と同じタイプなんです。素早くドラゴンを発見するためにドラゴンの鳴き声を聞き分ける力はあるんだそうで。それで小さな音も聞こえたんじゃないですか。」

 その時、イーリスの頭に一つの言葉が浮かんだ。『無駄な才能』。

 まあ、そんなことはともかく、とりあえずこのあいだのところに向かって見ることにした。


 サ「ここら辺だと言ってましたが…。」

 そこは小さな森で、ドラゴンの暴走のせいで木々が倒されているところもある。

 イ「しっかしいつ見ても酷い有様だな。見てていいもんじゃない。」

 中には蹴り飛ばされたのか、真ん中から折れ曲がっている木もある。

 サ「ええっと、洞窟は…あれじゃないですかね?」

 イーリスはその方を向くと、確かに小さな洞窟がある。

 イ「あんなところにあったかな?怪しいな。調べてみよう。」

 コツーン、コツーン。歩くたびに靴音が響く。

 イ「…なんでこんなに靴音が響くんだ…。革靴でもないのに。」

 サ「地質の問題ですかね?」

 そこら辺の発言にも、真面目に回答するあたりかなり出来る。

 その時。

 …グオオ…。

 遠くからドラゴンの声が聞こえて来た。それとほぼ同時に、

 ピシャリ、ピシャリ。

 水を踏んでいるかのような音もした。足元を照らすと、1・2cmくらいの深さで、水が浸水していた。

 イ「…ここは地下水が湧いてるのかな?ここの水も調べてみよう。」

 そう呟くとイーリスはマルースから降り、足元の水を採取した。その水は奥に進むにつれて深くなっているような気がした。ただし、増え幅はそれほど大きくなく、せいぜい5m歩くごとに1cmほど増え続けていくような感じだ。

 イ「しかし、かなり長い洞窟だな。こんなものがあったなんて知らなかったよ。」

 そのうち太陽光も入らなくなり、マルースの明かりが先に進むともしびとなった。

 サ「こんなに長いのなら、ライトメット持ってくるべきでしたね。今更手遅れですけど。」

 イ「ああ、だが、今は先を行くしかない。」

 地下水の水深はある一点を持ってそれ以上増えなくなった。ちょうどくるぶしあたりのところまでだ。途中、二手に分かれる道があった。

 サ「どちらに向かいます?」

 イ「よし、これを使ってみよう。洞窟調査だと言ったら、ヴェスティーア部隊長が貸してくれたんだ。」

 それは超音波で道を調べる道具だ。イーリスはスイッチを押すとまずは右の道に機械を向けた。

 ピ…ピ…。

 約15秒が経ち、音が跳ね返って来た。

 イ「よし、左に行くぞ。」

 サ「便利ですねえ。」

 左の道に進んだすぐ後、

 ドンガラガッシャ―――ン!!

 隣で物凄い轟音が聞こえた。急いで向かうと、道が岩で塞がっていた。

 サ「…本当に良かったですよね。」

 2人は安堵し、再び左の道を通ると、

 ズゴゴゴゴオン!

 今度は左の道が崩れた。幸い後ろの道が崩れたので怪我はなかったが、もう戻れなくなった。

 サ「…どうしましょう。もう戻れませんよ。」

 岩は頑丈で、簡単には壊せなさそうだ。まして2人やマルースの力で。

 イ「…最悪だな。でも、進むしかない。それで行き止まりなら、助けを呼ぶ。」

 2人はただ道を進むしかできなかった。

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