第1章 1人の龍契士(ドラゴニスト)
これは以前Pixivの方にも投稿した作品です。
用語
ドラゴネス・プラネット
ここでは、この物語の舞台。ドラゴンと人間が共存している星。星の中心をお互い下手に超えることはできない結界が通り、明るい表側に光日の国、暗い裏側に闇夜の国が位置する。時間経過(時分・年単位等)や季節はほとんど地球と同じ。ただし、日照時間は地域によって異なる。
光日の国
星の表側に位置する国。昼の方が夜より長いため、体が白い太陽龍族が住まう。ここに住む人間は、相手国からは光日族と呼ばれ、色白である。
闇夜の国
星の裏側に位置する国。夜の方が昼より長いため、体が黒い月光龍族が住まう。ここに住む人間は、相手国からは闇夜族と呼ばれ、色黒である。
陽陰の狭間
光日の国と闇夜の国の境にある空間。ここはどちらのドラゴンも体に支障をきたすことはない。表側の結界を渡ると光日の国に向かい、裏側の結界を渡ると闇夜の国に向かう。結界を渡ること自体に影響はないが、太陽龍族が裏側結界を通ることも、月光龍族が表側結界を通ることもできない。環境はどちらの国とも同じ。
ドラゴン
ドラゴネス・プラネットに住む生命体。鳥と鰐の混血である。2つの国の中にそれぞれ国家を作り、各龍族ごとにそこで暮らす。人間とは古来から関わって来ており、同じ国であればドラゴン国家と人間国家の渡り歩きは自由。誕生して3年が経つと使い龍になるための訓練を受けることができ、龍契士になった人間を待つ。
人間
ドラゴンとともに共存している、ドラゴンではない意思を持つ生き物。
(この星は地球ではなく、また別のパラレルワールドの話であるため、地球の人間ではないが、ほとんど変わらないためここでは地球人と同族とする。そのため、見た目もほぼ同じだし、雌雄の区別もある。)
18歳になると自分のドラゴンを持つことができるが、その免許を取るかどうかは自由。(車の免許みたいなもの。)また、どちらの星に住んでいても見た目はそれほど変わらない。肌の色は変わる。ドラゴン程ではないが地球人のような国家があり、そこでドラゴンと共存している。
龍契士
光日・闇夜の国に住む人間は、18歳になって成人すると、自分の国に住むドラゴンを使う免許を取ることができる。それにより、ドラゴンを扱うことを許された人間をいう。その後半年、使い龍と訓練をして共に暮らし、任命書を貰えば実際に使い龍としてドラゴンを扱うことができる。
使い龍
人間が成人し、龍契士免許を取った際に一番初めに得るドラゴン。若いドラゴンと契約をして、もらうことができる。乗り物代わりに使う他、力強い龍は力仕事に使うこともできるなど、龍契士にその用途は任される。基本、ドラゴンを変えることは許されないが、身体的原因(老衰や骨折・癌・重度の怪我等でドラゴンが亡くなった場合)に限り、選び直すことができる。ただし、多くの場合龍契士の方が早逝することが多いため、その時は再び使い龍はドラゴ二ストを持つことができる。
なお、龍契士は使い龍を選ぶことはできず、また使い龍も、好みの龍契士を選ぶことはできない。そのため、どんなコンビとなってもうまくいくよう、お互い熱心な訓練を積む必要がある。
太陽龍
・鳥と鰐の混血で生まれた龍族の中で、鳥を基調としたドラゴン。
・真っ白な体をしている。白い鷲のような翼を持つ。(ドラゴンというよりかは、鰐の牙と手と尾を持つ二足歩行の鷲。)
・尻尾の先には一回り大きな球体があり、これは個々によって形が違い、個体によっては特殊能力を使えるものもいる。
・光日の国を根城とする。なお、闇夜の国に長くとどまると羽が萎縮して腐ってしまう。
月光龍
・鳥と鰐の混血の龍族で、鰐を基調としたドラゴン。
・真っ黒な体をしている。鰐の顔とコウモリのような翼を持った、小型恐竜のような胴体をしている。(こちらで言えば黒いリザードンに近い。)基本四足歩行。中には上半身を起こして前屈姿勢をした個体もいる。
・尻尾の先には太陽龍族と同じく一回り大きな星型の瘤があり、これもまた個々によって形が違い、個体によっては特殊能力を使えるものもいる。
・闇夜の国を根城とする。なお、光日の国に長くとどまると羽が火傷し、燃えてしまう。
軍
太陽龍と月光龍は昔は互いに長年戦争をしており、国ごとに軍隊を作った。軍に入れるのは龍契士の中でも特に志願した者であり、年齢や性別ではなく技術で実力を決める。軍に入ると、本名とは別に軍名を付ける必要がある。軍内ではこの軍名で呼ばれる。ただし、軍名は自分で決めることができる。そして龍契士は使い龍とともに訓練を受け、ドラゴンライダーの称号をもらえる。
戦争
太陽龍と月光龍の長年の対立。なるべく人里に被害が行かず、どちらのドラゴンにも影響がない、陽陰の狭間で行われる。空中や水中の戦いを主とする。しかし、地上戦もないわけではない。その際はゲリラ戦や密林での戦いなど、環境に影響が少ない戦いとなる。ドラゴンの技量と、それを操るドラゴンライダーとのチームワークが問われる。互いに被害が大きくなり、戦争の継続が困難になると休戦講和を結ぶ。ただし、和平を結んだわけではないのでふとしたきっかけで再び戦争が起こることもある。
ドラゴンライダー
龍契士の中で、特に軍に勤める者の通称。階級が存在する。上下関係は厳しく、上の階級のものには目下であろうと敬う姿勢を見せなければならない。(ただし、階級が上だとしても敬語を使っても構わない。)
地球から遠く離れた星、ドラゴネス・プラネット。ここでは、ドラゴンと人間(のような種族)が共存している星。そして、ここは星の表側の国、光日の国と裏側の星、闇夜の国の境。そこに1つの像が建っている。その前に1人の少女がいた。見た目10歳前後に見える。
「…の…と、…の…を、…んだ…?ちっとも読めない…!」
その少女は、どうやら漢字が読めないようだ。
「気になるか?」
そこに一体のドラゴンが現れた。
「あなたは、だあれ?」
そのドラゴンは真っ白い体をしていて、尻尾に丸い玉をつけている。鷲の体をしているその見た目からして、太陽龍族だろう。
「俺は、こいつの知り合いさ。まあ、お前さんに分かればいいが、こいつは俺のご主人だ。」
「ご主人様?」
少女は首をかしげる。
「名前は『マルース』。お前さんは、なんでこんな国境にいるんだ?」
「マルースさん?私ね、この近くにみんなで来てたの。校外学習って言うんだよ。この近くにね、博物館があるのね、そこにみんないるの。」
マ「校外学習か。まあ、いいや、話を戻そう。お前さん、これに…俺のご主人に、興味があるのか?」
「うん、教えて!」
マ「…そうか。かなり長くなるが、聞いてくれるか。」
「うーん、もうすぐ集まるから、明日ね。」
どうやら、少女の自宅または学校はすぐ近くのようだ。マルースは了承し、
マ「そうか。詳しく知りたかったら、またここに来い。」
そう言い、2人は別れた。
翌日。少女は約束通りやってきた。
「あ、待っててくれてたんだね。」
マ「お前さんこそ、また来るとは思わなかった。その様子だと、話が気になったようだな。」
少女は深く頷いた。
「うん!家もすぐ近くにあるから、いつでも来られるよ。」
話を聞くところ、その博物館は家から歩いて行けるところにあるそうだ。
マ「それを聞いて安心した。幼いのに、まして少女がこんなことに興味を持つなんてな。まあ、昔話をしよう。」
そして、マルースは話し始めた。
マ「昔、1人の龍契士がいたんだ。そいつの名は、イーリスという。彼の偉業から、今はこう讃えられている。『光日の国と闇夜の国を結んだ英雄』と。」
イーリスは今から50年ほど前に光日の国に誕生した。その時付けられた名はミスリル。みんなに祝福されてこの世に迎え入れられた。父は太陽龍軍のドラゴンライダーで、名を『オケアーノ』という。なので、ミスリルは幼き頃からドラゴンと接していた。
そんなミスリル少年ももう今年で18歳、成人する年になった。
ミ「僕もドラゴ二ストになりたい!」
そう言ったので、父は承諾してドラゴ二ストになるための勉強を始めさせた。父譲りの実力で、筆記・技能試験は一発合格を果たした。試験官曰く、『ここまで成績優秀のものは何年ぶりか』というくらいの優秀さだったらしい。
ミスリルは、晴れて使い龍をもらうことを許可された。
マ「そこで、ミスリルと出会ったやつが、俺だったんだ。」
マルースは懐かしむように言った。マルース自身も、ミスリルと組むことは知らされていなかった。
「ふうん。じゃあ、運命の出会いだったんだね。」
マ「…運命の出会い、か。今思うと、そうだったのかもな。」
マルースはまた語り出した。
「それでは、人龍の契りを執り行う!」
これは、使い龍と龍契士の契約の儀式で、一番厳かな儀式だ。使い龍に自分の腕を噛ませ、使い龍の血を流す。すると、腕に龍の紋章が現れる。こうすることで、契約を履行したことになる。
マ「そりゃあ、あいつだって怖がってたさ。自分の腕を噛ませるんだからな。だが、そうすることで真の龍契士になれるんだ。あいつは我慢して、契約をした。」
一人一人紋章は違うそうだが、ミスリルの腕には、体を丸め円の格好をした白龍の紋章が現れたそうだ。
だが、契約をしてからが龍契士になるための本当の試練の始まりだった。お互い何の前触れもなく出会ったので、信頼を深めるために専用の施設で半年間共に暮らすのだ。こうして、龍契士として認められることになるが。これがまあ大変だった。
マ「あいつは正直、他の仲間もそうであったように駄目駄目なへっぽこ龍契士ドラゴ二ストだった。」
ミスリルはマルースに跨って乗りこなすまでに約1ヶ月はかかり、直接手渡しで食べ物を渡すまでにはそれの2倍の2ヶ月かかった。ドラゴンを怖がっていたわけではないが、積極的に行くことが苦手だったのだ。それに対し、マルースに至ってはガンガン攻めていく性格で、当初はお世辞にも仲が良かったとは言い難かった。その挙げ句、契約解消にまで発展しかけたこともあった。
そんな2人が変わったのは、ある事件があった時からだ。いつものように訓練をしていた時、
「ギャアア!」
突然、大きめの野良ドラゴン(おそらく太陽龍族)が現れてマルースをさらって行ってしまったのだ。(今こそ動物園の馬くらいの大きさだが、当時はまだ大型の犬くらいの大きさしかなかった。)それを管理官に報告すると。
「馬鹿者!今すぐ取り戻して来んか!双方無事なのを確認するまで帰ってくるな!」
一喝された。そう言われ、渋々ながら進むことにした。命令に背くわけにもいかなかったのもあるが、自らの不注意で起こした不祥事だという後ろめたさもあったのだろう。
マ「どんな理由であれ、俺を助けにこなかったら関係はなくなってただろう。だが、あいつはやって来た。草木で傷だらけになりながらな。」
長く歩き続け、ミスリルはマルースを発見した。野良ドラゴンが、マルースを手で押さえていた。
ミ「そ、そいつを離せ!」
声を振り絞り、そう叫んだ。
ドラゴンは手を離すと飛び上がり、白い火を吐いてきた。ミスリルはとっさに避ける。
「その程度のパワーで、こいつを守れると思うな!」
ドラゴンはそう嗾ける。口を聞いたところから、かなりの年長ものと言えるだろう。(ドラゴンが人間並みに口を聞けるようになるには、生まれて10年かかると言われている。当時のマルースはまだ生まれて3年しか経っていないため、口は聞けない。)
ミ「こいつめ、こいつめ!」
ドラゴンに太刀打ちできるとは思っていなかったが、咄嗟に石を投げて応戦し始めた。それを見たドラゴンは。
「うわーやられたー今日だけは見逃してやるから覚悟してろよー(棒)」
棒読みながら、そこを立ち去っていった。
ミ「マルース!大丈夫か!?…すまない、僕が不甲斐ないばかりにこんな目にあって…。」
幸い、怪我はなかった。
2人は管理官の元に戻った。そこには、あのドラゴンがいた。
2人「!?」
管「どうだ、自分の使い龍を助けることができた気分は。実は、これは私の使い龍、『テミス』だ。お前たちの絆を試すために、この試練を与えたのだ。お前は、半ば不服ながらもお前の使い龍のために全力を尽くした。…と、テミスから聞いているが、間違っているか。」
ミスリルはしばらく口が聞けないほど驚いていた。間違ってない。むしろその通りだ。
ミ「…はい。正直、私は命令のために向かっていました。しかし、捕まっていることが現実だと分かると、助けようと思いました。」
テ「貴様らの絆、確かに確認した。貴様は我輩に敵わぬことを知りながら、石まで投げて応戦したな。あれは真の友情がなければ成し得ない芸当だ。我輩からマルースを助けようと貴様は石を投げた。違うか?」
ミ「…はい。」
2人に核心を突かれ、ミスリルはタジタジになった。
官「今日は早く寝て、明日に備えろ。明日も早いんだ。」
ミ「…は、はい!」
それ以来、2人の絆は深まり試練の最終日が近づく頃には、マルースがミスリルをつかんで空を飛び回るまでに信頼度が高まっていた。
テ「…やはり、貴様が見込んでいた通りの青年だったな。過去の自分と重なったか。」
官「それはどうだろうか。まあ、1つ言えることは、あいつはもう立派な龍契士である、そういうことだな。」
テ「まあいい。」
そして、最終日。
官「任命書。ミスリル、使い龍、マルース。貴殿を龍契士に任命することをここに記す。」
ミスリルは龍契士試験合格通知を受け取り、任命書を貰い卒業した。これで、真の龍契士になったのだ。
ミ「ありがとうございます。」
官「半年間、よく頑張った。これからも、さらなる信頼の構築に、精進するように。」
ミ「はい!」
ミスリル、19歳半ば。マルース、生後4年のことであった。
ミ「ありがとうございます。」
官「半年間、よく頑張った。これからも、さらなる信頼の構築に、精進するように。」
ミ「はい!」
ミスリル、19歳半ば。マルース、生後4年のことであった。
登場人物
イーリス(ミスリル)
本作の主人公。
太陽龍軍の父が月光龍軍にやられたことで、同じく太陽龍軍入りすることを決意。ミスリルは本名、イーリスは軍に入った際に付けた名前。
マルース
イーリスの使い龍。太陽龍族で比較的性格は温厚。ただし忠義心は並ではない。特殊能力は尻尾の球を光らせること。これにより目くらましの他、治癒の光を放つこともできる。どちらかというと、飛ぶより走る方が得意。