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急に彼女に別れを告げられたんですけど(悲)


 お昼に夢のような時間を過ごして浮かれながら午後の授業を終え、帰ろうと下駄箱から靴を取り校門を出る。

 すると、少し歩いたところで何者かに頭を強打され、そんな状況を疑問に思う間もなくボクの意識は暗闇へと導かれて行った。


「ん……。こ、ここは?」


 辺りを見渡すと遠くに学校が見えて、近くには遊具やベンチなどがあるのでおおよそどこかの公園だろう。


 そして目の前には黒装束を着た怪しい集団が、今にもボクに迫ってきそうな勢いでいきり立っていた。

 すると、その中からひときわ目立つ胸につけたバッチを光らせながら、この集団のリーダー的存在そうな奴が、ボクに威圧的に詰問してくる。


「手紙で忠告はしておいたはずだぞ九重 晴人」


「……なんの話だ?」


「しらばっくれるな。貴様が我らの崇める御神体の女神、瑞希様に近づいただけでなくあろうことか家に連れ込んだといいう報告もされている」


「いやそれは……」


「問答無用、もう貴様は我らが瑞希様ファンクラブのさだめた禁忌に触れ過ぎた。よって極刑を言い渡す、やれ皆の者」


 そいつが言い終わるよりも前に、他の奴らはボクに襲いかかってくる。


 それをボクは数の暴力を受け、なすすべもなくやられ続ける。

 顔を殴られ腹を蹴られ、それはもうボッコボコの滅多打ちにされた。


「ふっ、これに懲りたら二度と瑞希様に近づかないことだな」


 そんな言葉を残して黒装束の集団は公園から去って行った。




 誰もいない公園の地面に大の字になって寝転んでいるボクは、口からこぼれ落ちるように無意識に呟く。


「やっぱり。やっぱりだよ。ボクなんかが白河さんとなんて関わるべきじゃなかったんだ」


 今思い知った。この世の差別を、住む世界の違いを、自分の惨めさを。


 喋ると口の中に血の味がする、手足の感覚などもう随分前からなくなっている、そして目が霞んでいき意識もだんだんと薄れていき……。


「ーーーっ」


 曖昧な記憶の渦の中で誰かの泣きじゃくる声が聞こえたような気がする。


「ーーール君」


 体に温もりを感じ、顔には水滴がいくつも落ちてくる感覚もあった。


「ーーーハル君っ。死なないでっ」


 大袈裟だなと心の中でつぶやいて、意識がプツリと途絶える。




 目が覚めると、ボクは白いベットの上で寝込んでいた。多分ここは学校の保健室だろう。

 カーテンの隙間から時計が見えたので時間を見てみると、針は午後七時を指していた。

 お腹に重みを感じて起き上がりながら目をやると、すうすう可愛らしい寝息を立てながら寝ている白河さんの姿があった。


「うわっ!?」


 あまりの近さに驚いていると、カーテンが開き誰かが入ってくる。


「なんだなんだ? 俺様はお邪魔かな?」


 ベットの横の椅子に腰掛けながら、兄さんが笑いながらちゃちゃをいれる。


「ちょ、兄さんこれはどういうことなの?」


「さあな。俺様は晴人君が倒れたから大至急来てくださいって言われたからきてみれば、二人でイチャコラやってたんだからよ」


「イチャコラなんてやってないってば」


 ボクと兄さんの会話で、白河さんが目を擦りながら起きた。

 目の下には涙の流れた跡が残り、泣きすぎたのか瞳は充血していた。


「……ハル君?」


「あ、すみません。なんか迷惑かけちゃったみたいで」


 ボクは白河さんにあまり心配をかけないように、笑いながらおどけて見せる。


「ごめん、ごめんね。こんなことになったのも全部私のせい、だよね」


「いやっ、そんなことはないですって!」


「あるよ、あるんだよ絶対。だってハル君は私と関わらなかったらこんなことになんかなってなかったんだよ」


 彼女自身が自分を責める言葉に、僕は慰める言葉を言い返すことなどできなかった。

 なぜなら数時間前にそのセリフを吐露していたのは、僕の方だったから。


 何も言い返せないでいるボクに、白河さんは顔が見えないように頭を下げる。


「ハル君。……ううん、九重君。あなたと私の間には何もなかった。この一週間のことは忘れて、これからは赤の他人になってください」


 その言葉には、ボクに有無を言わせない真剣さがあった。


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