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女の子にお弁当を作ってもらったら不味くても美味しいと言うべきです(必)


 今朝は妹の彩奈がやけに笑顔だったんだけど何かいいことでもあったのかな? と、そんなことを考えながら学校へ登校する。


 朝、下駄箱をいつものように開くと、中には手紙がたくさん入っていた。

 恐る恐る開いてみると、脅迫的な文章が綴られている。


 どうやら昨日の相合い傘を誰かに見られていたらしい。

 白河さんには、学校内に公式ファンクラブなるものも存在しているのだから、こうなることもまあ当然っちゃ当然だろう。


 朝から殺意のこもった視線に晒されて、ボクの豆腐メンタルが粉々にされ、ひき肉と合わせて豆腐ハンバーグでも作られるのかという頃、友人の桐崎がニマニマと笑みを浮かべながら近づいてくる。


「で? 昨日はお楽しみだったのか?」


「ボクがそんなことするわけないだろ」


「ふっ、だろうなぁ、俺もハルのことだからチキンになって何もしてないと思ってたよ。ま、何かしたらしたでファンクラブのやつらに抹殺されるだろうけどな」


 豆腐ハンバーグの次はチキンか、今度は甘辛のたれを塗って照り焼きチキンにでもなってみようか。なんだかヘルシーで良さそうですね。


「もうほんと肝が冷えるよ……」




 そして午前の授業を終えて昨日の約束通り屋上で白河さんを待っていると、男子かと思うくらい身長が高く、栗色の髪もショートカットで、女子の制服を着ていなければ性別がどちらかわからないくらいの生徒が、きょろきょろと周りを見渡し、ボクを見つけると話しかけてくる。


「へー、君が瑞希の師匠かー」


「えっと? すみません。どなたですか?」


「あー、ごめんごめん。うちは瑞希の親友の神咲 和乃。よろしくな一年坊主君」


「は、はあ。よろしくお願いします」


 そして神咲さんは、ボクをじっくりと見定めた後、


「よっこいしょういち」


 と、今時おっさんでも言わなさそうなセリフをつぶやきながら、ボクの正面に何のためらいもなくどかっと座りこみ、お山座りをしてスカートの中が後少しで見えそうになり……。


「やっぱ噂通りのエロガキやのなー。自分」


 笑いながら自分のスカートをめくると、下には見えてもいいようの黒のスパッツを履いていて、残念そうにしているボクを見てまた爆笑してくる。


 そんな神咲さんと気まずい空気になっていた時、白河さんが小走りで屋上に入ってきた。


「ごめんハル君。先生に頼み事されちゃって少し遅れちゃった」


「いや、全然待ってないですよ」


「ほな、みんな揃ったしお昼にしようか」


「はい、ハル君の分」


「あ、ありがとうございます」


 待ちに待ったお弁当を受け取ると、それは想像以上に軽かった。

 疑問を持ちながなも包を解きお弁当の蓋を開いたら、中には美味しそうな白米と、恥ずかしがりながら薄着でグラビアのようなポーズをとる白河さんの写真が入っていた。


「ふっふっふっ、どや? カメラマンはうちが担当したんやで。なかなかええ出来やろ?」


「...………」


 ボクの目は、その写真に釘付けになる。


「ちょ、ちょっとハル君。そんなにまじまじ見ないでよ……」


「ええやんええやん。別に減るもんでもないし」


「っていうか、このお弁当ごはんしか入ってないんですけど……」


「いやな、瑞希が具材は何がええんかなってうちに聞いてきたから、男子高校生が喉から手が出るほど欲しいであろう瑞希の写真を入れてみた」


 確かにめちゃくちゃ嬉しいけど手料理も食べてみたっかたなと、ボクが複雑な表情をしていると。


「やっぱりおかずは食べ物の方がいいよね。私のちょっと分けてあげる」


「いやっ、全然大丈夫です。ボクはこれだけでお腹いっぱいなんで」


「せやで瑞希。瑞希はすぐお腹減らしてまうのに」


「ちょっと和乃ちゃん。そのことは言わないでよ」


 まあ昨日二回もお腹鳴らしていたので、大食いなのはもう知ってるんですけどね。


「じゃ、じゃあ一口だけ……。はい、あ〜ん」


 こ、これはまさか世に言う、あーんと言うものではなかろうか。

 こんな至福をボクごときが受け取ってもよろしいのでしょうか?

 って言うか、これは間接キスになるんじゃないですか???


「やっぱり、いらないの?」


 悲しそうに小さな声で聞いてくる白河さんに、ボクは食い気味に答える。


「いっ、いえ。いただきます!」


 あーん、パクッ。モグモグ。


 ん? ボクは今なにを食べてるんだ? ゴリゴリとしていて苦くて辛くて酸っぱくて…………。なんだかだんだん舌が痺れてきたぞ。

 早く飲み込んでしまおうとしたその時、胃が拒否反応を示すように胃液を逆流させてくる。


「どう、かな?」


 天然の上目遣いで可愛く緊張しながら感想を聞いてくる白河さんに、ボクは必死に引きつった笑顔を作りながら答える。


「うっ、うん。これ、とっても美味しいですよ」


 強引に胃の中に食べ物を全部戻して、ギリギリ耐えた。

 ボクのお腹からは悲鳴をあげるようにギュルルルルと鳴っていたが、汗まみれになりながら表情は笑顔を保つ。


「い、今、ボクが食べたのってなんの料理なんですか?」


「ハンバーグを私がちょっとアレンジしたものだよ!」


「へ、へぇー。そうなんですねー」


 どうアレンジしたらあの珍妙な味が生まれるのだろうと、頭の中に疑問のタネをいくつも浮かべる。




 そして白河さんがトイレにたった後、神咲さんはこらえていた笑いを一気に吹き出す。


「せっかくうちが君の身を案じてあげたのに、まさか自分から食べに行くとは」


 だからっておかずをセクシーな写真にするのもどうかと思うが。

 ん? まてよ……。


「あの、もしかしなくても瑞希さんの性に関する常識がずれてるのって...」


「ま、それはうちが毎日変なこと吹き込んどるからやな」


 ボクの予感は、見事的中していた。


「あんたを瑞希の師匠に推薦したんはうちやねんで」


「なんでボクなんですか?」


「うちがそういうこと全部教えてしまうとあかん気しかせんし、聞いた話によれば君は女子と喋らないチキンハート野郎だっていってたからな」


 知らないところで、噂には事実の尾ひれがついていることを知り、ボクは心にダメージを負った。




 一方その頃、女子トイレでは瑞希が鏡を見て、潤いに満ちている桜色の唇に触れながら呟く。


「ハル君と間接キスしちゃった……」


 鏡の中の自分の顔を覗くと、信じられないくらい真っ赤に染まっている。

 このままでは屋上に戻れないと思い、蛇口をひねり水で顔の火照りを取った後、両手で頬を軽く叩き気合を入れてから屋上へ戻っていく。




 ピュアな彼女の羞恥心は、一体どこにあるのでしょうか?


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