大学生も大変です(大)
朝。頭についた鶏のトサカのような寝癖を鏡の前で乱暴に直し、ひどいむくれっ面で乱雑に歯を磨く。
朝飯は、妹の彩奈が用意してくれていたトーストやら目玉焼きやらをのんびりと食べる。
ある程度身だしなみを整えたところで、ペンが数本しか入っていない軽いカバンを持ち、あくびをしながら家を出る。
授業が始まる時間ギリギリに教室に到着し、なるべく後ろの席を陣取り、配布プリントを枕に仮眠をとる。
ただただそれを何時間も繰り返し、一日のすべての講義が終わればどこへも寄らずに家へ帰る。
それが俺様、九重 拓人のいつもの日常であった。
だが、俺様はそんな日常にとくに不満は抱いていなかった。中学、高校の時もと同じようにこの繰り返しだったから、もう慣れてしまったのだ。
そして、そんな代わり映えのしない毎日を繰り返していたとある日のこと。
経済学の面白くないハゲ教授の自己満足のような授業の時。
「あ、あの〜。もしも〜し」
いつも通り机に突っ伏して寝ている俺様に、誰かが声をかけてくる。
頬に変な形の寝跡をつけたまま顔を上げ、見知らぬ女の子に寝起きの声で返事をする。
「ん……、んぁ。なに?」
「あの、えと。こ、これっ」
言いながら手渡されたものは、俺様が今受けている経済学の授業の内容が書かれたプリントであった。
気づけば講義の時間は終了しており、周りの学生はぞくぞくと教室からでていっていた。
「さっき授業終わりに、これ配られてたの。あなた、これもらってないんじゃないかと思って……」
「ん、あぁ。……ありがと」
俺様がそう口に出すと、女の子はホッとしたように息を吐き、一目散にその場を去って行った。
「(わざわざ、こんなやつにまで世話焼くなんて、物好きもいたもんだなぁ)」
そう考えながら背伸びをし、もらったプリントを乱雑にカバンに詰め込もうとした時、
「ん? てか、なんだ? これ」
プリントに挟まっていた一枚のルーズリーフがひらりと地面に落ちて行く。
それを拾い上げ、びっしりと羅列してある文字を何気なく読んでいき、そして俺様は絶句する。
「(……は!? てか、これ。官能小説じゃね!?)」
それもだいぶ過激な、表現も独特な読者に想像を促す系の何とも淫靡な作品であった。
そしてきになる点がもう一つ。主人公の特徴が完全に俺様と一致している。
「ま、まさか。ただの偶然だろう?」
一度読み終え、もう一度深く読み返す。いつもギリギリに大学に来て、教授の話も聞かずにふて寝をするぼっち大学生が授業終わりに話しかけに来た女の子のことを好きになり、なぜかそのまま家へ連れ込みいたすことをいたすと……。
何とも急展開で話の脈絡がないが、そこはさして重要な問題ではなく、なんともこの続きがきになる。
「これってもしかしなくても、俺様がこの主人公でさっきこれを渡して来たあいつがヒロイン的な感じだよな……」
一人つぶやいたところで、次の授業の始業を告げるチャイムが校内に響き渡る。
「いけねっ! 次も講義あったんだった!」
急いでカバンを背負い、次の教室へと移動する。
道中、さっきの女の子を探して見てもやはり見当たらなかった。と言うより、俺様はさっきの女の子の顔をはっきりと覚えていない。
「確か、黒のショートボブに丸メガネをしていたような……」
次の講義中、ペンを回しながら周りを見やる。
だが、それだけの情報ではこの広いキャンパスの中ではその特徴に一致する者が多すぎてさっきの女の子なのかどうかの区別がつかない。
「ったく。見つけたとしてどうもできねぇのにな」
そう言いながら、講義も聞かずもう一度小説を読み返すのであった。




