授業は楽しんだもの勝ちですよね(学)
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いつも通りの朝。三回目のアラームでようやく目覚めてから数分で身支度を整え、朝食も取らずにやけに軽いカバンを背負って家を出る。
すると、家の前に一人の女の子がカバンを片手に、腕時計を見つめて立っていた。
その女の子はボクを見つけるなり、パッと笑顔を咲かせて近寄ってくる。
「あ、もうっ遅いよ? ほら、早く行かないと遅刻しちゃう!」
「えっと、なんでボクの家の前に栞がいるの?」
「? そんなの一緒に登校するからに決まってるじゃない?」
さもたり前かのように答えるが、そんな約束はした覚えがない。
ボクはため息をついて、
「ボクたちが一緒に登校なんかしたらあらぬ噂が立っちゃうだろ?」
「ふーん、そんなの別にいいじゃない。その噂がそのうち現実になるんだしさ。そんなことより、ネクタイ曲がっちゃってるよ。ほら、ちょっとかがんで?」
「え? あ。うん」
栞は強引に話をそらし、ぎゅっと距離を詰めてボクのネクタイを整える。
顔を近づけて首に手を回す栞からシャンプーか柔軟剤かの良い香りがして、思わず鼻の下を伸ばすボク。
「ほーら、これでよし!」
「ん。まぁ、ありがと」
「ったく。ほんとに子供の頃から晴人はだらしないんだから」
ネクタイを綺麗に逆三角形を作って首元まで締め、満足そうに頷く栞にボクはムッとした顔であることに気づく。
「そんなこと言う栞だって髪に埃ついてるぞ」
ボクが埃を払おうと耳の近くに手を伸ばすと、
「ひゃっ!」
「あ、ごめん」
「ううん、ちょっとびっくりしちゃって。ありがとね」
なんだか気まずい空気が流れる中、なぜだか火照った顔の栞がふと腕時計を見つめる。
「って、そんなことより本当に早く行かなくちゃ遅刻しちゃう!」
「げっ、ほんとだ!? 走らなきゃ!」
「ほら早く行こ!」
そう言って栞はボクの手を引き、学校へと走り出す。
「ちょっと、別に手なんか繋がなくてもいいだろ?」
「晴人はほっといたら道草食っちゃうから栞が案内してあげるの」
「ボクは小学生じゃないんだぞ!」
そう言いながなも振りほどくことをせずそのまま学校へと二人で走って行く。
繋いだ手から少し感じた汗は、走っていたからなのかなぜなのかはわからない。
なんとかチャイムギリギリに学校に着き、息を切らしながら点呼に返事をする。
そして朝礼が終わり、一、二限目の美術の用意をして教室を移動する。
「それでは今日は天気もいいので、校舎内で写生をしてもらいます」
若い教育実習生の女の先生が、尖ったマカロニ鉛筆を片手にそんなことを口にする。
すると、思春期真っ盛りの桐島がニマニマしながらボクに小声で話しかけてくる。
「おい、ハル。射精だってさ。あの先生が言うとなんかやばいよな」
「そんな発想をするお前の方がやばいよ」
まあ、こんな卑猥な連想をしてしまうのは、健全な男子高校生なら仕方がないだろう。
そんなくだらない会話もそこそこに、各々がペアを組んで教室から出て行く。どうやら自分で選んだ場所で、ペアの全身像を描くのが目的なようだ。
「あ、わりぃ。俺は美穂とペア組むから、またなー」
「お、おう」
そう言って彼女の元へ向かう桐島を見送り、ボクはペアを探して周りを見渡す。
すると、教室の端の方に女子たちが固まって何やら話し込んでいた。
「うわぁー、椎名さんの絵ちょーうまいじゃん!」
「わっ、本当だ! すごーい、これどうやって描いてるの!?」
「なにこれー! これはほんとやばいよ」
「えへへ、そうかな?」
輪の中心にいるのは栞のようだ。まだ転校して来たばかりで目立っているからか自然と女子が集まっていた。
「椎名さん。私とペアを組んで私の絵を描いてよー」
「えー、私も描いて欲しいなぁ」
「みんな一緒に描こうよ!」
「あ、うん。いいよ! いこっか」
そう言って女子集団と栞が教室から出て行き、教室にはボク一人だけとなってしまう。
誰ともペアが組めず俗に言うボッチになってしまったボクは、真っさらのスケッチブックを枕に睡眠を決め込む。
だってしょうがないじゃないか。と心の中でえなり◯ずきの真似をしてふてくされるボク。
それから数分後、
「晴人。起きてよ。もう、晴人ってば!」
誰かに肩を揺すられ、左頬に変な痕をつけて目覚める。
「あれ? 栞、どうして?」
「なにが?」
「お前、さっき女の子たちと一緒にペア組んでたんじゃなかったのか?」
「あぁ、うん。でも、用事あるからって抜けて来ちゃった。晴人、ペアいなそうだったし」
「え、そんな……。良かったのか?」
ボクが嬉しくて顔をしわくちゃにしていると、
「うん。晴人の筆下ろしは栞じゃないとダメでしょ?」
「……それは絵を描くという意味でなんだよな?」
「さぁ? どーでしょう」
不敵な笑みを浮かべて、栞とボクは教室を後にしたのであった。




