湯けむりは良いそうですって(湯)
そしてボクは、汚れた制服を脱いで洗濯機にダンクシュートを決め、湯を沸かしながらシャワーを浴びる。
シャンプーで頭を洗っている最中、扉を隔てた洗面所に影が見えた。
「晴人。これまでは悪かった。もう今後一切お前に意地悪しないことを誓うからあの話は忘れてくれ」
そうは言われても許す気のないボクは素知らぬ顔で頭を洗い、次にボディーソープを手に取る。
ボディーソープの頭の部分を押しても液体が出ないことに疑問を感じ、容器の蓋を開けてみると中身は空っぽであった。
「お前が望むこと俺様ができることならなんでもするから! いやマジで、本当に、後生だから!」
兄の懇願に心を打たれるわけでもなく面倒くさくなったボクは、手っ取り早く今の状況を打開することにした。
「んじゃ、体を洗うソープ取って来て。さっきの話はそれでもう言わないから」
「ん、あぁ。そういうことか、ならお安い御用さ。俺様に任せておけ」
兄さんはそう言い残すと、その場をさって行く。
ボクはその間に貯めて置いた湯船に浸かり、日々の疲れからかうつらうつらとしてしまう。
それから何分が経ったかわからないが、ガチャリと扉が開く音でハッといしきを覚醒させる。
「兄さん、ちゃんと持って来てくれた?」
「あぁ、ご要望通り。ちゃんと説得しておいた。俺様が思うに最高級だ。安心しておけ」
「は? 説得ってどういうことなのさ」
「ま、俺様はもうお邪魔かな。それじゃ後はお二人でごゆっくり」
そう言って出て行く兄さんの代わりに風呂場に入って来たのは栞であった。
「!?!? な、な、なんで栞がここにいるのさ! しかもそんな格好で!?」
「だ、だってそれはお兄さんが晴人がソープを欲しているからっていうから、ね」
栞の体を覆うものは薄手のバスタオル一枚のみ。目を凝らせばちらほら肌色が見え隠れしている。
「ボクが欲しかったのは単なるボディソープだから! なんで栞もこんなこと断らないのさ!?」
「ま、それは今後も夫婦とあればこんなこともあるかと思ってね。ほら、栞のモットーって何事も経験じゃない?」
「知らないよそんなの! と、とりあえず早く出て行きなよ!」
そして前話冒頭にいたる。
「ほら、せっかくだから持ってきたボディソープで体洗ってあげるよ」
「はぁ、そう。ありがと」
観念したボクは緊張しながらも両腕を上げ体を洗ってもらう。あ、言っておくけど手でだから! 体でとかではないから。
期待なんかしてなかったよ。うん。
そんなこんなで体の泡も洗い流し、風呂場から出ようかと思った矢先、
「ハル兄ー。お風呂はいってたんだ。着替えここに置いておくね」
「!? ん、あぁ、わかった。わかったよ!」
風呂場の外から彩奈の声が聞こえた。
「(な、なんで彩奈がこんなときに限って!?)」
「今、栞がここから出て行ったら妹ちゃんはどんな反応するかな? なーんて」
「な、何言ってんだよ! ちょ、後ろから出てくるなって!?」
「あれ? 中に人影が二つ見えたような……」
訝しんだ彩奈が曇りついた扉をジッと覗き込む。
「あははは、それはボクが高速で動いているからじゃないのかなぁ?」
「ううん。確かに見えたの。もしかして誰かと一緒に入ってるの?」
「いや、これはその、だな……」
「なに言ってるの? 待って、今日家には私とハル兄とタク兄だけ。ていうことは、も、もしかして兄弟で? そんな……それなら、あたしも!! ちょっと開けるからねっ」
彩奈が変なことを口走っているのは置いといて、何かこの場をごまかせるいい言い訳はないかと頭をフル回転させる。
すると、栞が風呂のドアについてある鍵を開けようと手を伸ばす。
「おいっ、だから空気読めって言ってるだろ!」
「えっ!? あ、うん。……そ、そうなんだ。……タオル、ここおいとくね。ごめんなさい!」
「あ、うん。ありがと」
彩奈が脱衣所から逃げていくのを見計らって、ゆっくりと扉を開き、蒸気で曇った視界が鮮明に見えるようになる。
お風呂場に長時間いてのぼせていたのか、一気にクラクラ来てその場に倒れこむボク。
後日。朝食をとっていると、スーツ姿の父:歳三が正面に座り、重々しい空気をまといながら話を切り出して来る。
「おい、晴人。彩奈から聞いたぞ」
「なにをなのさ?」
「お前、昨日風呂場で空気嫁と一緒に入ってたってな。わしはそんな息子に育てた覚えはないぞ!」
「いや違うってそれは!」
「何が違うんだ!? そんなおもちゃで遊んどらんと、ちゃんと血の通った女と交流をせい!!」
「いや、だから違うんだってぇー!」
この一件のせいで、家族からも白い目で見られるようになりました。




