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なんだか気が晴れたようです(晴)


 てんやわんやがあった日の翌日。

 身体になんの異常も無かったボクは、いつも通りに学校へと向かっていた。


「おいっす、ハル。昨日は災難だったんだってな」


 時代錯誤な竹刀を持ちながら服装チェックをしている先生方を横目に校門をくぐり抜け、教室の席に座って一息ついていると、桐島が後ろから頭を小突いてくる。


「痛いなー、もう。一応頭も打ったんだからあんまり叩くなよ」


「悪い悪い。それでさ、今日は保健の小テストがあるから重点だけ抜粋して教えてくんね?」


 いつもなぜか保健の科目だけ群を抜いて点数が良いのを知ってか、桐島がそんなことを頼んでくる。


「ん。まぁ、別にいいけど」


「こっからここまでが範囲なんだけど、どれが出ると思う?」


 使い込まれていない新品同様の教科書を渡され、あらかた適当に目を通していると、ボクは目を点にして頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。


「えっと、……なにこれ? どういうこと」


「いや、見ればわかるだろ。人間の始まりについてのとこだろ?」


「何言ってるんだよ? 僕たちはコウノトリさんが運んできてくれたんだろうが!」


「は? なんだよ、お前。それ、本気で言ってるのか?」


 面を食らったかのように呆けた顔をする桐島に、ボクは教科書を勢いよく閉じながら力説を話す。


「当たり前だろ。男女が真剣に愛し合えば必ず運んできてくれるんだよ。ここに書かれてることは全て間違ってるよ」


「……ハルがそう言うのならそうなのか。……いや、どうなんだ?」


 その後、予定通り保健の小テストを受け、もちろん二人ともゼロ点だったのはいうまでもない。




 昼休み。いつものように瑞希さんとの二人での昼食の時間。

 一足早く屋上で待っていると、いつもと違うジャージ姿の瑞希が現れる。


「どうしたんですか? その格好は」


「いや、ね。お兄さんからハル君の現在の状態の深刻さを聞いて、私も何か役に立てないかと思って制服を着崩してたら先生にしかられちゃったの」


「それは羨ま……ゲフンゲフン。なんともけしからんですね。だいたいボクはなんでもないですからそのままで大丈夫ですよ」


 脊髄反射で思わず口からこぼれた言葉を咳で強引にカモフラージュし、下手くそな作り笑いを浮かべる。

 そんなボクに、さして気にならなかったのか瑞希さんは会話を続ける。


「でも、お兄さんから聞いた話では、ハル君は唯一のアイデンティティーを失い、もはやこの世に生きる意味を見失っているとまで言っていたのだけど……」


「そ、そんなことないとおもうけどなー。ボクの個性は色々とあるのになー」


 家に帰り次第速攻兄さんの頭をしばく決意を固め、口角を引きつらせながら話す。

 すると、瑞希さんはジャージの裾を握りしめ、少しさみしそうに問いかけてくる。


「……それで、やっぱりハル君は知識を無くしちゃったのかな?」


「えぇーっと。それってなんのことですか?」


 わかっているくせに味のない大根芝居を打ってしらばっくれるボク。


「私の師匠としての尊厳的なものとかさ」


「うぅーん。そうですね。今のボクが瑞希さんに教えられることは何一つとして無いようですしね」


「……そう、なんだね」


 そこで、ボクは瑞希さんの反応も他所に、早口でまくし立てながら今までの知識を無くした風の芝居をした目的を果たそうとする。


「だから、これからは師弟関係なんかまどろっこしい関係なっかじゃなくて、正式によくあるお付き合いを……。あのー、瑞希さん。なんで服をはだけさせていらっしゃるのでしょうか?」


 ボクの決意表明を他所に、瑞希さんは身につけていたジャージをそろりそろりと脱いでいく。


「私も教えられてばかりじゃいられないと思って。記憶を取り戻してもらうには直に感じてもらうのが一番かなって思ったんだけど」


「感じて!? .......いや、でも他にも色々やり方はあるでしょうによりにもよってそんな」


 口ではそう言いつつも、瑞希さんの肢体から目が離せないでいるボク。手で顔を覆う素振りは見せるものの、指の間からの視界は抜群に良好です。

 ここで記憶は失ってないと自白してしまえば、場はまだなんとか丸く収まるのであろうが、そんなの男じゃないだろうが!?


「朝もこの格好で登校してきたら先生に怒られちゃったの」


「!? いつからそんな淫乱な人になっちゃったんですか瑞希さん!?」


 衝撃発言に思わず顔を上げて瑞希さんの顔を見ると、目元に蝶のアイマスクを被り、服は黒くて光沢のある際どいいわゆるレオタードで、左手には荒縄が、右手にはやたらとしなる黒い鞭が握られていた。背後にも様々な甚振る系の器具がちらりと見受けられる。


「.......えっと、その格好はどういうことなんでしょう?」


「ハル君、記憶がなくなる前に言ってたから。馬に乗ってみたいって」


 そして問答無用で、後ろに用意されていたその馬の上に乗せられるボク。


「いやいやいや。それはこんな三角の堅くて尖った木のものじゃなくて、普通の乗馬体験がしてみたいってだけですからね!?」


「他にも拘束は緩くない方がいいねって言ってたし、だから力いっぱいきつめに縛っておくね」


 どこで覚えたのか、綺麗に亀甲縛りにされてしまい身動きが取れなくなってしまう。


「痛い痛い。違っ。それも縄で縛る拘束じゃなくて、学校の校則の話ですってぇ!?」


 ボクの言葉などまるで聞く耳をたず、完璧に何かのスイッチが入ったかのように鞭を振り回す瑞希さん。


「ハル君の記憶が戻るまできっちり調教してあげるから安心してねっ!」


「うんぎゃー! た、助けてくれぇー!!」


 嘘は良くない。そう身に沁みました。


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