恋とは気の迷いです(気)
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時は過ぎ、あっという間に文化祭当日。
それまでの一週間は、瑞希さんとの接触を試みるも、周りに野村先輩がいつも張り付いて同行していたので、何も接触もないまま当日を迎えてしまった。
「で、これはどういうことだ?」
ただでさえ憂鬱なボクのメンタルに追い打ちをかけるような目の前のこの状況に、口端を引きつらせながら文句を述べる。
「いやー、作成が間に合わなかったみたいでさ。なんとかこれで頑張ってくれよ」
そう言って桐島から渡されたものは、さっき近くの便所からくすねてきたであろうトイレットペーパー。
「お前、まさかこんなので人を驚かせるとでも思ってるのか?」
「体全身に巻けばミイラ男に見えるって! 余裕に大丈夫だ。…………多分」
自信満々に言っておきながら最後に小声で保険を付け加えてるあたり、発言に説得力が全くない。
「ったく。文化祭前はあんなにみんな盛り上がってたのに、いざ本番となると全然乗り気じゃなくなってるし……」
「いやさ、なんかクラス全体での共同作業で雰囲気が良くなって、ノリで付き合っちゃったってカップルも多いみたいでな」
改めて教室の中を見渡すと、明らかに人数が足りていない。他のみんなは仕事をボクらに押し付けて今頃デートにでもうつつを抜かしているのだろうか。そう思うと、なんだか腑が煮え繰り返りそうだ。
その他にも、お化けの外見もさることながら、中の通路も段ボールで作りました感満載の適当設計だし、これをお化け屋敷というにはクオリティーが低すぎるぐらいだ。
「それで、ボクは何をしたらいいのさ?」
「うん。ま、適当に掃除用具入れのロッカーの中から急に飛び出してくれればいいんじゃないか」
そう言って、薄汚れていて見るからに臭そうなロッカーを指差す。
「お前、ボクにあんな汚いところに入れっていうのか!?」
「だって、隠れるところなんてそこくらいしかないだろうし」
「なんでそういうのを何にも作ってないんだよ……」
教室の手抜き作業の酷い様に、流石にため息をこぼす。
「そんなこと今更言ったってしょうがないだろ。ほら、もうすぐ客が来るだろうから早く隠れてっ!」
そんなやりとりをしていると、文化祭開始を知らせるチャイムが鳴り、他校の生徒や父兄などが続々と学内に入ってきていた。
しぶしぶ小汚いロッカーに隠れて、お化け屋敷に入って来る人を待つこと数十分。
外から覗くだけで完成度の低さが露呈しているのか、客はあまりよってこない。そんな中、教室の前で案内役をしている桐島から合図が来る。
「(よしっ! こうなったらせめてボクが精を出して、満足してもらえるように頑張ろう!)」
心の中でそう唱え、コツコツと近づいて来る足音に備える。
その足音はここに来るまでの道中、全く怖がる様子もなくただ淡々と突き進んで来る。
「ぶぅあぁっ! って、うわぁっ!?」
「ふぇ? きゃぁっ!?」
意気込んでロッカーから勢いよく出たはいいものの、片足がバケツにはまってしまい、お客を巻き込んで転倒してしまう。
覆いかぶさるようにコケてしまったボクは、慌てて立ち上がろうと床に手をつく。コケてしまった反動でトイレットペーパーがずれて、視界が真っ白になってしまう。
「いてててて。あ、すいません。すぐにどきますので……」
その時、ボクはある違和感を覚える。
床ってこんなに柔らかったっけかな? こんなにふにふにであったかくて、ビートを刻むような振動が来るものだったかな?
「あうぅ、ハル兄。ここでそんなことは駄目だよぅ」
もうなんとなくわかってしまってはいたが、恐る恐る視界を開けると、ボクが手をついているのは床なんぞではなく、彩奈の胴体についた豊満な突起物であった。
彩奈は、しおらしくこちらを見つめて、何かの続きを促しているように見えた。
「うん。あ、えーっと、ごめんなさい」
気まずくなったボクはさっと身を引き、素知らぬ顔でロッカーの中に戻ろうとする。
すると、彩奈がすんでのところでドアを止め、むくれた表情でボクを引きずり出す。
「ハル兄。さっきの代償は大きいんだからね」
「いや、本当にすまないと思ってる。ボクにできることだったらなんでもするよ」
これは流石に言い逃れはできないと悟り、その場で瞬時にこうべを垂れる。
「じゃ、じゃあ。ハル兄、フランクフルトかチョコバナナを頬張りたいな……。なーんて」
「そうか。なら、それを買って来るよ」
身に纏っているトイレットペーパーを剥がして、今すぐにでも外に出ようとする。
すると、彩奈が何か困ったかのように、ボクを呼び止める。
「あっ、そうじゃなくて……」
「? それじゃあどういうことなんだ?」
「な、なんでもないっ!」
その後、急いで露店で売っているフランクフルトとチョコバナナを渡したものの、彩奈の機嫌が一向に直らなかったのはなぜなのだろうか?




