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そろそろ文化祭ですって(男)


 ある日の朝。まだ目が完全に覚めやらぬ中、ボクはシャツの上にブレザーを羽織り、学校へと登校する。


 いつも通り遅刻ギリギリで自分の席に座ると、ちょうど校内にチャイムが響き、教壇に担任の平先生が立つ。

 平先生は適当に出席を取ってから、自慢の広背筋を見せつけるかのようにしながら、荒々しい字で黒板に何か書き込む。


「えー、来月に文化祭が迫って来たということで、今日のホームルームの時間はクラスの出し物を何にするかを決めてもらう」


 平先生が文化祭という言葉を口にすると、途端に周りがガヤガヤと騒ぎ出す。


 体育教師で筋肉にしか取り柄のない平先生は、この行事に興味がないのか耳の穴をほじくりながら委員長にチョークを渡し、窓側の椅子にどっしりと座り込む。


「それでは、文化祭で何がしたいかを挙手で発表してください」


 委員長がクラス全員に向けて問いかけると、皆は挙手などせずに思い思いのことを口に出し、副委員長が黒板に候補を書き連ねていた。

 ボクも平先生と同じで、文化祭のことにはあまり興味がないので、この一時間は机に突っ伏せて眠ることに決めた。




「おいっ、起きろよハル!」


 誰かに肩を揺すられ、ボクは目をこすりながらゆっくりと体を上げる。


「なんだ、桐島か……。何の用だよ?」


 まだ少しぼやけた目で、ボクを呼ぶ声の主を見やると、そこにはやたらニマニマと気持ち悪い笑みを浮かべた友人の桐島 光一がいた。


「ハル、お前災難だったな。ハゲ平がさっきの時間ずっと寝てたからって一番きつい重労働押し付けてたぞ」


 言いながら桐島が指差す黒板を見てみると、多数決でも取ったのかいくつかの候補の上に数字があり、お化け屋敷の文字が二重丸で囲まれていた。


「へぇー、ボクたちのクラスはお化け屋敷なんてするんだな」


「もっと横の方を見てみろよ」


 言われた通り黒板の端の方を見てみると、そこにはボクの名前があり、割り当てられた配役が書かれている。

 えーと、なになに?


「ミイラ男、狼男、ドラキュラ、ゾンビ……ってこんな量全部一人でとか無理に決まってるじゃん!?」


 ボクがナチュラルにツッコミを入れるが、桐島は素知らぬ顔で話を変える。


「まー、そんなことよりも、重要なことがある」


「ボクの心身の疲弊をそんなことで片付けるなよ……」


「今日の放課後、ハルの家に行っていいか?」


「なんだよ? ここでじゃダメなのか?」


「ここじゃ人の目があるからな。二人っきりじゃないとダメなんだ」


 やけに真剣な表情に気圧され、少したじろいでしまうボク。


「そ、そんなこと言って、変なことするんじゃあるまいしさ」


「…………」


 冗談っぽく笑い混じりで言うと、桐島はヘラヘラとした顔を固めて押し黙る。


「えっ? なんで急に黙るの?」


「……い、いやっ、なんでもねぇよ。じゃあ放課後な」


 その言葉が出るまでの間がちょっと長かったのがやけに意味深なのだが、それを聞けるほどボクのメンタルは強くなかった。


 


 放課後。何だか身の危険を感じながらも、流石にボクの勘違いだと自己暗示をし、桐島を家に招き入れた。


「俺、ちゃんと好きって伝えるよ」


 ボクの部屋に入り、お茶を出して一息ついてから話を聞くと、桐島は思いつめた表情で開口一番に宣言した。

 その発言のせいで一気に身の毛がよだち、桐島から一歩距離を取るボク。


「い、いや、よく考えろてみろよ。ほら、相手のこととかをもっとさ」


「そうだよな。前は熱々だったのに、今は冷めまくってるもんな」


「前っていつ!? 熱々なんてときあったか!?」


「あぁ。お前が白河さんに呼び出される前くらいは、クラスのみんなからお似合いのカップルだって言われてたのにな」


「ク、クラスのみんなはボクたちのことをそんな目で見てたのか!?」


 確かにクラス内だと桐島とはよく喋るし、その時感じていた視線はボクに気があるからかと思っていたが、まさかそっち方面の視線だったとは……。


「……決めた。この気持ち、今すぐ伝えるよ!」


 桐島は覚悟を決めた表情で、手に持っていた携帯を弄りだす。

 焦ってなんとかこの状況を打破しようと、頭の中をフル回転させ、説得を試みる。


「お、おい、早まるなって。......そうだ! お前には心に決めた人がいるだろうが!?」


 脳内からこの状況への打開案がピンと閃く。そうだ、そうだったこいつには彼女がいるんだ、だからこれは変なドッキリなはず……。


「おう、そうだな。だからこそ、今しかないよな」


 ボクの言葉で、なにか覚悟を決めたかのように微笑む桐島。


「嘘だろ!? お前、まさかほんとに......。俺のことが......」


 突然の告白にたじろぎ、どぎまぎしているボクの横で、桐島はどこかへ電話をかける。

 だが、動揺で上の空になっているボクは、そんな仕草に気づかない。


「もしもし。えっと、お前に伝えないといけないことがあるんだ。よく聞いといてくれ」


「お、おう。もうこうなったら正々堂々聞いてやろうじゃねぇか!」


 話し相手が電話の向こうだとはつゆ知らず、床を一点に見つめながら答えてしまうボク。


「俺は、桐島 光一は、佐藤 美穂。君のことが大好きだぁぁぁ!!」


「ごめん。ボクにはもう心に決めた人が……って、ほへ??」


 告白への返事をしようと顔を上げ、瞬時に状況を理解する。


「ハル。お前さっきから何いってんだ?」


「い、いや何も。別にお前がボクのこと好きなんじゃねとか間違った解釈なんてしてないよ」


「はっはっは、なんだそれ。どうやったらそんな解釈すんだよ」


「だ、だよなー。はは、ははは……。ふぅ」


 ボクの勘違いが誤解されずにすみ、安堵からため息を漏らす。

 そんなボクの態度を変に思いながらも、桐島はケータイで佐藤さんと話を続ける。


「ん? あぁ、もしもし。さっき言ったのは俺の本心だ。うん、俺も色々と悪かったと思ってる」


 聞いている限り、二人の間にあった確執はさっきの告白で解けていったのか、笑みをこぼしながら互いのことについて話している。

 ボクは、ずっとここにいて盗み聞きするのも野暮だと思い、部屋を出てリビングに向かう。




 すると、そこにはやたら強張った顔をした兄さんがそわそわと落ち着きがない様子で、一人でコーヒーをすすっていた。


「お、おぉ、晴人。友達は帰ったのか?」


「いいや、まだボクの部屋にいるよ」


「ん、そうか……」


「桐島がどうかしたの?」


「まぁ、俺様もそっち系には詳しくないからなんとも言えんが……」


「? どういうこと?」


「愛があれば性別なんぞ些細なことだよな。うん。彩奈や親父には俺様が説明しといてやるから安心しとけ!」


「さっきのは、電話の相手に言ってた話で、ボクは関係ないから」


「最近は社会も寛容になりつつある。晴人、隠さなくていいんだぞ」


 兄さんはボクの肩に手を置き、優しい笑顔を向ける。

 本当にそっち系なんだったら、その笑顔にさぞ救われるのだろうが、ボクは至ってノーマルなので、その誤解を必死に解こうとする。


「だから桐島には彼女がいてその彼女に電話を」


 と、兄さんに弁解していると、


「ハル、本当にありがとう。ちゃんと告白してよかったよ!」


 部屋から出て来た桐島が、さらに誤解を招くタイミングで言い放つ。

 その発言を聞いた兄さんは、僕らをじっと見つめた後、大きく頷く。


「まっ、この家に俺様がいてはやることもやれないか。……じゃあなっ」


「ちょっと、兄さん! だから誤解だって!」


 ボクが引き留めようとするも、兄さんは風の速さで家を出る。




 後日、改めて兄さんの誤解を解こうとその日のことについて話すと、「まだ世間の目があるからな。このことは俺様の心の中に仕舞っといてやろう」と、意味のわからない解釈で落ち着きましたとさ。



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