誤解も程々にしないとですね(誤)
俺様が決死の努力でなんとかあらぬ誤解を解き、疲れからか大きな溜息を零していると、状況を理解した彩奈が笑いながら背中を叩いてくる。
「いやー、本当に最初この状況を見たときは、タク兄がロリコンに目覚めちゃったのかと思っちゃったよ」
「そんなわけないだろ、晴人じゃあるまいし」
あいつならやりかねないからな。いやマジで。
そんな身内ネタの話をしていると、リンが不満そうに俺様の服の裾を引っ張る。
「あぁ、そうだな。じゃあ俺様はこいつをバス停まで送ってくから」
「本当に大丈夫? 変なことしない?」
「まだ疑ってんのかよ……。俺様の許容範囲にはこいつは到底入んねぇよ」
と言って、リンの頭の上に手を置き、こねくり回す。リンはその手をどかそうともせず、心地好さそうな表情を見せる。
彩奈はそんな俺様たちにまだ怪訝な顔を向け、しゃがみこんで横にいるリンに目線を合わせて、俺様に聞こえないようにしながら話しかける。
「このお兄ちゃんにもし変なことされそうになったら、『おまわりさん助けてー』って叫ぶんだよ。わかった?」
「おねぇちゃんはこのおにぃちゃんのことが好きなの?」
「ちょ、ちょっと、なんでそんなことになるのよ!? だいたい私が好きなのはこっちじゃなくて」
彩奈が勢いで何かを言おうとしていたが、ギリギリのところで自分の口を手で覆い、険しい顔で黙り込む。
「ふーん、じゃあおねぇちゃんはびっちなんだね」
「この子なんて言葉知ってるのよ!? っていうか私は別にビッチなんかじゃないし!!」
さっきまでこそこそ話をしていた彩奈が大声で怒鳴る。
俺様は、発言の内容に嘆息しながら口を挟む。
「どんな話してたらそんなことになるんだよ。彩奈もちっちゃい子供に変なこと吹き込むなよ」
「いや、それは私が言ったんじゃなくてこの子が」
と言いつつ、指差す先にいるリンは、何もわからないといった表情を浮かべて首をかしげる。
「こんな歳の子がそんなこと知ってるわけないだろう?」
「なんで私が悪いみたいになってるのよ……」
彩奈はそう言い残すと、不満そうな顔をしながら家に帰って行った。
俺様はその背中を見送りってから、ふと、リンの方を見てみる。
「?」
「……いや、まさかな」
こんな幼い子が下ネタなど言うはずがない、そう信じ込んでバス停へと歩みを続けた。
そして、姉と別れたと言っていたバス停へと着いたはいいものの……。
「おねぇちゃん、いないね……」
「流石にこいつを探しにうろついてるのか?」
俺様が辺りを見渡しながら姉らしき人を探していると、
「うぅ……」
横についてきているリンが顔を強張らせて、今にも泣きそうになっていた。
「お、おい、泣くなって。弱ったなぁ」
「……かすいた」
その場にしゃがみ込み、どうにか泣き止まそうと四苦八苦していると、リンは小さな声で何か呟く。
「へ? なんだって?」
「お腹すいた! もう歩けない」
「へいへい、わかりましたよ。ちょっとそこのベンチに座って待ってろ」
俺様は、駄駄を捏ねるリンをバス停のベンチに座らせ、近くにあるコンビニへと向かった。
「ほらよ、なんでも好きなもん取れよ」
俺様は、袋いっぱいのお菓子やジュースをリンに手渡す。
「うわぁ、おにぃちゃん、ありがと!」
「あぁ。……それにしてもお前の姉貴は全然現れねぇのな。そういえば、なんでこのバス停で降りたんだ?」
「もぐもぐ、ふごふご」
リンは受け取ったお菓子を口いっぱいに詰めて、俺様の質問など聞いていなかった。
「おいおい、そんな焦らなくても誰も取りゃしねぇって」
俺様は無視されたことを気にするでもなく、笑ってリンを見守る。スナック菓子を口いっぱいに詰め込んだせいで膨らんでいる頬を見ていると、なんだかこちらの表情まで綻んでくる。
だが、ハッとして首を振る。危ない危ない、今のままだったら俺様まで新しい境地に目覚めてしまうところだった。
リンはお菓子を一袋口に含み、それを缶のジュースで流し込むと、思い出したかのように質問に答える。
「おねぇちゃんは、確かお友達に会いにいくって言ってたような気がする!」
「そうか、ならそいつのところに行ってるかもしれねぇな。どこで会うって言ってたんだ?」
俺様が場所を問いかけると、リンはおもむろにポケットからスマホを取り出す。
「確かねー、これに聞いたらわかると思う」
と言って、リンはスマホを差し出す。
「なんだ? こいつに話しかけたらいいのか?」
「うん。siriって言って、聞いたらなんでも答えてくれるの」
「へぇ、そいつは便利だなぁ」
「このボタンを押してから、おねぇちゃんの友達の家はどこか聞いてみて」
「お、おう。えー、『リンの姉の友人の家はいづこか?』」
俺様がスマホに向かってそう聞くが、返答は『すみません。よくわかりません』だった。
「なんだこれ? 壊れてるんじゃねぇか?」
俺様は、上手く扱えなかったことをスマホのせいにして、画面を軽く叩く。
「もういい、わたちがやってみる」
リンは呆れた様子でスマホを取り返すと、また同じようなことを問いかける。
すると、俺様の時とは違い、様々な情報が画面に映し出される。
「この信号を渡って、左に曲がったらすぐだって」
「へぇー、俺様の家の近くなんだな」
リンが指差す方向には九重家の屋根が見えていたが、ただの偶然だろうと思い、リンと二人で姉がいると思しき場所に向かって歩いていく。
挿絵描いて見ました。これに関する感想、アドバイスもくださるとありがたいです。
表情をもっと柔らかくしたかったのですが、うまくできませんでした。やはり絵というものは難しいですね。




