裸の付き合いっていいですよね(肌)
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桐島の策略にまんまと乗せられ、ボクは覚悟を決めて、混浴と言われる露天風呂へとつながる扉を勢いよく開く。
ガラガラガラッ
立ち上る湯気の奥の大きな浴槽には一人の小さな影が見え、内心で高揚しながらも表情は素知らぬ顔で、影から対局の方の湯船へと浸かった。
向こうもこちらに気づいてはいるだろうが、出て行こうとも近づこうともしてこない。
山林に囲まれた絶景といっても過言ではないほどの景色も見ずに、目先にいる相手の出方を窺う。
そんな緊迫に包まれた状況下で、ボクの後ろについて来ていた桐島が小声で囁く。
「おい、ハル。あれは誰だ? 湯気で全然見えねぇけど、あの小柄な感じは多分女の子だろ?」
「さ、さぁ? わかんないなぁ」
と、口では言いつつも、ボクは確信していた。
「(おそらく、あの影の正体はシズネだろうな)」
だって考えてもみろ、あいつがこの風呂屋を選んだ理由もこの露天風呂目当てだろうし、それに浴槽に入る前すんなりとボクから離れて女風呂に入って行ったのも、どうせここで会えるからといった打算があったからかもしれない。
「ちっ、流石に俺も見ず知らずの同年代の女の子に裸で向かっていくのは、ちょっと気が引けるな」
首謀者の桐島も相手が見ず知らずの人だと知ると、怖気付いたのか弱気なことを言っている。
「なら、ボクが先陣を切ろうか?」
「ハル。お前ってやつは、お前ってやつは、……なんて最高の人間なんだ!」
キメ顔を作りながらそう告げると、桐島はボクの手を掴みながら尊敬の目を向けてくる。
「ここは、ボクに任せておけ!」
「おう、頼んだぞ。ハル」
それだけ言い残すと、ボクは湯船から立ち上がり、影に向かってタオルで前を隠しながら歩いていく。
「(しかし、このまま無鉄砲に近づいて行ったところで、あっちもこっちの気配を察知してるだろうしなぁ。……よしっ)」
そこまで考えたところで、ある妙案を思いつく。
ボクは数メートル先の気配に気づかれないように湯船に体全部を沈め、息も止めてそろりそろりと近づいていく。
「(浴槽を泳ぐのは普通マナー違反だけど、ボクらの他に客はいないんだから見逃してくれ)」
と、脳内で言い訳を垂れつつ、気づかれないよう慎重に泳いでいく。
いつもはボクが散々からかわれているんだから、これくらいのドッキリなら許容範囲だろう。との考えのもと、ボクは気配の目の前で、水面からたくさんの水しぶきをあげながら勢いよく飛び出す。
「ぶっはぁああーーー」
いきなり水中から何かが飛び出たことに驚き、その気配はボクに背後を見せる。
顔面についた水滴を手のひらで乱暴に拭い去ると、やってやったぜといった完遂の笑みを浮かべながら目の前の光景を見る。
もしこの話が小説なのだとしたら間違いなくR18指定になるかもしれないが、そんなことボクには関係ない。目の前に広がるパラダイスを事細かに描写してやる。
まず、いの一番に目に入り込んで来たのは赤く小さなお尻、そこから視野を広げ体全体を舐め回すように見渡すと、背中、腕、足にかけてどこを見回しても毛むくじゃらであった。
「はへっ?」
ボクの口からなんとも呆けた声が漏れる。
あっ、念のため言っておきますけど、シズネが全身毛だらけのやばい奴でしたみたいなハードネタではなくて、気配の正体は野生の猿だったって話です。はい、紛らわしくてすみません。
そんなことを考えている間に猿は森に帰り、入れ替わりに後ろから桐崎が近づいてくる。
「あれっ? おい、ハル! 小柄な女の子はどこへ消えたんだ!? まさかお前だけがいい思いしたんじゃないだろうな!」
「ちょ、そんなに近寄ってくるなよ気持ち悪い」
すごい剣幕でまくしたててくる桐崎を制し、落ち着かせながらさっきの出来事を話すと、すっかり意気消沈し湯船から立ち上がった。
「……そうか、やっぱり混浴ってのはリアルには存在し得ないものなのかもな」
「まぁ、そういうことだな」
「ならば俺は今すぐ風呂を上がり、女の子たちの風呂上がりの火照った体を目に焼き付けてくる! じゃあなハル、お先」
「お、おう。頑張れよ?」
落胆したかと思えばすぐに立ち直り、起死回生の一手を思いついたとばかりにウキウキしながら出て行く桐島を見送り、ボクは浴槽の淵に背中を預け天を仰ぐ。
「うーん。いい湯だなぁ」
最近はやれ熱が出ただの、やれ勉強に勤しむなど、忙しい毎日を過ごしていただけに、こんな開放感のある温泉が心地よい。
ボクもそろそろ出ようかと思った直後であった。
ガラガラガラッ
ボクの入って来た方の入り口からではないところ、つまり女風呂から数人の談笑する声が聞こえてくる。
その中には、桐島の彼女である佐藤さんの声もあった。
このまま浸かっていたら気配でバレると思い、何も考えずに水中に潜るボク。
これが愚策だった。
何しろここは混浴なのだから、気兼ねなく堂々と構えておけばいいものの、隠れることによって自分はいけないことをしているのだと自白しているようなものだった。
ボクはバレないように桶を盾にして頭を出して様子を伺うと、チャンスはすぐに訪れた。
「わぁ〜。すごいいい景色。みんな見て見て」
「「えーどれどれー、うわーほんとだすごーい」」
佐藤さんが目下に広がる景色を指差すと、全員の視線がその先へ向く。
ボクはその瞬間を見逃さずに、音を立てないようにしながらも忍者のように忍び足で、男風呂へつながる扉の前に移動する。
ここまでは誰にもバレなかった。扉を開くとき音がするかもしれないが、この際ボクだとバレなければどうでもいいだろう。
これは佐藤さんには感謝をしなくてはいけないな、佐藤さんからしたら見に覚えのないことだろうけど。
と、内心ホッとしながら扉に手をかける。
ガタッ
「!?」
開かない、扉が、開かない。ま、ま、まさか桐島の野郎、扉を締めていきやがった!?
現実を受け止めきれずその場で呆然とするボク。
「あれっ、さっき物音しなかった?」
湯船の方からそんな声が聞こえ、ボクは生まれて初めて背筋が凍る感覚を実感した。
このままでは、ボクは女の子たちの裸体を覗き見る変態と思われてしまう。実際は一眼も見れていないのに。
もういっそ今からでも堂々と初々しい女体を見に行こうかと、最悪判決を下そうかとしていた刹那。
「ウキィ?」
「あっ、お猿さんだったんだ。えー、なんかすっごくかわいいんですけどー」
野生の猿がボクの前に現れ、女の子たちはボクに気づくことなく猿に注目が行く。
乱入者のおかげで目先の問題は解決したものの、まだここから抜け出す突破口が見当たらない。
「(どうするどうする?この入り口以外に逃げ場はない。温泉の周りは崖で到底降りれそうにないし……いや、入り口は一つじゃなかった」
最終的にボクのたどり着いた結論それは、『女風呂を突破する』と、いった強硬策であったが、実際問題それしかなかった。
もしバレるとしても、今露天の方にいる佐藤さんたち顔見知りよりマシだ。
この結論をわずか五秒で脳内整理したボクは、何食わぬ顔で女風呂に突入する。
案外中は空いていた。ちらほらおばあちゃんぐらいの年齢の人が見えたけど、目が悪いのか人に関心がないのかボクを気にかける様子はない。
そのまま直進し、浴場を出て脱衣所についた時は勝ちを確信した。
だが、
「晴人、くん? なんで女子風呂から出て来たの、かな?」
上下ピンクのレースが可愛い下着姿のシズネとばったり出会ってしまう。
髪はまだ濡れていて、体からはまだ湯気が込み上がってきている。
「そ、それよりさ、シズネは混浴風呂入った?」
「えっ? あ、うん。まぁ入ったけど」
「あっ、やっぱり? 効能が見て取れるもんね」
ボクの言葉に最初はぽかんとしていたシズネも少しすると意味を理解したのか、形の良い慎ましやかな胸を片手で抑えながらボディブローを放った。
「ぶぼごはぁっ」
腹を抑えながらその場に倒れこむボク。湯あたりのせいもあり、意識が一瞬で途切れる。
ボクは記憶が途切れる瞬間、眼前の肢体を目に焼き付けたのであった。




