混浴風呂があって特攻しない理由など皆無ですが(混)
その後、電車に揺られること一時間と、バスに揺られること二時間。
ボクはシズネの案内の元、見渡す限りの田園風景しかないドがつくほどの田舎にたどり着いた。
「こんなところに温泉なんかあるの?」
「んー、多分ここら辺なんだと思うんだけどねー」
あたりに建物がないことに疑問を持ち問いかけると、シズネはケータイの地図を見ながら歩き出す。
「だいたいなんでこんな遠くまで来たんだよ?」
「……ま、まぁそれはいいじゃん。旅気分で楽しいでしょ?」
シズネは返答に一瞬固まり、何やら言い澱んでいたが、持ち前のテンションの高さで強引に話を流す。
「ま、確かに。こんな遠出することなんて滅多にないし、たまにはいいかな」
「そうでしょ、そうでしょ? あっ、そんなこと言ってたら、目的地の温泉が見えて来たよ」
ボクはさしてシズネの思考を気にすることなく自己完結して、温泉へと歩みを続けた。
銭湯の趣あるのれんを片手ではたきながら、中に入るって行くと、正面には客が来たのにピクリとも動かない、置物のようなおばあちゃんの番台さんがいた。
「あ、あの大人二人なんですけど……」
「なんじゃって?」
靴を脱ぎ、男女に分かれた脱衣所の真ん中にいる番台さんに入浴料を尋ねると、耳に手を当てながら聞き返してくる。
「えっと、大人の入浴料っていくらですか?」
「あぁ、そんなら一人五百円さね」
今度は若干大きめの声で言うと、やっとわかってくれたのか、ボクらを見据えて言う。
「わかりました。じゃあこれで」
「それにしても珍しいねぇ。今日は若くてめんこいお客さんがたくさん来てねぇ」
きっちりとお金を払い、番台さんの独り言を聞き流しながら、ボクはもちろん『男』と書かれた方に向かって歩み出す。
「……で、なんでシズネは何も言わずボクの後ろについてくるわけ?」
「だって、晴人くんはそっちの方が嬉しいでしょ?」
本音を言えばその方が嬉しいに決まっている。だが、そんなこと公言するわけにもいかず、表面上の体裁を守るべく、ボクはのれんを指差す。
「お前にはこの『男』という文字が見えていないのか!?」
「いつまでもそんな固定概念に囚われていちゃ、いつまでたっても人間進化して行かないよ?」
「そんな変態的進化なんかはしなくて結構!」
ボクがはっきりと拒否を示すと、さしものシズネも冗談で言っていたのか、すぐに引き下がり『女』の文字の書かれたのれんをくぐっていった。
外観の割に中は、そんなに汚れても寂れてもいないいたって綺麗な脱衣所をみて、浴槽への期待がどんどんと膨らみ、乱雑に服を脱ぎ捨てガラリと扉を開ける。
「おぉ〜、これはすげぇ」
と、思わず感嘆の声が漏れるほどの美麗な富士山に激しく心打たれていると、先客がボクに声をかけてくる。
「おっ、こんなところで偶然だな。ハル」
「おぅ、桐島か。ほんと偶然だな」
中に入るや、出会った人物はボクの友人で、久しぶりの登場の桐島 光一であった。
「なんだハルはここまで一人で来たのか?」
「いや、ちょっと付き添いみたいな感じでね。お前は?」
「んー、まぁ俺は彼女とかとだな。んなことより、そのハルが拉致って来た人ってのは女か?」
「お前耳がバグってるのか? 付き添いだってば。同級生の女の子」
「へぇ〜、ってことはこの温泉の効能も知ってるのか?」
「どう言うこと?」
「知らないのなら教えてやろう。この温泉には奥に露天の混浴風呂があって、そこに入ると女は胸が男はシンボルが大きくなるらしいんだ」
「はぁ、なるほど。だからか」
やっとシズネが、何故こんなとこに行きたいと言い出したのか合点がいった。
「んで、だ。今から俺は混浴に特攻しようと思う。一人で心細かったがハルがいてくれるなら百人力だな」
「なに、さもボクも行きたがってるだろうと思ってるのさ」
話を聞いた瞬間に飛びついてくるとでも思っていたのか、ボクのノリの悪い反応を見て、桐島は驚愕の表情を浮かべる。
「な、なんだと!? あの変態の化身とも呼ばれしハルは、女性の裸体を凝視する絶好のチャンスをみすみす逃すというのか?」
「誰が変態の化身だ! 誰が! ……ったく、そんなとこ行ったってどうせおばあちゃんくらいしかいないだろうし、効能だってどうせデマだろうし行く意味ないだろ?」
「ばっか、ハル。今日は俺は誰と来たと行った?」
「……ん、もしや!?」
ボクは脳内で、数分前の桐島の発言を反芻する。
確か『彼女とか』っていってたな。っていうことは同年代女子が何人かいるってことか!?
「ふっ、俺は今日この日のために下準備を重ねに重ねたんだぞ。例えばこの温泉の効能を雑談に紛れさして、あっちから行きたいと言うように仕向けたり」
「…………」
桐島は自分の功績を聞いてもいないのに、拳を握りしめながら勝手に語り出す。
「そこですかさずネットで仕入れた割引券を渡して友達とでも行ってこれば? と白々しく言ったところで俺の任務は遂行できた。その甲斐あって今日はこの一つ壁の向こうにエデンの園が広がっている」
「……お前、女体を見るために必死だな」
「当たり前だろうが、そのためだけに来たと行って差し支えないからな」
「いや、そこは差し支えあれよ」
呆れながらツッこむボクの肩に手を置きながら、桐島が悪魔の誘惑を告げてくる。
「いくぞ戦友! もし見つかっても、俺らには混浴という大義名分の二文字がついているんだ。何も怖がることはない」
「……わかった。何よりボクも男だ。腹をくくろう」
ボクは誘惑に魅了され、エデンの園へとつながる扉へと手をかけた。




