ボクは変態なんかじゃないです(変)
とある日の放課後。大半の生徒が部活か帰路につく中、ボクは一人の少女と対峙していた。
「そ、それでボクに何の用なのさ?」
この瞬間だけを側から見ると、女の子がボクに告白しようと、緊張して固まってるように見える。
「あ、うん。それはね……」
だが、それは大間違いである。
「あたしを弟子にしてください」
数ヶ月前に聞いたセリフがフラッシュバックし、それを懐かしく思いながらボクは、シズネの目を見てはっきりと言う。
「ごめん。無理」
ま、手紙を読んでこうなることは、おおよそわかってたんだけどね……。
「……それじゃあね」
シズネは、手を振りながら帰ろうと踵を返す、ボクの腰を掴み食い下がる。
「えー、なんで? 晴人くんって弟子がいるんでしょー」
「た、確かに弟子は一人いるけど、これ以上弟子を取る気は無いから」
「でも聞いた話だと、晴人くんは可愛い子を集めて日夜遊んでるって」
「誰だよ、そんなあられもない話を流してるのは……」
やいやい言うシズネの話を嘆息しながら聞き流していると、ポケットに入っていたケータイが振動する。
それを取り出し画面を見ると、瑞希さんからメールが一件届いていた。
『ハル君今どこにいるの? もしよかったら一緒に帰らない? 今日彩奈ちゃんがお料理教えてくれるって言ってたからハル君の家に行くの』
その文章をニマニマしながら読み、返事を書き込んでいると、後ろからシズネがメールを覗き込んでくる。
「ふーん。そう言うことなんですか……、晴人くんはその瑞希さんって人と夜の営みをする関係にあるの?」
「そんな言い方じゃなくて、付き合ってるのかって普通に聞けよ」
「で? 付き合ってるの?」
「い、いや、そんなことはないんだけど……」
と、言いよどんでいるボクに、シズネは何を思ったか、小声で何かを呟きながら拳を硬く握る。
「じゃあ、あたしがその瑞希さんって人を倒して、晴人くんの一番弟子になればいいって話よね」
「なんでそうなるの!?」
「だって晴人くんは弟子を一人しかとらないって言ってるんだから、力ずくでその座を奪い取るしかないじゃない」
「いや、別に弟子を一人しかとらないって言ってるんじゃなくて」
シズネはボクの言葉など聞く耳を持たず、あらぬ方向を見ながら一人宣言する。
「そうとなったら敵前逃亡はあり得ない! 今から晴人くんの家で、いざ勝負!」
「なんのだよ!?」
ボクの制止を振り切って、シズネは校門まで走って行った。
「と、いうことなんですよ……」
帰路の途中、瑞希さんとてくてく帰りながら、ついさっきあった出来事を話していた。
「ふーん、そうなんだ」
瑞希さんはボクが話しだした最中から、ずっと顎に手を当て何か考えている様子だった。
ボクは、やはり弟子が増えるのに反対なのではないかと思い、
「やっぱりボクの弟子は瑞希さんだけで十分ですよね。今度会ったら話しつけときますから」
「……私もついに兄弟子かぁ。あ、でもこう言う場合は姉弟子ってことになるのかな?」
と、頬を緩ませながら聞いて来る質問に、ボクは「そうですね」と苦笑いしながら答えると、ボクの家が見えてきた。
「ただいまー。って誰もいないのかな?」
「お邪魔します」
玄関の扉を開け中に入ると、玄関先には誰の靴もなく、家の中には誰もいない様子だった。
鍵が開けっ放しの玄関を見て、なんとも無用心だなと思いながら靴を脱いでいると、瑞希さんが自身のケータイを見ながら話しかけて来る。
「彩奈ちゃんは部活のミーティングをしてから帰るってメールが来たから、たぶんまだ帰ってこないと思うよ」
「そ、そうなんですか」
って言うことはこの家には、今ボクと瑞希さんの二人っきり……。
前にもこんな状況あったけど、その時は兄さんにいらぬ前座を立てられて、変な空気になってしまったし、今回こそはいい雰囲気になるよう頑張ろうと思った矢先。
ピンポーン
瑞希さんを居間まで招き、お茶を出そうとしているところで、玄関のインターホンが鳴る。
「誰だろう?」
兄さんでも帰ってきたのかと思い、なんの不信感もなく扉を開けると、そこにはメイドのコスプレをしたシズネが立っていた。
「御機嫌よう晴人くん。あっ、でもこの格好だったらご主人様のほうがいいかな?」
「…………」
ボクは無言で扉を閉め、鍵をかける。
「ちょっと開けなさいよー。これじゃ勝負できないじゃない!」
扉の向こうから何やら言ってるのが聞こえたような気がしたが、気のせいだろうと自分に言い聞かせ、沸かしていたお茶を注ぎ瑞希さんのいる居間に持っていく。
「すみません。なんか変な人と出くわして、ちょっと冷めちゃってるかもしれないですけど、このお茶よかったらどうぞ」
「ありがとう。ハル君」
「ふむふむ。くるしゅうないぞよ」
二人分のお茶とお茶請けを机に置くと、ボクの分に手を伸ばしてくるやつがいた。
「……なんでシズネが部屋の中に入ってるのさ」
「え? 入れちゃまずかった? 窓の外でこっちを捨て犬のような潤んだ目で見てくるからついつい中に入れちゃったんだけど」
「はぁ、まあ入れちゃったんならもういいですけど、それで何しに来たんだ?」
ボクは、黙々と茶菓子をパクつくシズネに問いかける。
「はっ、お茶とお菓子が美味しすぎて忘れていた! 白河 瑞希先輩。あたしと晴人くんをかけて、いざ尋常に勝負です!」
「うーん。いいよ」
「えっ、いいんですか!?」
瑞希さんが二つ返事で了承すると、シズネは想定外の反応に驚く。
「ならば、弟子というもの師匠に奉仕するのは当たり前。ということで、まずは耳かきで勝負です」
シズネはポケットからオーソドックスな耳かきを取り出す。
それをボクに手渡し、フローリングに寝転がる。
「で、なんでお前はボクの膝に頭を乗せてるわけ?」
「ふっふっふ、ひとえに奉仕と言っても、いろいろなやり方があるってところを見せてやりますよ」
仕方なく耳かきを受け取り、サラサラの髪をかき分け、小さな耳の中に耳かきを突っ込む。
「あぁ〜ん」
「ちょっと、あんまり変な声出すなよ」
「晴人くんは喋らないで耳かきに集中してて」
シズネは真剣な瞳で睨みつけ、その眼光でボクを黙らせる。
「はー、もうわかったよ」
ボクが仕方なく了承すると、シズネは不敵な笑みを浮かべながらボクの膝に頭を乗せる。
「そこそこぉ、もっとほじくってぇ〜」
静かな部屋の中に、シズネの淫靡な声がこだまする。
だが、ボクはそんなことを気にせず、黙々と耳かきを続ける。
「あぁ〜、うぅん。そんなに奥まで行っちゃったら膜が破けちゃうぅ〜」
修行僧になった気分で脳内でお経を読み、煩悩を打ち消しながら掻き続けると、シズネは体を悶えさせ胸元を握りながら大声で喘ぐ。
「そうそうぅ。その白い物体も穴の中につっこんでぇ〜」
瑞希さんの顔色が朱色に染まったところで、ボクは頭の中に浮かんでいたいくつもの苛立ちの種を口に出す。
「その、膜って言うのは鼓膜のことだろ! 白い物体なんて意味深な言い方じゃなくて耳かきの反対についてる綿毛ってちゃんと言えよ!!!」
ボクのツッコミが鼓膜どころか部屋をも響かせたのであった。




