弟子にして下さいですって(再)
患っていた風邪が瑞希さんのおかげかすっかりと完治し、またいつも通りの学校生活が始まるのかと思いきや!?
ボクは教室の隅の席に座り、びっしりと文字の書かれた用紙を眺めながらため息をこぼす。
「はぁー、なんでボクのところにまた……」
こんな困った表情を浮かべていても、ボクに話しかけてくる奴など一人もおらず、ボクは机に伏せてただその時が来るのを拒むように、時計の針をじっと見つめていた。
今朝、寝ぼけた頭で下駄箱を開くと、一枚の手紙が入っていた。
学園の美少女といつも一緒にいるボクへのイタズラなどはたまにあるが、今回のこれはそれと一味も二味も違う。
本当はもっと長いのだが、割愛して読むとこんな感じだ。
『九重 晴人様へ。あなた様の性知識の博学さ熱心さ、あたしは激しく心打たれました。今日の放課後校舎裏にて待っています。一年一組酒井 静音』
酒井 静音といえば、ボクの通っている学校の中で瑞希さんと一二を争うほど、男子生徒から人気のある生徒である。だが、聞いたところによると、彼女の性格は少しおかしいっぽい。
聞いた話だと保健のテストは全て満点で、しかも教科書に載っていないことも教師に聞く熱心さは、凄まじいものらしい。
そんな彼女がボクに手紙を送って来るなど、波乱の予感をビンビン感じる。
来るな来るなと思っていても時間は刻一刻と過ぎて行き、あえなく放課後になってしまう。
「はぁ、ボクは普通の学園生活を送りたいだけなんだけどな……」
そんな台詞を吐きながら、少し寒くなってきた校舎裏で手紙の送り主を待っていると、
「あなたが九重 晴人くんだよね?」
「そう、ですけど……」
背後から名前を呼びかけられ振り向くと、そこには評判通りの完璧美少女……ではなく某大人気キャラクターの大きなネズミの着ぐるみを着た人物が立っていた。
「私の名前は酒井 静音。シズネでいいよ」
シズネと名乗った着ぐるみはくぐもった声で、ボクに向けて自己紹介をする。
「じゃ、じゃあシズネちゃん? で、その格好は何?」
「ちょっと、晴人くん! そこはちゃんじゃなくて、くんにしてよー!」
「あの、ボクの質問聞いてる?」
質疑応答が成立しないことに若干イラっとしたが冷静に聞き返すと、シズネは平然とした声音で答える。
「あ、いまのは本当にクンニをしてって言ったのじゃなくて、シズネ君の方が響きがいいなって思っただけだから、勘違いしないでよねっ!」
「いやっ、そんなこと全く意識してなかったよ!?」
怒涛の勢いで下ネタを言われ動揺を隠せないボクに、シズネは顔を近づけ、さっきの発言などなかったかのように違うことに対して憤慨しだす。
「ちなみにこの着ぐるみは、全世界で有名なテーマパークのマスコットキャラクターなんだぞ!」
「……ボクはそれをなんであなたが着ているかを聞いてるんだけど?」
ボクがジト目を向けながらそう言うと、シズネはわざとらしく目線をそらす。
「そ、それは……裸眼で晴人くんを直視すると、女子は全員孕んじゃうって噂を聞いたから……」
「そんなのでまかせだからっ!」
そんなデマが学校中に流れていることを知り、心に計り知れないほどの大ダメージを受けていると、シズネはあっけらかんとして頭にかぶっていた被り物を取る。
「そうなんだ! じゃあこれ脱いじゃおー」
中から現れたのは、ふんわりとした柔らかそうな印象を持つセミロングの亜麻色の髪。それを着ぐるみの大きな手で梳き、現れたのは見事に整った顔つき。
カラーコンタクトをしているのか、長いまつ毛の中にある茶色い双眸に見つめられると、ボクもうっかり惚れてしまいそうなほどである。
「あれっ? んー、届かないや」
ボクの思考などつゆ知らず、シズネは背中の近くにあるファスナーに手をかけようとするが、手が届かず一人でもがいていた。
「あのー師匠くん? これ下げてくれませんかね?」
「あー、はいはい。って、まだボクがあなたの師匠になるなんて一言も言ってないから!」
そんな文句を垂れながらしぶしぶ後ろに回り、背中についたファスナーを下げると、中からはよほど暑かったのか湯気がこみあっがてきた。
「ふぇー、ありがとー!」
ここで、ボクの脳内に一つの疑問点が生じる。
目の前に広がっているのは、一面の肌色。そこには、よほど暑かったのか汗が滴っている。
「あのー、シズネ君。つかぬ事を伺ってもいいかな?」
「なーにー?」
シズネは手の平をうちわ替わりに扇ぎながら、適当に返事をする。
「こ、この下って何か身につけてる?」
ボクは角度的な問題で見えていないだけなんだろうと高を括り、フラットにさりげなく聞くと、シズネはさも当たり前かのように答える。
「ううん、何も履いてないけど?」
「いや、だったら脱いじゃだめだろ!」
ボクはファスナーを下げる手を止め、首を九十度回転させ、綺麗な柔肌を見ないように後ろを向く。
「やっだなー、さすがに下は履いてるよー?」
「なら上も履けよ!」
「はっはっはー、冗談だって流石に履いてるよー」
シズネはボクをからかって、ご満悦の笑みを浮かべる。
「そ、それでボクに何の用なのさ?」
まだ少し動揺しながらも、ボクをここに呼び出した要件を聞く。
すると、シズネはさっきまでの勢いはどこにいったのか、手を交差させモジモジとして、言葉を詰まらせる。
「あ、うん。それはね……」
ん? なんだこの雰囲気は? 校舎裏に男女が二人っきりで、しかも女の子が顔を赤らめ言うことといえば……。
「あたしをぜひ弟子にしてくださいっ」
「ごめん。無理」
壮大なデジャブを感じながら、ボクは笑顔で美少女からの申し出を断った。




