店内はお静かにですって(謝)
友人の桐島 光一にメールで呼び出されたボクは、なんの用件か聞き出そうとしたところで、軽い修羅場に遭遇した。
桐島の彼女の佐藤 美穂が、ボクたちの居る喫茶店に押しかけて来たのだ。
佐藤さんは怒りながら桐島を店外に連行し、残されたボクは少しの間あっけにとられてからハーフの少女から話を聞くことにした。
少女の名前は花村 ミラというらしい。だが、花村さんと呼びかけると目に見えて不機嫌になるので、ミラと呼ぶことにしている。
ミラの話によると日本に来たのは数週間前で、最近何者かにつけられているらしい。まあ、俗に言うストーカー被害というやつだ。
そしてミラはボクに、そのストーカーを捕まえて欲しいと言う。
だが、ボクはモチベーションが上がらないとの趣旨を伝えると、ミラは考える人の像と同じポーズをとりだす。
「…………」
「どうしたの? 急に黙り込んで」
「餅はわかるのです。でもベーションってどういう意味なのです?」
「さ、さあ?」
ボクが曖昧な答えかたをすると、ミラはまた考える体勢に戻り、うーんうーんと唸りだした。
すると、
「失礼いたします。お冷のほうお注ぎいたしましょうか?」
ボクらのところに、筋骨隆々で超強面の店主らしき人が、お冷の入ったジョッキを片手に尋ねてきた。
「あ、はい。お願いします」
ボクの返事でミラは店員の存在に気づいたのか、お冷を注ぐ姿をじっくりと凝視した後、テーブルから身を乗り出して尋ねる。
「マスター、ベーションってどう言う意味なのです?」
ボクは、口の中に含んでいた水を壮大に吹き出した。
「はへっ? ……そんなこと私に聞かれましても」
「ちょ、すみません。なんでもないですから」
「は、はぁ。失礼します」
困惑している様子の店主は、ボクたちのことを奇異の視線で見ながら他の席へ向かった。
「ちょっと、ミラ。日本語がまだうまく使えないのはわかるけど、その単語は使わないほうがいいよ」
「うん。わかった、です?」
とりあえず変な話は置いといて、本題に入ることにする。
「それで、そのストーカーはどこで現れたの?」
「ミラが家に帰ると、毎日玄関先にこんな置手紙が置いてあるのです」
そう言いながらミラはボクに、白い封筒にハートのシールで留められた手紙を見せてくる。
『今日のミラちゃんは、昨日よりも何倍も何十倍も何百倍も可愛いね。いつかこのはち切れそうな思いを顔を合わせて伝えたいな。でも、もう少ししたら会えるかもしれないよ。その時を心待ちにしていてね』
手紙を裏返してみると、そこには『ミラちゃんの白馬で王子さま、永遠のスイートボーイより』と書かれている。
はっきり言って全く意味がわからない。甘い男の子ってなんだよ、あと白馬で王子さまなんだったらこの手紙の送り主は白い馬なのか?
「気持ち悪っ!? 変態と罵られて気持ちよくなるのはまだちょっとわかるけど、さすがにこれはないかな」
ボクは、この手紙を読んで思ったことを何の気なしに口に出してしまう。
それをミラは、聞き逃してはくれなかった。
「はるっちは、なんで罵られて喜ぶのです?」
「いや、今はそんなことよりストーカーの話をしよう」
ミラは、突然話を元に戻すボクのことを訝しむ様な視線で見つめてくる。
そんな表情で見られてしまうと、また気持ちよくなっちゃうぞ。……なーんてね。
「でも玄関にあったってことは、住所もバレてるってこと?」
「そうなのです。でも、まだ日本に来てから誰にも家の場所教えてないのにです……」
「それじゃあ、誰かにこっそり後をつけられてたとか?」
「かもなのです……」
「でも、毎日家に来るんだったら玄関前に張り込んでいたら捕まえられるんじゃないの?」
誰でも思いつきそな解決法を提案すると、ミラはその手があったかと言わんばかりに手を叩きながら、大きな声でボクを賞賛する。
「おおぅっ。そうです、それです! はるっち頭良いです!」
「あの、他のお客様のご迷惑になりますので、店内ではお静かにお願いします」
店長がひたいに太い青筋をいくつも浮かべながらボクたちを注意してきて、ボクはその場で平謝りする。
「すみません、すみません、すみません」
ボクが必死に謝っている横で、ミラが謎にテンションを上げてシャツの服の裾を引っ張る。
「そうとなったら早く行くのです!」
ボクは、店長に注意されている間も空気を読まず大きな声でそんなことを言うミラの首根っこを掴んで、急いで店を出た。




