ここからがお話の始まりですか!?(楽)
作戦会議をした次の日、予定通り作戦は着々と決行されていた。
「いやー、案外簡単に集るもんやな」
神咲さんは呑気に笑いながら言うが、現在の状況は最悪である。
ここは学校の屋上、ボクと神咲さんが二人でドアの前に立っていて、二人は黒装束の集団瑞希様ファンクラブを名乗る奴らに包囲されていた。
「残念だよ、九重 晴人。僕らだって暴力はあまり好まないのだがね……」
「今日はただやられに来たわけじゃない、お前らを解散させるために来たんだ」
「それで僕らを集めるためにこんな卑劣な手段をとったのかい?」
胸に煌めくバッチをつけたファンクラブのリーダーが、懐から数枚の写真を取り出した。
その写真は、一昨日のお弁当の中に入っていた白河さんの薄着写真にボクを合成させて、いかにも襲っているかのように写っている。
「それにしてもよく僕の名前と下駄箱の位置がわかったね」
「自分でファンのサイト立ち上げといて何言ってんだ。ネット社会舐めんな。バカでボクのクラス委員長、中田 明」
ボクが軽く煽ったら、中田はひたいに青筋を浮かべながらキレる。
「まだ制裁が足りていなかったようだね……。で、今回はどんな拷問をご所望かな?」
器用にボクの写っているところだけをシュレッダーにかけたかのように細かく破り捨てる。
「ボクと一対一で勝負しろ」
中田はボクの発言を嘲笑してから、拳を作りながら了承する。
「まあ、いいだろう。空手経験者の僕が負けるはずなど皆無に等しいしね」
「よし、いくぞっ!」
先手必勝とばかりに突進するボクだったが、
「これは面白い、闘牛のショーと来るところを間違えたかな?」
中田はそれを笑いながら簡単に避け、軽く踏み込みパンチを放つ。
「……っ!」
拳がボクの頬にめり込み、痛みに顔をしかめながら後ずさる。
つつーっと自然と鼻血が流れ、顎をつたってポトポトと地面に落ちる。
「今のは僕の半分の力も出してないんだよー、そんなので僕によく戦いを挑んで来たもんだねぇ」
嘲笑しながら蔑んでくる中田に、ボクは右こぶしを振り上げ、無鉄砲にまた向かって行く。
「こんのっ!」
「ふんっ」
中田は軽いサイドステップでボクのパンチを難なくかわし、前のめりになった僕の体のみぞおちに躊躇なく蹴りを入れた。
「うぐっ……」
衝撃が骨をすり抜けて内臓まで響いてきた。
あまりの痛さに腹を抱えてうずくまるボクに、中田はトドメを刺すように殴り続ける。
左のパンチが肋骨をきしませ、右のパンチが頬を貫いた。
あまりに一方的な暴行に、周りにいたファンクラブの奴らも引いていただろう。
「いい加減に……しろよっ!」
もう何度目になるだろうか、中田の右拳がボクの左頬をえぐる。
口の中に血の味が広がって、目の前の視界もだんだんと朦朧としてくる。
「……くっそたれ。こんなところで倒れられるかよ」
口では大口を叩くが、正直ボクは足にきていて、もうその場に立っているのがやっとだった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
さすがに殴り続けている中田も息を切らし、パンチにキレがなくなってきた。
そんな時、作戦通り神咲さんが呼んでくれたのだろう、白河さんが長い髪を振り乱し、息を切らしながら屋上に来る。
「ハル君っ!」
この惨状を見て止めに入ろうとしたが、神咲さんがそれを止める。
「ハル君っ。もういい、もういいよっ」
ボクを止める声が聞こえる。だが、ボクはその声に耳を貸さずに目の前を向きながら宣言する。
「ボクはもう、あの人の前で二度と倒れない」
「うっせんだよ、早くぶったおれろやぁー!」
明らかに大振りのフックを見切り、頬にかすめながらかろうじて避けた後、ボクは残りの気力を振り絞りパンチを放つ。
「うおおおぉおぉおおぉおぉぉーーーーーっっ!」
「が、がはぁっ」
最後の力を振り絞った渾身の一撃のパンチが、中田の顎を下から貫く。
一瞬宙に浮いた中田の体が、酔っ払いのようにフラフラとボクから離れていく。
中田は何が起こったかわからない様子で、ボクを睨んでから後ろに振り向きながら叫んだ。
「くそったれ。し、しょうがねえ、こんなやつまたみんなでやっちまえー!」
「はーい、残念無念また来年やねー」
振り返った先には、神咲さん以外の姿はなかった。
目線を少しずつ下げていくと、ファンクラブの全員は顔に大きなたんこぶをいくつも作らせながら気絶していた。
「なん、だと……」
驚愕の表情を隠し切れていない中田に、神咲さんはゆっくりと近づいていき、軽く振りかぶってから一発殴る。
「ぐぼはぁっ」
その一発だけで中田は意識を失い、床に受け身も取らず顔面から倒れ伏せた。
フラフラと今にも倒れてしまいそうなボクを白河さんがそっと受け止めてくれた。
「ハル君、だ、大丈夫?」
そしてなんとか途切れかけている意識をつなぎとめ、一歩下がり目を見つめながら言う。
「白河さん……。いや、瑞希さん。ボクはもうあなたの前で二度と倒れたりしません。だから……。だからまたボクの弟子になってくれますか?」
頬の筋肉が麻痺しているのか自分でもうまく笑えているかわからない。でも瑞希さんの顔を見て優しく囁いた。
それに瑞希さんは大粒の涙を流し、美しい顔を歪ませていた。
「はい、私を弟子にしてくださいっ!」
瑞希さんは大きな瞳をうるわせながら、屈託のない笑顔でそう答えた。
数分後、やっと落ち着いたところで急に突風が吹き、瑞希さんの顔に一枚の写真が張り付く。
「なんだろう? これ?」
「あっ、そ、それは……」
ボクが回収するよりも早くに、瑞希さんはその写真を見てしまった。
「い、いやぁああぁあああ」
「ぶびゅろはっ」
ボクは美少女に思いっきりビンタをされて、なんだか新しい性癖の道に導かれてしまいそうになりました。