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15 真実


「おめぇだけには、俺様は絶対負けてなんかやらねぇ」


 親殺しのリューグナー・ライヤー。

 そう呼ばれて恐れられたリューグナーに好き好んで話しかけてくるのは、魔界ではふたりだけだった。


 そのうちのひとりは真っ赤な髪に紅いツリ目。

 見た目からしてうるさそうな奴だった。


 冷めた目をした幼い頃のリューグナーは、仁王立ちで立ちふさがった彼に無表情を返すのみだった。


「俺様より目立つなんて許されねぇ。今日から俺はリューグナー・ライヤー! おまえのライバルだ!」


 高らかに宣言した彼の名はヴォルケイス。

 リューグナーの先を常に歩いていたい彼は、事あるごとにリューグナーに勝負を挑み、ついにはリューグナーよりも先に魔王となった。


 *


「リューグナー! 久しぶりだなぁ。元気してたかよ。おまえもやっぱり魔王になるんじゃねぇか。俺が魔王になったときなんか『俺は魔王になるつもりなんてない』とか冷めたこと言ってたくせによ。やっぱ、負け惜しみだったのかァ?」


 きつい顔はしているが整った顔立ちをした赤髪の男はロゼッタを抱き寄せて、その綺麗な顔を挑戦的にゆがませる。

 逃れようと暴れると、鋭くとがった爪が喉の血管を突き破りそうで動くこともままならなかった。


「ヴォル。何しにきた。ロゼッタを離せ」


 臨戦態勢でリューグナーはヴォルと呼ばれた男を睨む。

 男はリューグナーの攻撃的な視線を受け止めて、嬉しそうに口角をあげた。


「俺はこないだ世界滅ぼしてきたとこだ。魔王様として大活躍だ。それで久しぶりに魔界に帰ったら、おめぇの噂を聞いた。魔王になったくせになーんにもせずふらふらしてると思ったら、突然姫を誘拐してきて、しかも勇者を部下にしたってよ。ダチの活躍を見に来てやっただけだろ」


「じゃあ、ロゼッタを抱えとく理由はないだろ」


 軽快にしゃべる男とは反対にリューグナーは低く唸るような声を出す。


 ロゼッタがあまりにも強い力で抱きしめられるのに息が苦しくなり、「う」と小さく声をあげるとリューグナーばかりを見ていた男は「おっと」と声をあげてロゼッタの顔を覗きこんできた。


「わりぃわりぃ。力加減が難しくってよ。人間って脆いからな。おめぇをこんなにあっさり壊したらリューグナーに殺されちまう」


「あなたは、誰なんですか? リュー様のお知り合いでしょうか?」


「俺様の名はヴォルケイス。ついこの間百個目の世界を滅ぼすことに大成功した偉大なる魔王様であり、あのリューグナー・ライヤーのライバルだ。次の大魔王として名を馳せるのは俺だって噂されてる優秀すぎる魔族さまだ。さあ、俺は名乗った。次は、俺がおめェに聞きたいことがある」


 ヴォルケイスがロゼッタの顎を掴んで持ち上げる。

 無理矢理上向かされたロゼッタはヴォルケイスの訝しむような瞳に映る自分を見つめた。


「おまえこそ誰だ。死んだお姫様よォ」


 ひゅっと喉が鳴った。


 咄嗟にリューグナーの反応を見ようとしたのに、顎を押さえるヴォルケイスの手のせいでリューグナーの姿を視界におさめることはできなかった。

 見えるのは、ただヴォルケイスの瞳に映るひどく狼狽した自分の姿だけだった。


「わ、たしは……」


「やめろ、ヴォルケイス!」


「何をやめるってんだ! おまえが馬鹿ではずれくじ引いてっから教えてやりに来たんだろうが」


 舌を打ったヴォルケイスがリューグナーを睨みつける。


「おまえがだらだら魔王やってる世界がどんなもんか見に来たら、変な噂を耳にした。もう一人姫がいるだとか、本物がどうだとかな。リュミエーラ城だっけか? あっこに忍び込んだらな。いやがったよ、『アンジュ姫』が。

 ロゼッタってなァ、誰のことだ。おまえが誘拐したのは姫だろうが。その辺のガキ誘拐したってなんにもなんねェぞ。ぐだぐだやってんじゃねェぞ、リューグナー!」


 ヴォルケイスがリューグナーに意識をやったことで顎をつかんでいる力が緩む。

 今なら、リューグナーの表情を見ることができた。

 なのに、彼の表情を確認することが怖くて、俯いて震えていることしかできなかった。


「姫でもねェなら、この女はいらねェな? なかなか綺麗だし、ちょっともらってこうかと思ってな」


「ふざけるなよ、ヴォル」


「ふざけてねェよ。本気だ。こんなもんも持ってきたくらいだしな」


 にやっと笑ったヴォルケイスがリューグナーに向かって小さな箱を投げる。

 ハッとしてその箱を目で追うと、箱はリューグナーの上空で闇色の輝きを放ち、魔法陣を展開。

 その魔法陣はまぶしさに目がくらんでいたリューグナーを飲み込んだ。


「リュー様!」


「安心しろ。魔法を封じただけだよ。あいつの魔法やっかいだろ? 大切なライバル様を殺しゃしねェ。

 それじゃ、行くぞ嬢ちゃん。どこの馬の骨かは知らねェが、おまえはリューグナーが大事にしてたってただそれだけで俺様には価値がある」


 闇の中に閉じこめられたリューグナーがどうなっているのかわからない。

 ヴォルケイスを睨みつけると、「おっと」と言いながらも彼は余裕の笑みを浮かべていた。


「嬢ちゃん。あんたがリューグナーがへたれる理由なんだったら、俺はおまえを生かしておくわけにゃいかないんだよ。ライバルが親殺しのリューグナー・ライヤーだからこそ、俺様はより一層輝くんだ」


「リューグナー様!」


 警備隊長・セリオの声が中庭に響く。

 騒ぎに気付いたのだろうガルディも中庭に飛び出してきたところで、ヴォルケイスはケタケタと笑い声をあげた。


「おまえら全員騙されてんぞ! この偽物のお姫さんに! アンジュ・リュミエーラは別にいる! こいつは偽物だ! おまえらに不要なもんを回収してやる俺様に感謝しやがれ!」


「待て!」


 駆け込んできたガルディに応えることなく、ヴォルケイスは呆然とするロゼッタを片腕に抱え込んだまま、空いた手を高々と上にあげる。

 パチンと、ヴォルケイスの指が鳴ると、ロゼッタの視界は一瞬にして真っ白に染まった。

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