表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

8話

試験当日まで、アユミは鍛練を欠かさなかった。


さすがに二週間で体付きが変わるわけではないが、アユミから言わせると体力と根性が付いたらしい。


汚れを知らない純粋な奴。

教養が深まるにつれて、こいつの純粋さは変わらない。

だからこそ真っ直ぐで、心が強かった。

………ここだけは正直、負けてしまうかもしれない。


屋敷の庭に向かい合う…アユミと十萌。

いつもなら黒いスーツでド派手な柄のネクタイの彼だが、

何故か今日は白いスーツに赤いネクタイだった。


「昔の名残かなぁ、主人に決闘相手の返り血を見せて勝利の証拠にするのよん」


軽くウインクしてみせる十萌。

たぶん嘘だろう、信じたくもない。


「よ、宜しくお願いします!」


十萌の言葉に気合いが入ったのか、アユミの顔が強ばる。


「大丈夫よ〜!

アタシはあーちゃんのこと好きだから昏睡状態くらいに留めるわ」


全然大丈夫じゃねぇ。

心配だが、試験は……始まった。


「では、はじめっ!」


合図の声と共に二人は動く。

あれほどにやにやしていた十萌だが、戦いの最中には一切笑わない。

冷酷な視線、容赦無い白刃。

別人のようだ。


それに対するアユミは苦戦している。

年も離れているが、それ以前に実力も体力も経験もレベルが違う。だがそれでも食い付いているのは、彼の思いだ。


「アユミ……!」


俺は見ているだけ。

手を出せない。拳を握り締めて立ち尽くす。


――アユミを信じよう。


実は昨晩、アユミに内緒で…父に会いに行ったのだ。

無論、明日に控えた十萌との決闘を止めさせるために。


何十年か久しぶりに会った父は、どこか小さく見えた。

しかし雰囲気は変わらない…息子である俺を一度も見ない。


『私の執事は私で決めます。

十萌を使って判断されなくても、彼は信用するに足りる人物です』


父の書斎は薄暗く、机に向かう背が俺をうかがう様子は一切ない。

それでも怯むわけにはいかなかった。


『だからお願いします…!

明日の決闘を取り止めてください!』


頭を下げる。生まれて初めて、父にお願いした。


「………下がれ」


だが父が了承する事はなかった。父の言葉に控えていた執事が動いて、俺はすぐ摘み出された。


それが父と交わした久々の会話。

――ここから出来る事はない。

俺は信じるしか……信じてやる事が出来ることだ。


「アユミ!さっさと終わらせて早くお前の茶を飲ませろ!」


俺の声かけに、アユミは苦笑する。


「…かしこまりました」


斬撃が激しくなる。

力で勝てないアユミは、身の軽さを生かして十萌を翻弄する。


一瞬の隙を突き、彼の首もとに刃を向けた。

しかしそこは十萌…ネクタイだけを斬り落とさせるだけに留める。


「………残念でした。

まだまだアタシを押し倒すにはテクニックが足りないわねん」


笑う。

その笑った目は…背筋に悪寒が走る程に冷たかった。


アユミも圧されたのか、足が止まる。

その瞬間を十萌が捕り逃す事はなかった。


「ごめんね、あーちゃん」


ぞくりと感じる殺気。

アユミは剣を振った後なので、予想される斬撃は防げない。


アユミが……やられる。


「止めろ!十萌!!」


俺の声に

ぴたり、と十萌の刃が止まる。


アユミの鼻上に刻まれた傷から血が滲む。


「あーちゃんの顔に傷を付けるのには反対だったんだけどねぇ。

天ちゃん、怒ると怖いから」


思わず駆け寄る。

庇うように。


「これ以上俺の執事に傷を付けるのは、主人が許さん!」


「アキラ様…」


人の為に足が動くなんて、生涯ないと思っていた。


でも、失いたくなくて。


「んふ、坊っちゃんたら可愛い」


アユミに寄り添う俺を見て笑う。









「執事には、主人の信頼が不可欠なの。

だからあーちゃんは……


とっくのとーに合格してんのよ」



「「………え?」」


呆然とする俺たちを見て、十萌はいやらしく笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ