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7話

「十萌……いつまでここに居る気だ…?

まさか試験当日まで居るわけじゃないだろうな…」


俺の言葉を聞いているのかいないのか、奴は俺の隣で午後の軽食に同席している。

アユミも気付かなかったらしく、紅茶を運んできた時、十萌を見て驚いていた。


いつもなら中庭で軽食を楽しむが、今日はあいにくの雨。

そういう時は、雨と薔薇が眺められる薔薇園の中と決まっている。


「薔薇にローズティとはいい組合せじゃなぁい?

しかもスコーンも甘さちょーどいいしぃ、やだっおいしーい!」


「ありがとうございます。

スコーンに少しだけ薔薇のジャムを混ぜてみたんですが、お口に合って嬉しいです」


アユミは律儀にも十萌の分のカップとスコーンを用意してきた。

ほっときゃいいのに、と俺は舌打ちする。

だがアユミの手は止まらず、軽く笑うだけ。代わりに十萌がたしなめた。


「そーんな怒んないのー、アキラ坊っちゃん。

アタシは一応上位執事なんだから、あーちゃんにとっては客人でもあんのよー?」


「それを利用しているお前に腹を立ててるんだ…」


うふ、と笑う十萌が憎らしい。

アユミの立場を利用してタダ飯を食べているだけなら許せるが、おそらくこの場ですら『試験』の為に使われる事前情報なのだろう。

アユミは拒否をできないし、俺も『ただ遊びに来た』かつ『アユミにとっての客人』の十萌を無下に帰す理由がない。


……したたかな奴め。


「そーんな目で見ないでよぉ。

アタシ、……欲情しちゃう」


「帰れ」


思ってもいない事を口にする変態に、この後二時間くらい付き合わされるとは予想外。

アユミはその間、給仕やら訪問者の応対などに加えて夕食の支度などの指示に追われて大変そうだった。

使用人が少ないこの屋敷では松方の後任のアユミを中心にして回っている。


力不足は否めない。

つくづく松方の存在を実感した。


「ほーんと、アキラ坊っちゃんは、あーちゃんが大好きなのねぇ」


ローズティを口に含みながら軽く笑う。

十萌の言葉を否定はしない。


好きだというより、信頼できる奴でもあった。

松方にしか着替えを許さなかったが、あいつになら…大丈夫かもしれないと思っている。


「ふぅん…その様子じゃ着替えはまだ一人なのね。いいじゃない、もう『アレ』を見せても」


俺の絶対の秘密…父親にすら見せるのを拒否してきた。

アユミには見せていないし、話してもいない。


…松方から聞いているとは思うが、詳細は知らないだろう。


「着替えくらい、一人でできる」


まだ、踏み出せない。怖いから。


「…あそ。流石、次期当主サマ。

あーちゃんも頑張らなきゃねー。

ん、じゃーそろそろおいとましなきゃ。天ちゃんに縛られて苛められちゃうわ〜」


「嘘つけ、このドSキャラが」


スーツに一つも埃をつけず、こぼすこともなく、十萌はスコーンと紅茶をたいらげた。

ピンクの髪は自前だと言うが、こんな髪色した人間がいるわけない。

十萌は分からない。


「じゃまたねん。愛してるよん」


俺の額に無理矢理キスをし、そんな言葉を吐く男。

壁があるのかないのか分からない。


「……二度と来るな、変態野郎」


だからこの男が苦手なのだ。


どうやって帰るのか知らないが、俺は薔薇園でしばらく過ごして、アユミを呼んだ。


「あれ、十萌さん…帰っちゃったんですか?

お見送りもしてないのに」


夕食準備したのになぁと呟くアユミに、俺は蹴りを入れた。


「馬鹿。アイツは偵察に来たんだぜ?

もてなしてどうする」


抜けた答えをのんびり言う。

何も考えてないみたいな口振り。

だが、アユミはいつものように笑った。


「はい、存じております!

だからきちんとおもてなししなければ、駄目な報告をされてしまうでしょ?」


「…………」


最初に会った時はぼーっとした奴かと思っていたけれど。


「十萌さんにはお見通しだったみたいですけどね。でも勉強になりましたよ。

僕、頑張ります!」


侮れない、奴。

それでいてこの真っ直ぐな性格。ヒール役を任されてきた十萌もやりにくかったのだろうか。


「夕食、できてますよ」


「………おう」


陽が傾きはじめている。

試験は……もう少しだ。

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