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6話

教育係の女を早く帰したくて仕方がなかった。

こうして俺が問題を解いている間に、十萌ともえがアユミを追い出したりしたら……。


「アキラ様、もう少し集中なさってください」


水のように冷たい女の言葉。

一刻も早く終わらせなければ…と焦るが、どうしても気が散ってしまい、今日はえらく時間がかかってしまった。


慌てて剣の練習をする道場に向かう。


……と、誰かが手合わせしているのか竹刀の音がする。

がらり、と戸を開く。

目の前に背中から倒れてきたのはアユミだった。


「大丈夫か?!」


俺が駆け寄ると、軽く笑ってみせるアユミ。

いつから手合わせしていたのか、竹刀を握る彼の手は赤くなっている。


「やだぁ、倒れ方もかわゆいのねん」


ぱしんと竹刀の乾いた音が響く。アユミを吹っ飛ばしたのはこの声の主、十萌だ。

肩で息をしているアユミに対して、十萌は全く息があがっていない。いつものおどけた顔だ。


「アユミは俺の使用人だぞ。手荒く扱うな」


「ご冗談。そんな趣味ないもん」


俺が睨み付けても、全く怯む様子はない。口笛を吹く始末だ。

なだめたのはアユミだった。


「僕がお願いしたんですよ。本番前に練習させてくださいって…。

こんなんじゃ練習にもならないみたいですけどね」


勝手にごめんなさい、と頭を下げられる。アユミにこう言われてしまえば、俺は何も反論できない。

きっと彼は俺の為に、頭を下げている。

知り合って短い期間ではあるが、アユミが勝手な行動をとることはほとんど無かった。

もちろん使用人という立場上、基本的に俺の了承をとるといい体制だからかもしれないが、アユミは常に俺の事を一番に考えていてくれていた。


剣の練習がハードでも食事の準備は手を抜かなかったし(もちろん松方がいた時とは比べられないくらいだが)、

どうやって調べたのか紅茶は俺の気分に最適なものを選んでいるし(これだけは松方に並ぶ)。

そんなアユミが初めて…理由を明確にしない行動をとった。


……何か理由があるに違いない。

アユミはきっとそういう奴だ。


「…無茶するなよ」


背を向け、部屋に戻る。


「はい」


いつもより明るい声が聞こえた。きっといつかその理由を教えてくれるだろう。

俺が今できる事は、アユミを信じる事。

それくらいだ。

……それくらいしかできないのだ、俺は。


「……ふぅん」


十萌の含み笑いが何を意味するか、その時は分からなかった。




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