4話
朝食を済ませた後、教育係が来るまでの間にアユミと俺で作戦を練った。
とはいえ、アユミの案は不可能だ。
「不可能ではありませんよ!」
俺の言葉に顔を赤くして答える。
だから俺は、ため息を吐いて肩をすくめてみせた。
「まだ剣術すらろくにこなせない半人前使用人が、急に執事になるだと?
それで松方をお前が採用する?
…夢物語もいい加減にしろ」
執事が使用人の採用を行う。
アユミが使用人から執事となれば、松方と同じように雇用の権利を許される。
目の付けどころはいい。
アユミが執事になれないとは思っていない。むしろなってほしいと思っている。
だが、今すぐは無理だ。
父の屋敷にいる家令の天野に聞いたところ、
使用人が執事として雇われるには、当主に仕える家令が選んだ執事の承認が得られればいいらしい。
簡単だとアユミは胸を撫で下ろしたが、家令が松方の代わりに遣わせる執事の名前を聞いて、俺は驚いた。
同時に不可能だと思ったのだ。
「来るのは十萌だ。
アイツは優秀な執事だ…申し分ない能力を持っている。
この俺がどうして執事の名前を知っているかと言うとな、
…俺が勝てない奴の名前だからだ」
アユミの目が一瞬、点になる。
「か、勝てないって…それは」
「もちろん剣術だ。
言ったろう、由良戸家執事は剣術を極めるのが当然だと。
十萌以外に勝てなかったのは、家令の天野と父様の三人だけだ」
まだ父と暮らしていた頃に、天野と十萌とは一度手合わせしたきりだが…歴然とした差があった。
天野ほどではないにしろ、十萌は強い。
少なくとも今俺の指導を受けているアユミでは、絶対に勝てない。
かつ、十萌が遣わされる日は今から二週間後。二週間…しかない。
「できるわけないだろ!」
「……できますよ」
アユミはまたあの笑顔で頷く。
「アキラ様のお役に立つのが僕の仕事ですから。
ん、そろそろ教育係の神山さんが来られる頃合いですね」
それでは午後に、と一礼して部屋を出ていく。
俺はアユミの背中を黙って見ているだけだった。
ベッドに寝転がり、もう一度考えてみる。
十萌との立ち合いで教養と作法が認められたとて、剣術は…勝てるだろうか。
『できますよ』
頭の中で妙に自信に満ちたアユミの声が響く。
『できますよ』
考えるのは止めた。
信じてないのは俺だけ。
頼りの松方はいない。頼れない。
「……当然だ」
へこたれてなるものか。
これで諦めるなど、
「次期当主の名前が泣く」
俺は小さく呟いた。




