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兄弟


啜り泣く声が聞こえる。

厠の中からするその声は、無理やりにでも涙を堪えようとした泣き方はをしていて、以前にも聞いたことがあるものだった。

小さくため息を吐くと、松は厠の扉を軽く叩いていつも通りの慰めをして、その場から離れた。

雨戸から見える三日月を眺めながら縁側を進み、まだ灯りの灯る部屋の襖の前に立って、中にいる翊羽に声を掛けた。

「また泣いてたぞ」

「自業自得です。もう十七んになる歳にも関わらず、自分勝手なことばかり…」

「……支度をしておけ。いずれここを出る」

部屋の中で本に目を落としていた翊羽は、松の言葉に顔を上げた。

内側からの灯りは、外の松の姿が襖にくっきりと影として浮かび上がっていた、

「何かあったのですか?」

返事を考えているのか、なかなか答えない松の影に近付くと、煙草の煙が燻るのが見えて立ち止まった。

「言われたとおりのことをしたつもりなのですが…」

襖を背に膝を抱えて座ると、松が口を開いた。

「これからは敵となりゆく人間を殺して歩き、戦で籐桐軍【松達を雇う将軍家。青旗軍をの反対、松達が背中を向けていた軍】が不利となったときは加勢に入る」

「分かりました。翊鎖にも、伝えておきます」

「ここに入ってから、お前らは戦場ぐらいしか外に出たことが無いんだったな…」

襖の合わせた隙間から、松の煙草の煙と匂いが入ってくる。

「名前もない僕達に、多くのものを与えてくださったのですから、戦しか外を知らないでも構いません。それに、僕達は死を目的としてますから」

「小僧の考えることじゃあねえな。まあ、そういうこったから」

松が廊下を去り、翊羽がまた本に目を落とした頃、力強く床を鳴らす歩き方で、翊鎖は部屋へと戻ってきた。

「煙草臭えな…。松さんが居たのか…?」

「うん、丁度さっきまでそこにいた」

襖越しに答えると、向こうは気まずいのか頭を掻きながら中に入って翊羽の前に正座して座ると、目を泳がせてから頭を下げた。

「すみませんでした。もう二度と、命令に遅れるようなことはしません」

「いい加減何が良く、何が悪いかを判断しろ。もう十七に近い年だ、それぐらいの区別はつくだろう」

「はい、愚かでした」

「顔を上げろ、もういいよ」

翊羽の言葉に顔を上げた翊鎖の目は、泣き腫らして赤いものの、また無邪気な瞳に戻っていた。

「どうせ落ちてた物を食べて腹を壊したんだろ?」

「…うん。お腹空いてて」

ヘラッと子供らしく笑う翊鎖の額に拳をつけ、力を込めて突くと、顔を歪ませて畳の上で笑いながら転び回る弟を、翊羽は穏やかに見つめていた。






翊羽(推定19)ー男

翊鎖の兄で、両親のことは覚えていない。

松に多くの恩があり、剣術なども松から教わった。

黒く長いくせ髪を後ろで束ね、前髪のうねりを屋敷の女子達にからかわれるのが最近の悩み。

女顔で丸く穏やかな目をしている。

物静かな方で、仕事がない日は本を読んで過ごしている。


翊鎖(推定17」ー男

翊羽の弟、兄と同様に親を親を覚えておらず、松を慕っている。

大きな猫目をしており、茶色い髪は後ろで束ねている。

癖のない髪を兄に羨ましがられることが嬉しく、前髪は鼻に届くほど長い。

活発で大食い。



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