黒水隊
僕達は死を待つ。
自ら戦の中へ飛び込み、血を浴びて、刀を振りかざし、死体の中で乱舞する。
悲鳴が歌に、肉を割く音が曲に聴こえる狂った僕達は、いつか合間見える己の宿敵に切っ先を向け、力尽きるまでその心臓の動きを止めにかかる日を待つ。
無様で美しく、醜い屍の姿を望む者達。
僕らは、黒水隊と命名された。
「翊羽、お前の左側はどこ行った?」
「朝からいません。どうせ厠でしょう」
「またかよ、後でお灸を据えておけ」
「はい」
低い唸り声が聞こえる。
向かい合った二つの軍隊の真ん中に立つ、何の武装もしていない人間が、青い旗を靡かせている方へ体を向けている。
鈍く重い音が轟く。
両軍からの鬨の声が辺り一帯に響き渡り、青い旗の軍隊だけが、一斉に走り出した。
「あの二人、どんな神経してやがんだ?」
攻めかかる青旗軍の後ろに隊列していた、槍を構えた兵士の一人が、隣を走る男に呟いた。
「知らんよ。とにかく、敵将を倒しさえすれば…」
「「「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!」」」
男達の悲鳴。
血が飛び出す音。
前にいる兵士達の背中で、前線で起こる何かを確認することが出来ない。
「もう向こうと衝突したのか…?」
「早過ぎないか?」
「あの妙な二人はどうなったんだ?」
進む速度が遅くなっていき、ついには男達の隊は足を止めてしまった。
「なんなんだ!進まなければ!!」
向こうに広がる青空、その手前で上がる血飛沫は、決して二つの軍隊が衝突して上がっているものではない。
太陽の光で煌めく二本の刃。
「あ、ああ…あの二人か…?」
膝が笑う。
「なんなんだ、あの二人はっ…!!」
後退りする周りと合わせて、男も一歩ずつ後ろへ下がる。
一刻も早く、この場から逃げたいとはやる足で後ろの兵士にぶつかった。
でもそれは、武装しているとは思えないほど人間の熱があった。
思わず振り返ると、そこには着物一枚だけの若い青年が、唇の片端を上げて立っていた。
「やるよな〜、あのお二人さん」
「な…、仲間か?」
幼さが滲む笑みを浮かべた青年は、一度血飛沫の上がる方へ顔を向けると、男に視線を戻して、薄く整った紅い唇を動かした。
「い〜や♪俺はあっちの味方!」