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破壊する者  作者: 月本星夢
最終章・向こうの世界
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第六話

さり気無く、辛辣(しんらつ)な遣り取りが行われている部屋に、新たな訪問者が訪れた。

カルミラがリシェアオーガの確認に行って、中々帰って来ない事を心配し、ルシェルドが来たのだ。

彼の気配に、リルナリーナは身構え、双子の兄弟に入室を促す様求める。

リシェアオーガに言われ、部屋に入って来たルシェルドの目は、彼と共にいる少女に目を見張った。

彼に似ている少女は、厳しい目で、ルシェルドを見つめていた。

その気配は、リシェアオーガと一つになっているようで、気が付けなかったが、ルシェルドに向けられた怒りを、微かに感じれた。ルシェルドは、ゆっくりと彼女に近付き、その少女の目の前で跪き、頭を垂れる。

「リルナリーナ神と、お見受けする。貴女には、大変申し訳ない事をした。」

目の前の少女に、謝罪の言葉を掛ける元破壊神へ、彼女は応じる。

「お察しの通り、私はリルナリーナ・ルシム・リュージェ・エレルニアラムエシルです。…貴方は、私の祝福した者達を…喰らった者ですね。

ルシェルド…でしたか?」

「おっしゃる通り、私の名はルシェルド、破壊神・ルシェルドと言う。」

「元、破壊神だろう。今は守護神だ。」

リシェアオーガの意外な突込みに、ルシェルドは、彼の方に目を向けた。

昼間の為、銀から金色に変った光の瞳は、そのままであったが、そこに怒りは見えない。その彼が続けて、驚愕な事実を教える。

「リーナは、こちらで私の身に起こった事を、私を通じて全て知っている。」

これを受けたリルナリーナが、言葉を付足す。

「オーガの言う通り、私は、オーガの身に起こった事を、全て知っています。貴方がオーガに対して、行った行動も全て…です。」

真剣な眼差しで、見つめるリルナリーナから、ルシェルドは目を逸らせなくなった。何かを見透かした眼差し…その瞳が、悲しそうな彩りを顕す。

開いている右手で、ルシェルドの頬に触れ、彼女は別の言葉を綴る。

「苦しかったでしょう。愛する者を喰らわずには、いられないなんて…愛する者を、自らの手で喪う事は、辛かったでしょう。」

告げられる言葉にルシェルドは驚き、リルナリーナを見つめ返した。優しく告げられる言葉で、眼の前の神に、美神とは別の役目を垣間見た。

愛と美の神…そう、リシェアオーガは、彼女の事を言った。その愛の神の部分を、彼女は表に出したのだ

「巫女達を愛してくれて、有難う。あの子達も報われます。

愛した貴方と、共に生きられるのだから。」

「…そう言われるとは、思わなかった…。感謝する、リルナリーナ殿。」

意外な言葉を掛けられ、一瞬驚いたルシェルドだったが、本心からの言葉と判り、然るべき言葉を返した。すると、彼女から、要望と辛辣な毒が返って来た。

「リーナと呼んで下さい。敬称も抜きで。

あ、そうだわ、ルシェルド、これだけは言っておきますね。

オーガは、譲りませんから♪」

微笑を添えて告げられた言葉に、ルシェルドは困惑したが、一応、返答が出来た。

「既に、振られている。リーナが心配すべき事はない。

只、想いは()められそうにはないが…遂げる気はない。」

ルシェルドの言葉で、より一層にこやかに微笑む、リルナリーナに、ルシェルドは、リシェアオーガに対して感じる想いと、同じ物を感じた。

「…私は…変だ…」

「何だ、ルシェルド?」

「…リーナも、愛おしいと思えるなど…。」

「リーナと私は、二人で一人の様なものだ。だが、…リーナは譲らんぞ。」

リルナリーナと同じ返答が、リシェアオーガからも即答で返って来る。それを聞いたカルミラが、微笑みながら、言葉を掛けた。

「二人とも、愛おしいだなんて…ルシェルドも贅沢ですね。

まあ、既に振られているみたいですので、安心…いえ、残念ですね。」

本音の漏れかかったカルミラに、ルシェルドは苦笑した。二人の保護者の様なカルミラに、彼は答える。

「カルゥ、本音が出てるぞ。

私とて、二人の内どちらかを選べないし、今の光景が普通に見える。

オーガがいてこそ、リーナがいる。勿論、その逆も同じだ。その方が良い。」

二人が一緒にいる方が良いと、断言するルシェルドに、リシェアオーガもリルナリーナも微笑んだ。



美しい双子の優しい微笑に、カルミラも、ルシェルドも溜息を吐く。

「本当に、お二方の母君のお気持ちが、判りますよ。

このまま閉じ込めて、しまいたい…。

でも、してしまったら、その微笑を失ってしまう。

微笑んで欲しいから、敢えて自由を与える…だけど、他の人には、その微笑を見せて欲しくない…と言った処ですか?」

仲の良い二人の様子にカルミラが、彼女達の母親の気持ちを想像する。

しかし、帰って来た真実は、この想像を逸脱していた。

「お母様は、他の人に見せて欲しくないというより、他の人がその微笑を見て、私達を自分の手から奪ってしまうのではないか…って、心配してしまうの。」

もう一つの可能性を言われ、カルミラは納得して、言葉を綴る。

「ああ、そちらの方ですか。それは心配ですね……

…心配されていますね、今、まさに…。」

今の状況に、気が付いたカルミラは、リシェアオーガ達の母の心境に思い当たった。

彼の様子に、リルナリーナは、大丈夫と呟く。

「オーガの気配が消えた時は、心配していたけど、私と繋がった時点で安心しているわ。だってオーガったら、二言目には、必ず帰るって言っていたもの。」

「当たり前だ。私が生まれ育った世界だ。

神としての役目が無くても、家族の許へ帰る。

だが、その前に、父と母が迎えに来そうだ………。」

言葉の語尾を(にご)したリシェアオーガだったが、嫌~な予感と共に、確かに感じる強い気配に気付く。 

どう考えても、大量の怒気を含んでいるその気配は、既にこの神殿にあった。

「…リーナ、時、既に遅しだった…な。」 

「…そうね。もう少し、足止めされると、思ったのだけど…無理だったみたいね。

収拾、間に合ったかしら?」

双子の会話に、カルミラとルシェルドも気配を探る。

彼等の言った、怒気を含んだ大きな気配が、この神殿の中に存在した。

エルシアともイリーシアとも違う、光の気配に、ルシェルドとカルミラは驚いた。

「一応、収拾は間に合ったみたいですが…………

話し合いでの結論には、間に合いませんでしたね。

かなり怒っていらっしゃるようですから、如何なる事でしょうね…。」

溜息と共に綴られた言葉は、激しく叩かれる扉の音で()き消された。



「カルミラ様、ルシェルド様!此方にいらっしゃいますか?」

扉外から聞こえたディエンファムの声に、切羽詰まった物があった。カルミラ達が、その声に反応し、扉を開けようとした時、ディエンファムの後ろから声がした。

「ディエンファムさん、如何かしましたか?」

服装が違えど、見間違(みまちが)う事の無い、薄緑の髪と柔らかな物腰、傍らには、あの(あか)い髪の騎士が、無言で付いていた。

「フェリス大神官殿…?」

何時もと違う服装と呼び方に、戸惑うディエンファムに微笑み掛け、今の、自らの身上を語った。

「今の私は、大神官ではありません。

その役目を返上し、向こうの世界の、一神官ですよ。唯一の神を、リシェアオーガ様に定めた神官です。」

そう言って扉を開け、フェリスは部屋に入ろうしたが、眼の前に、カルミラがいる事に気が付いた。

「カルミラ様?ルシェルド様まで…。一体、如何なされたのですか?」

「リシェア殿の気配が変わったので、心配して見に来たのですが…何事も無かったようですね。」

カルミラの言葉で、そうですかと、納得したフェリスは、ティルザとディエンファムを伴い、目の前の部屋の中に戻った。

そして、壁に背を預け、お互いに寄り添っている二人の神の許に歩み寄り、戻りましたと声を掛け、リシェアオーガの傍に控える。

ディエンファムは、その対為す神がいる事に、何の驚きも見せないフェリスを、不思議そうに見つめた。その視線に気付いたフェリスが、彼に尋ねる。

「ディエンファムさん、如何かしました?」

「あ…いえ、その、其方の…美しい御方は?」

ディエンファムの言葉に、リルナリーナは反応し、にっこりと微笑んだ。その美しさに目を奪われ、ディエンファムは、一瞬、名乗るのを忘れそうになる。

何とか我に返った彼は、自ら膝を折り、名乗りを上げた。

「御初に、御目に掛ります。

私は、カルミラ様の聖騎士を務めている、ディエンファムと申します。

リシェア様の御身内の方と、御見受けしますが、御美しい御方…如何か、この騎士に御名前を…御聞かせ下さいませんか?」

何故か、つい、懇願(こんがん)の言葉を()いている自分に、ディエンファムは驚いていた。

彼の言葉を聞いたリルナリーナは、一層、楽しそうに微笑んで答える。

「初めまして、私はリルナリーナ。オーガとは、双子の兄弟なの。

大地の精霊さん、貴方にもお礼を言わないと…ね。」

微笑を添えて言われた言葉を、大地の聖騎士は見つめたまま聞いていた。

「オーガを畏れないでくれて、有難う。お母様の精霊と同じ貴方が、オーガを認めてくれたから、オーガも無茶をしなかったわ。

オーガがこの世界を気に入り、護ろうとしたのは、貴方とここの神殿の人達、それと、レイナルとアルフェルトがいたから。

貴方達がいたお蔭で、オーガがこの世界を壊して、向こうの世界に帰る事もなく、また、その結果での後悔と、自責の念に囚われずに済んだの。…有難う。」

リルナリーナの感謝の言葉に、ディエンファムは元より、カルミラとルシェルドまでもが驚き、リシェアオーガに視線を向ける。

彼等の視線を集め、内心を明かされたリシェアオーガは、無言で、跋が悪いそうに横を向き、目を逸らしている。

隠していた心の内を、リルナリーナに言われ、黙るしか出来無かったのだ。

お互いが繋がっているからこそ、リシェアオーガが素直に言えない事を、リルナリーナが代弁している。

言われたディンファムは、恐縮して、言葉を綴った。

「リルナリーナ様、勿体無い御言葉です。

…?リルナリーナ様は、何故、私が、大地の精霊と御判りですか?」

「…えっ?だって、お母様の精霊さん達と、同じ気を纏っているからよ。

何時も、彼等と一緒にいるから判るの。」

お母様と言う言葉に、ディエンファムは納得した。

リシェアオーガから、大地の神を母に持つ事を教えられていたし、先程、リルナリーナから、リシェアオーガと兄弟という事を告げられた為、彼女の母も誰であるか、一目瞭然であった。

一段落した後、ディエンファムは、自分の用事を思い出した。

カルミラとルシェルドに向き直し、事の次第を伝える。

「御二方に至急、御戻り頂きたいと、エルシア様から申し付かっております。

元巫女であるリシェア様も、御一緒に、との事です。」

「…私も行くわ。あっ、フェリ、お願いがあるの。」

「リルナリーナ様、判っております。

正式な服に着替えて、アルフェとティルザさんと共に、其方に参ります。」

そう告げると、フェリスとティルザは、リシェアオーガ達と別れて、行動を始めた。

彼等を見送った神々とその騎士は、エルシアに指定された場所へ向かうべく、双神がいた部屋を後にした。

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