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破壊する者  作者: 月本星夢
穢れた神殿
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第四話

今回も、残酷な表現がありますので、15歳未満の方は、閲覧をご遠慮して下さい。


それと、次回から、新章突入です。

まだ、殺戮(さつりく)を終えていないリシェアオーガは、祭壇から、教信者達の集う場所へ、舞う様に降り立った。

逃げ惑う彼等に侮蔑(ぶべつ)の目を向け、ゆっくりとその両腕を横に伸ばし、舞を舞う如く、優雅に一回転する。

その際、放たれた力によって彼等は、呆気無く体を引き裂かれ、床に(あか)の彩りを加えた。これを確認し、更に充満する血の匂いの中、リシェアオーガは再び、ゆっくりとした動作で両腕を下し、その双眼は上を向いた。

その目は、未だに銀の冷たい色を示し、厳しい光を宿している。

「な…、ルシェルド、お前、また暴走したのか?

巫女は如何した?」

聞き覚えのある声が響き、ルシェルドは、その声に否定する。

「エルシア、私は何もしていない。したのは…リシェアオーガだ。」

意外な返答にエルシアは、息を呑んだ。

祭壇の下にいるのは妹と同じ、長い銀色の髪で、後ろ向きの人物。あの巫女とは、似ても似つかない色の髪が、血に染まっている。

エルシアが、それを見つけた直後、何人かの気配が増えた。異変を感じたカルミラ達が、やって来たのだ。

「リシェアオーガ殿は、無事ですか?」

無事だと、答えるルシェルドに、カルミラは安心し、ウォルトアが、祭壇下の人物に気が付き、尋ねる。

「…あれって、リシェアオーガ殿なの?髪の色が違うじゃあないの。

それに嫌だ、血まみれじゃあない。怪我は、大丈夫なの?」

「我は、大丈夫だ。」

声のする方へ振り向きながら、リシェアオーガは答える。銀色の髪をなびかせ、表情の無い冷たい銀色の目で、彼等を見つめる。

彼等は、変わり果てたリシェアオーガの姿に、息を呑んだ。ウォルトアに至っては、彼の心の傷を心配する程だった。

「カルミラ、此処に、輪廻の概念は、あるのか?」

「ええ、ありますよ。」

カルミラの答えを聞いたリシェアオーガは、ティルザに、祭壇上でまだ苦しんでいる者共の(とど)めを命じた。

その途端、ルシェリカ・アレウドの神殿内は、禍々しい気で溢れ返る。 

神殿中に充満する気を確認しながら、再びカルミラに問う。

「この位なら、浄化は可能か?」

「出来ますよ。」

「なら、この者共を浄化し、輪廻に組み込めるか?

勿論、自分の仕出かした罪を、思い出せる様にして…な。真っ当に生きた途端、今まで犯した罪の記憶が戻る様に、仕込んでくれ。

さすれば、奴等の罪の償いにもなろう。」

「輪廻神・レムルアなら、出来ると思いますが………。

もし…彼等が、再び同じ事を繰り返したら、如何します?」

「何度も、繰り返す様であれば、ルシェルドか我が、引導を渡す。」

無慈悲な目で、言い放つリシェアオーガに、カルミラは納得した。

彼等の遣り取りを見つめていたティルザが、リシェアオーガに声を掛ける。


「リシェアオーガ様、御伝えしたい事があります…宜しいですか?」

「何だ?」

「これ、このままだと、新たな穢れと邪気を生んで、あの呪われた土地の二の舞にまりますよォ~~。」

散らばる死骸を指差し、報告するティルザに、判ったと、返事をしたリシェアオーガは、何かを抱きかかえる様に、両手を大きく広げ、禍々しい気を自分の上に集めて、一つに纏める。

濃縮された気は闇を纏っていたが、リシェアオーガの力で一瞬の内に、成人男性の中指程の大きさの、小さな石に変化した。 

空中で浮いている、その水晶柱の様な青い石を手を使わず、浮かんだ状態のままで、リシェアオーガは、フェリスに投げて寄越す。

「フェリス、暫し、そなたに預ける。」

承知しましたと返答したフェリスは、リシェアオーガから渡された石を、大事そうに手の中へ包み込んだ。それを確認したリシェアオーガは、周りの破壊を始める。

自ら張った結界の中の破壊…無に帰す事を始めたのだ。

神殿の屋根が消え、壁が消え、そして、床に散らばった人であった肉片と、床を染める大量の血。それが、尽く消え去って行く。

後に残ったのは、星の輝きと木々のざわめき、土の匂いだけ。

未だ、リシェアオーガの体は血に染まり、その月の明かりの様な銀の髪と、銀の双眸(そうぼう)のみが、別の色を残していた。



「ルシェルド…」

「…エル、これは、私じゃあない。リシェアオーガがやった事だ。」

「あのなぁ…もう少し、ましな嘘を吐けよ。」

「嘘では無い。我がした。これ位の物を無に戻す位、雑作も無い事だ。」

リシェアオーガから告げられた言葉で、お前は何者だと、エルシアが問おうとしたが、その前に、フェリスがリシェアオーガの姿に、難癖を付ける。 

「リシェアオーガ様…まだ、その様に汚れたままで、いらっしゃるのですか?

良い加減、その汚れを如何にかして下さい。」

「あ…フェリス大神官、私がやろうか?」

そう、ウォルトアが言うと、リシェアオーガの頭上に大量の水が現れ、彼の体に降り注ぐ。頭からずぶ濡れになったリシェアオーガは、身に纏っている衣服が、破れている事を知られる。

「きゃあ~~、やり過ぎちゃった。大丈夫?風邪ひかない??

あ…その前に、服を如何にかしないと…。」

取り乱すウォルトアに、フェリスは、大丈夫ですよと、声を掛けた。

「汚れは落ちましたので、その服と水を何とかして下さいね。」

にっこりと微笑むフェリスに頷き、自らの力で体を乾かし、新しい服を出現させる。それは、向こうの世界の衣服であった。

白に黒い縁取りのマントと袖のある白い詰襟の上着、腰に銀の光龍を象ったベルトと袖の黒いカウス部分、上着とマントの縁取りの黒い部分に、同じく光龍の模様。足は白のズボンに、薄茶色で膝までの長さの長靴(ちょうか)

その折り返し部分に、鎌首を上げた銀色の光龍の飾り付き。

やや簡素であるが、尽く銀の光龍の文様がある服と、腰には布から出された、自身の剣を帯びていた。そして、右手の中指には、何故か龍では無く双頭の蛇の指輪が、同じ輝きを放っている。

こちらの世界の者にとっては、見た事も無い服であったが、彼方の世界の者には、馴染のある神龍の王の服であった。

それに加え、如何いう仕組みであろうか、リシェアオーガの剣にはルシェルドの紋章の飾りが、文字通りくっ付いていた。



着替え終わったリシェアオーガは、ゆっくりと彼等の下へ歩いて来た。

三つ編みされていない髪が夜風に遊ばれ、銀糸を広げ、輝く。リシェアオーガの動きに合わせて、揺れる銀糸は、地上に月が下りた様にも見える。

フェリスの前に来たリシェアオーガは、恭しく差し出されたあの小石を受け取り、それをカルミラに渡した。先程の件を、頼む為だった。

「一応、封印は、施してある。レムルア神に渡してくれ。かの神が、これの封印を解けないなら、我に言って欲しい。」

「判りました。先程の罰を伝えて、レムルアに渡しますね。」

青い結晶を受け取りながらカルミラは、リシェアオーガに告げた。頼むと、一言カルミラに返答をしたリシェアオーガは、フェリスの方に向き直し、彼に問った。


「フェリス、剣の封印を解いたようだが、怪我は無いか?」

はいと短く返事をし、封印を解いた剣を、リシェアオーガの前に掲げた。夜故に、黄金色から銀色へと輝きを変えたその剣に、リシェアオーガは触れ、言葉を紡ぐ。

『我、その姿を封じ、神官の短剣に()す事を、命じる。』

リシェアオーガの言霊で、フェリスの剣は再び、短剣の姿に戻った。有難うございますと言うフェリスへ、リシェアオーガは心配そうな目を向ける。

「本当に、怪我は無いのだな。」

「はい、少し服が…あの教信者達の血で、汚れてしまっただけで、大丈夫です。」

リシェアオーガが念を押して聞いたのは、フェリスから血の臭いがした為だった。だが、それは返り血の所為で、フェリスの方は完全に無傷であった。

アルフェルトとレイナルにも、同じ事を尋ねたが、彼等も無傷であった。

「…リシェアオーガ様。俺の心配は、なしですか?」

「そなたへの心配は無い。此処へ来た時に、そなたの体から血の臭いがしなかった事と、そなたが()騎士(・・)故に、な。だが…皆、無事で良かった。」

安堵の笑みを浮かべたリシェアオーガに、エルシアの声が掛った。

「お~い巫女、誰か、忘れていないか~。」

「ルシェルドの心配など、必要無いだろう。

神故、人間の様に(もろ)い体を持っていない、違うか?」

違わないと、当の本人が言うと、エルシアは黙った。

確かに、リシェアオーガが心配しているのは、人間達だけであり、神々で無い。

神々が人間より、丈夫な体を持っている。

その事は、両方の世界で言える事だった。


 「リシェアオーガ殿、その髪と瞳は、どうなされたのですか?」

カルミラの問いに、リシェアオーガは、簡単に答える。

「力を使った故、髪は元に戻っただけだ。この髪は、光髪(こうはつ)と言って、太陽の下では金色に、月の下では、銀色に輝く。瞳は…我の怒りを示す。

青が静寂(せいじゃく)(あか)憤怒(ふんぬ)、金若しくは銀、即ち光の色は…最も危険な怒り…だな。人間風に言うなら、堪忍袋の緒が切れた状態だ。」

つまり、かなり危険な状態である事を、リシェアオーガは示した。しかし、その色は、ゆっくりではあるが、元に戻りつつあった。

怒りの矛先を相手に向け、十分に解放した事と、フェリスが自分の許へ無事で戻った事が、大きな怒りの鎮めになっている。

自分の神官が無傷で戻った…それはリシェアオーガにとって、一番の鎮め効果である。勿論、仮であるが、従者であるティルザが無事だった事も、効果有りだった。

フェリスの存在とティルザの存在が、この異世界に在った故に、破壊の力を持つリシェアオーガの暴走を食い止め、この世界の崩壊をも食い止めた事は、近い内に、ここの神々全員へ伝えられるであろう。

今はまだ、ルシェルド以下、限られた神しか、知らぬ事だったが…。



「こんな所に、何時までもいると、風邪、引いちゃうよ~。」

ファンレムの言葉で、場所を移す事に決まったが、如何せん、どの場所にするかが問題であった。

「ここから近いのは、エルの神殿だが……

神々の収拾を行うには、カルゥの神殿の方が、広くて最適なんだがな…。」

「何で、神々の収拾を行うんだ?事は、全て、収まったんじゃあないのか?」

何も知らないエルシアに、溜息を()きながら、カルミラが告げる。

「収まっていませんよ。これからが、難問です。

何せ、向こうの世界の神々との、和解する為の交渉が控えているのですから。」

「我としては、カルエルム神殿方が良い。アルフが、待っているからな。」

「お前な~、神々の話に、係わってくるなよ。」

リシェアオーガへの、エルシアの苦情を無視という形で、さら~っと流し、カルミラが言いのけた。

「そうですね。リシェアオーガ殿の友人殿が、滞在していましたね。

では、私の神殿で宜しいですね。」

決定権はカルミラ…いや、リシェアオーガにあった様だ。

向こうの世界へ、共に帰る者がいる場所が、彼にとって都合の良い所。


もうすぐ、向こうの世界へ帰れる…リシェアオーガにとって、喜ばしい事だったが、この世界の神々に取って、大きな大難関な問題が控えている事でもあった。

向こうの世界と完全に繋がる、即ち、向こうの世界の神々が、こちらにやって来る可能性を秘めている。

誰が来るかは、予想の範囲だったとしても、対応に困るのは間違いなかった。



しかし…その神が一番厄介な者だとは、この世界の神々に想像出来無かった…。

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