第六話
次回から、新章突入です。
その様子を騎士達は、暖かい眼差しで見つめていた。楽しそうな神々の語らい…それは彼等にとって、安らぎに似たものであった。
その中心には、巫女とルシェルドがいる。
巫女の傍らには大神官が、微笑みながら、静かに佇んでいる。周りにいるカルミラと、ファレルアも微笑みながら、話を聞いている。
不思議な光景であったが、暖かく、心和むものでもあった。
視線に気付いたリシェアオーガが、彼等に目を向ける。如何したと、声を掛けられ、リシェアオーガの従者であるティルザが、言葉を返す。
「いや~ァ、あまりに、ほのぼのした光景だったので、見惚れてました~ァ。
済んません。」
悪ぶる訳で無く、自然に出た言葉だったので、誰も疑う事は無かった。相変わらずの口調で、他の騎士達は苦笑気味だったが、神々は気にしていない様だった。
「そろそろ、食事にしませんか?」
カルミラが告げた言葉で、皆がそれに気付き、各々食事を始める。
話は尽きる事無く、食事中も、彼方此方で展開していた。
ある程度の食事を摂ったリシェアオーガは、何時もの通りに、周りの者の食事風景を眺めている。
その傍らには、絶えずフェリスが寄り添い、後ろにはティルザが控えていた。
そこへ、大量の食糧を抱えたアルフェルトがやって来た。
「オーガは、もう食べないの?」
如何せん、この世界の神が大食いの為か、アルフェルトの言葉は、当たり前の様に聞こえている。リシェアオーガとフェリス、ティルザが向こうの神があまり、食事を摂らない事を説明するが、納得がいかない様だった。
まあ、あの神々を見慣れているのだから、仕方無い事ではあったが…。
アルフェルトによって、目の前に置かれた食べ物を、じ~っと、リシェアオーガは見つめていた。
何時もの如く、到底食べれ切れない量のそれに、手を焼いている。
ティルザも手伝いはしたが、如何せん量が多い。
残す訳にもいかず、かといって食べると、力が溜まり過ぎる…そんな事を思いながら見ていると、ルシェルドの声が掛った。
「…リシェアオーガ、如何した?」
声の主に気付き、顔を上げると、黒い双眸が見える。暖かな眼差しのそれは、リシェアオーガの目の前にある物を捕え、苦笑した。
「アルフェルトに盛られたか…。仕方ない。」
そう言うと、空いているリシェアオーガの右隣に座り、盛られた料理を片付け始めた。何時もと同じく、多量の食物をを食べた様に見えたのに、まだ入るのか?と、リシェアオーガは不思議に思った。
「ルシェルド…そなた達の力の源は、何だ?食事の様には、見えないのだが…。」
「…食事でも摂れるが、あまり多くはないな。
カルミラみたいに、大地の気からも、摂れれば良いのだが…難しい所だ。」
効率が悪いのだなと思うリシェアオーガに、ルシェルドは、そういう自分達は如何なのかと聞いてきた。
「周りの気…特に、光と大地から取り込めるが、食事でも摂れる。
食事の場合は、少量で事足りる。」
「…そうか…だから、少ししか、食事を摂らないのか…。」
納得するルシェルドに、リシェアオーガは凭れ掛かった。
確かにルシェルドの力は、余り増えていない。
ルシェルドの方は、リシェアオーガの行動で何事かと思ったが、考え込んでいるリシェアオーガに気付き、特に何もしなかった。
すると、リシェアオーガは食事を再開し、同時にルシェルドへ、力を譲渡し出した。流れ込んでくる力に、ルシェルドは驚く。
「リシェア…オーガ…。」
「アルが折角持って来た物を、残す訳にはいかない。これなら無駄にならないし、力も溜まり過ぎないから丁度良い。
まあ、少し行儀が悪く見えるのは、難点だろうが…。」
力の源を摂取しながらの譲渡、随分…器用な真似が出来るのだなと、ルシェルドは大いに感心した。
然も寄りかかられる方は、満更でも無い様だった。
「オーガ…って、罪作りだよね。」
彼等の様子を、離れた所から見ていたアルフェルトが、ぼそりと言った。
周りの騎士達も、同感だと言う様に頷いている。
騎士達の様子に気付いたカルミラは、彼等の視線の先を確認した。
そこには仲睦まじく見える、ルシェルドとリシェアオーガの姿があった。
微笑ましく見える反面、何か、欠けている様な感じをカルミラは受ける。
本来、捕食者と非捕食者の関係である、破壊神と巫女なのだが、今までは、その間に、必ず恋愛関係が垣間見られたが…今回の場合は、感じられない。
大地の神であり、実りの神でもあるカルミラだからこそ、その可笑しさに気付いたのだ。カルミラはゆっくりと、彼等に近付き、声を掛ける。
「リシェアオーガ殿。何をなさっているのですか?」
彼等の目の前に座りながら、掛けた声にリシェアオーガが、即座に反応した。
「食事と、ルシェルドへの力の譲渡だが…。何か、不都合でもあるのか?」
「特に、不都合はありませんが…力の譲渡をなさっているですか?
そのようには、見受けられませんが。」
「我の意思と、対象に触れている事が条件だが。相手の承諾無しでも出来る。」
ルシェルドに寄り掛かったままで、眼の前に盛られた食べ物を、口に運びながら答えるオーガに、カルミラは唖然とした。
彼の様子にリシェアオーガは、何故、こんな事をしているか、簡単に説明した。
ルシェルドの力と、耐え難い飢えの事、彼の力と自分の力が似ていて、譲渡し易い事。
そして、ルシェルドが何故、生贄の巫女を、しかも向こうの世界の、愛と美の神の祝福を受けた者を、必要とするかを。
リシェアオーガの口から語られた事は、驚くべき事だった為、カルミラは真偽を尋ねた。
ルシェルドとリシェアオーガの双方が頷き、今、行われている方法を取れば、ルシェルドが今後、生贄を必要としなくなる可能性があると教える。
実際、ルシェルドは、リシェアオーガに対して、食欲という欲求が起こらず、自身が満たされて行く事をカルミラに語った。
「ルシェルド…本当に、リシェアオーガ殿が、こんな近くにいても、食欲が湧かないのですか?」
「…ああ、今の気分は…敢えて言えば、巫女を…その…。」
「食べた時と同じか?」
カルミラの質問に、言い難そうに答えるルシェルドの言葉を、リシェアオーガはさらっと代弁する。彼の言葉にルシェルドは、言葉を濁しつつ、肯定した。
リシェアオーガは、自分が喰われる対象である事を、全然気にしていなかった。初見に喰われた事と、食欲と言うものは必要と、認識していた為である。
まあ、最初から、生贄の巫女になる事を否定し、対抗策を練っていたのだが…。
そんなリシェアオーガに、カルミラは安堵し、柔らかな笑いを漏らした。
やっとの思いで、目の前の食物を平らげたリシェアオーガが、カルミラの笑いに気付き、何?というような視線を投げかける。彼は、その視線を受けながら、
「貴女には、感謝してもし切れない程の事を、させてしまっていますね。」
と、リシェアオーガに告げた。当の本人は、当然の事をしたまでだと、言わんばかりの言葉を漏らした。
「…そうか?我は、自分のしたい事、するべき事を優先にして、行動しているだけだ。その結果が導いた事柄に、一々感謝されも…な。」
「それでは、私の気が済みません。
何か、出来る事があるのなら、言って下さいね。」
「今は無い。故に、気持ちだけは受け取って於く。」
簡素に答えるリシェアオーガにカルミラは、消えない微笑みのまま頷く。無欲なのだなと、ルシェルドは感心したが、リシェアオーガの返答に苦笑した。
「これでも一応、神だからな。
だが、欲はある。向こうの世界に帰る事、向こうの世界を護る事。」
「…そう、来るか…、全く、お前らしいな。」
この遣り取りを聞いて、リシェアオーガの傍でクスクスと忍び笑いをしているフェリスに、ルシェルドは気付き、彼にも意見を求めた。
「フェリス、お前の仕える神は、何時もこうなのか?」
「はい、全く、御変わり無くて、安心しました。
民人を愛し、護る事が、我が神の望みです。そして、目の前で助けを求める者を、放って置けない御方です。」
神官の賞賛に、リシェアオーガは反論を試みる。
「場合によっては、放置するが…。」
「罪人と、相手の成長の為以外は、御助けになっていますよ。」
「…全く、我が神官のフェリスには、敵わないな。」
フェリスの意を突いた言葉で、リシェアオーガは降参した。
リシェアオーガの事を理解した上で、彼に仕える事を決めた神官ならではの見解故に、的を得過ぎていたのだ。
再び目の前にした遣り取りに、ルシェルドは笑いを漏らし出した。
以前、神官王に関して、フェリスから聞いたこれが、リシェアオーガ自身の事だと、知ってからの遣り取りである。
自身では無慈悲な神と言い、仕える者から見れば、慈悲深き神…。
その遣り取りが、再び目の前で始まっている。
ルシェルドが肩を震わせている事に、気付いたリシェアオーガは、何を笑っていると、不機嫌そうに問った。
「いや…前に、同じ事をやっていたな…と。
それを再び…目にするとは、思わなかっただけで…。」
笑いながらなので、途切れ途切れになった言葉をルシェルドは、リシェアオーガに向けて言い放った。
楽しそうなルシェルドを見た、カルミラは、更に嬉しそうな顔をする。
ルシェルドが、こんなに笑うのは久し振りで、眼の前の光景が夢の様にも思えた。
だが、これは現実。
この巫女は、ルシェルドの恋人と言うよりは、友人と言えるかもしれないと、カルミラは感じた。
似た者同士の友人…只、年下に見える方が、もう一人より経験豊富だと言うのは、少し不思議な事実であったが…。
ある程度、ルシェルドに力の譲渡を終えたリシェアオーガは、一旦、彼から体を離した。やっと半分位、溜まったと思われる、ルシェルドの力の器に満足する。
それ程、大きい器なら、護るべき事に使える力も大きくなる。力の補給の仕方を教えるべきだろうが、後で教える事にした。
まずは使い方と、この器を満たす事を先決と決める。
不意に離れたリシェアオーガに、ルシェルドは、
「…もう、終わったのか?」
と、残念そうに問った。自分の力が満ちて来ているのは判るのだが、如何せん、物足りない気がしたのだ。
「まだ半分しか溜まっていないが、今は此処までだ。
明日、もう一回程で事足りると思う。」
「リシェアオーガ殿、後一回で、どの位溜まるのですか?」
「恐らくは、8分目位だろう。
余り貯め過ぎては、暴走が起こり易くなる故、その位が妥当だろう。」
ルシェルドとカルミラの問いに、リシェアオーガは簡素に答える。自分の経験上から出した、力の溜め具合の為、的確な量と思われた。
リシェアオーガの返答に、彼等は納得したらしい。
成程と言う、ルシェルドと、そうですかと言う、カルミラ。
彼等は、リシェアオーガの事を信用し切っていた。
まあ、真剣な眼差しと、騙そうという気が無いと言い切れる、リシェアオーガの態度から出た信用だろう。
…必要な嘘以外は、嘘を嫌うのが、リシェアオーガだったからとも言えよう。
食事&座談会(?)が終わり、各自が部屋に戻り、この日は平穏に終わった。
翌日、ファンレムがこの神殿に知らせを持って、訪れるまで………。




