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破壊する者  作者: 月本星夢
二人の破壊神
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第二話

 一方、リシェアオーガは、レイナルの実力に歓喜した。

荒削りの面が多少見える、アルフェルトよりも数段上の、洗練された剣の腕前に、フェリスの指南の結晶が垣間見える。それに加えて、本人の鍛錬の成果と、基本の型の応用と、他の型の融合。

そのどれを取っても、見劣りはしない。

だが、リシェアオーガの目は、レイナルの剣技の僅かな欠点を見抜き、剣を受け流しながら、それを自ら修正して行く。

リシェアオーガの剣の受け答えに、レイナルは、実戦で無いと気が付いた。

師匠であるフェリスが、唯一見抜いた欠点を、リシェアオーガは見抜き、それを直す為に剣を導いている。

そう感じたレイナルは、リシェアオーガの動きに、体の動きを合わせ始めた。

何回か打ち合った後、リシェアオーガからの強い打ち込みで、レイナルは、その場に剣を落とす。訓練の終わりを告げた打ち込みで、周りの騎士は唖然(あぜん)とした。

傍から見ると、互角で打ち合っている様に見えたそれは、小柄の騎士の手加減の賜物と、気付いたのだ。周りの反応を、全て無視したリシェアオーガは、レイナルの剣を拾い、彼に手渡す。

「直ったみたいで、何よりです。」

レイナルは、剣を受け取る時、師匠としての、真面目な口調で告げられた言葉に、微笑みながら答えた。

「やはり、御判りになりましたか…。」

「はい、強い打ち込みを出す際、少し剣が下がっていましたから。」

ほんの僅かなブレ…師匠に見抜かれ、中々直らなかった悪い癖を、この御仁は見抜いていた。流石に、師匠の師である。

然も、この癖を直す術と、手合わせの際にそれを用いる技術をも、持ち合わせている。

フェリスが是非にと言ったのが、理解出来た。相当の腕前を持ち、それを教える事が出来る者で無いと不可能な事を、リシェアオーガは遣って退けたのだ。

加えて余程、詳しい者が見ない限り、周りには、只の手合わせにしか見えない。

恐らく、気が付いたのは、数える程であろう。



「有難うございました。」

「こちらこそ、有難う。良い気分転換になったよ。」

レイナルに礼を言われ、人前の、砕けた口調に戻し、リシェアオーガは返した。

次は?と問うと、ディエンファムが名乗り出る。

周りからの声援が、一層大きくなった。この神殿の聖騎士ならではであろう。

時折、リシェアオーガに対する声援も聞こえてくる。それと共に、圧倒的に多いのが、両方頑張れ~的な声援(応援?)だった。

「…全く、剣術大会では、ありませんのに…。」

苦笑交じりで呟く、ディエンファムだったが、少し嬉しそうである。 

恐らく、今まで気に病んでいたあの土地の事が、無くなったお蔭で、ここの神殿にいる皆が、本来の活気を取り戻しているようだ。

確かに、喜ばしい事ではあるが、ちょっと(はしゃ)ぎ過ぎだろうと、リシェアオーガは思ったが、敢えて止める様な、無粋な真似はしない。

それは、ディエンファムとカルミラも同じであった。



大声援の中、リシェアオーガとディエンファムが、剣を交えた。

一手交えた瞬間、リシェアオーガは、その剣技の巧みさに驚いた。

長寿である精霊のディエンファムが、人間より剣術が上なのは推測出来たが、その剣の腕前はリシェアオーガに、向こうの世界の精霊達を思い出させた。向こうの世界の精霊も剣が巧みで、人間が如何転んでも、足元に及ばない技量である。

加えて彼等は、リシェアオーガの育ての親であり、剣の基本を教えた師でもあった。彼等を感じさせるディエンファムの剣に、何時しかリシェアオーガは、訓練で無く、本気を出し始めていた。

最初は、互角だった打ち合いが、徐々に技量が上がるリシェアオーガの剣に、ディエンファムが押され気味になっていく。


ディエンファムは、リシェアオーガの剣の腕前がこれ程までとは、正直想像出来なかった。最初の一手は、相手の技量が判らなかった為、少し手加減をしたが、その一手でリシェアオーガの剣技の巧みさが判り、次からは手加減を止めた。

剣を交える毎に自らの心の奥底から、何か、得体の知れない喜びが湧き上がってくる。かなりの手練れと剣を交える事が、こんなにも感極まる事だったのかと、ディエンファムは思った。

負けたくはなかった。 

だが、眼の前の騎士は、その技量を図れない。

あれだけ打ち合っているのに、汗は勿論、息が上がる様子も見えないのだ。

終わりの見えない打ち合いに思われたが、先に、ディエンファムの体が根を上げた。これまでかと、思ったディエンファムは、自らの剣を地面に突き刺し、膝を付く。

彼の様子で、もう?と言うようにリシェアオーガは、きょとんとして、ディエンファムを見つめる。息が上がり、かなり体力を消耗していると、感じるディエンファムへ、リシェアオーガは手を差し伸べた。

ディエンファムは、眼の前に差し出された手に、自らのそれを素直に重ねる。すると、リシェアオーガから、大地の気が入り込み見る見るうちに、ディエンファムの体力が回復したのだ。

驚く彼に、リシェアオーガは告げた。

「オレは、常に周りの気を取り込み、力に変えて、剣を振るっているんだ。

ここは、大地の気に溢れているから、幾らでも剣を振るえるよ。」

「気を…力に?」

「そっ、体力に変えて使うんだ。だから、この身体でも、無理無く戦えるよ。」

自分の華奢な体を指して言う、リシェアオーガに、ディエンファムは微笑んだ。 

「恐らく、私達には、無理でしょうね。」

「?ディエンは、精霊でしょ。出来ると思うよ。人間では難しいけど。」

リシェアオーガの言葉で驚いたディエンファムに、後で詳しく教えるよと、リシェアオーガは告げる。それを聞いて、嬉しそうに頷く、ディエンファム。

今まで負けた事の無い彼にとって、この事は悔しさより、向上心の方が(まさ)ったようだ。

精霊に悔しいと、言う感情があるか如何かは、疑問であるが…。



精霊のディエンファムまでもが、リシェアオーガに勝てなかった事を目の当たりにした、こちらの世界の神・3人は、かなり驚いていた。

あの華奢で小柄な体の何処に、あれ程までの力が秘められているのか、然も、無骨な物で無く、舞う様な美しい剣技は、一瞬の隙も無い事に気付く。

人間が何故、これだけの剣の腕があるのか、彼等は不思議で仕方が無い。

「リシェアオーガ様は、神龍の王です。人間より、精霊に近い御方です。」

神々の疑問に答えるかのように、フェリスは(ささや)く。

精霊に近いと言っても、精霊に勝てる訳が無い。

人間なのだから。

そういう思いが、彼等にあった。唯一カルミラだけは以前、リシェアオーガの口から、この事を聞いていたのだが、眼の前の光景に、驚きを隠せなかった。

精霊の王に近し者、そう、神龍王の事を言っていた。 

あのディエンファムが負けた事は、その証明だった。

「リシェアオーガ殿から、神龍の王は精霊王に近し者と、聞いた事があります。

…今の手合わせを見る限り、それは、本当の事ですね。」

「カルミラ、それは、何時、何処で聞いた。」

「あの土地を浄化する前の夜、放牧場の近くの庭ですよ。

一角獣と会われていましたので、その時にディエンと。」

喜々として、禁忌を犯しているカルミラに、ルシェルドは、頭を抱えた。

しかし、今の処、この世界に何も変化が無いのが、唯一の救いだった。

ルシェルドの姿を見て、今更禁忌を気にしても、仕方無いですよと、返すカルミラ。

ファレルアも、カルミラの言葉に頷いた。 

知らなかったから、起こった世界の存亡の危機。

それを回避する為には、禁忌を犯し、知っている事が重要な事だった。 

未だ語れない、リシェアオーガの本性も、それに含まれていたのだが…。



 ディエンファムとの手合わせが、終わった後、周りの騎士達が我先にと、リシェアオーガとディエンファム、レイナルの所に集まった。

誰も剣の指導を懇願(こんがん)し、彼等の意見を聞きたがった。

カルミラの護衛の為、滅多な事では、この訓練場へ姿を現さないディエンファムらしく、他の騎士の熱意は相当のものだった。

リシェアオーガは、彼等の中にアルフェルトを見つけ、ある程度、指摘をする。 

荒削りな点、隙の多さと動きの無駄。

その幾つかを上げ、その改善策を教えた。

実戦で教えたかったが、如何せん時間が足りない。アルフェルトの癖を直すのには、レイナルより多くの時間が必用だった。

まだまだ発展途上にあるアルフェルトに、リシェアオーガは、より多く教えたかった。彼を教え甲斐のある孫弟子だと、認識していて、更なる剣技の高みへ、向かわせたいと思ったのだ。

だが、他の者も教える手前、アルフェルトに掛り切りにはなれなかった。

機会があったら、みっちり扱いてやると、リシェアオーガは思った。

…アルフェルトには、いい迷惑かもしれないが…。


訓練場の喧噪はお昼まで続き、そこに居た全員が、時間を告げる鐘が鳴るまで、聖騎士達からの教えを乞う事を()めなかった。

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