第七話
次回から、新章突入です&今回も、詩が入ります。
食事会(?)が終わりに近付く頃、リシェアオーガは、ファンレムに再び近寄った。一瞬身を縮めたファンレムに、リシェアオーガは問った。
「ファンレム、そなたは風神だと聞いたが、
この世界の何処に何があるか、詳しく知っているか?」
「まあ、一応は…。」
「ならば、ルシェリカ・アレウドの本拠地を、知っているか?」
巫女たるリシェアオーガから、狂信者の居所を聞かれたファンレムは、驚愕の表情を浮かべながら、はっきりとは知らないと答える。
候補は幾つかあるが、確定に至っていないと。
彼等の会話が聞こえたらしい、ルシェルドが、リシェアオーガに尋ねた。
「…リシェアオーガ、奴等の本拠地を知って、如何する?
危険な場所を避けるのか?」
「その逆だ。奴等の懐に入り、殲滅させる。逃げ回るのは、性に合わない。」
何処までも好戦的な巫女に、ルシェルドもカルミラも溜息を吐く。ファンレムは顔を引き攣らせ、ファレルアは尊敬の眼差しを向けている。
ついでに言えば、ティルザとアルフェルトは、やると思ったと確信し、フェリスは存分にやって下さいと、笑顔で応援している。レイナルとディエンファムの聖騎士組は、呆気に取られ、無言で前代未聞の巫女を見つめている。
元々、護られる側で無いリシェアオーガにとって、物凄く当たり前で、絶対に決行する行動であったのだが…。
ファンレムに確定出来るかと問うと、直ぐには無理だけど、2・3日位で判ると、返事が返って来た。
「まあ、さっきの詩のお礼も兼ねて、これから行ってくるよ~。」
能天気な声を出し、出立を告げるが、リシェアオーガは彼を止める。
「今日はもう休んで、明日から調べてくれ。その方が何かと良いだろう。」
気遣う言葉にファンレムは驚き、リシェアオーガを見た。
真剣な眼差しに、他意は無いと感じ、普通の微笑でそれを承諾した。
カルミラが既に、彼の良く使う部屋を用意していたので、そこでファンレムは休む事にしたようだ。ファレルアは、ルシェルドか、カルミラの部屋にいたいらしく、自分の部屋に向かおうとしなかった。
結果、ルシェルドの部屋に泊まる事となる。
後は各自、各々の部屋に戻って行った。
「久し振りに、オーガ様の詩を、拝聴する事が出来たなんて
…まるで、夢の様です。」
リシェアオーガの部屋で、嬉しそうに言うフェリスに、アルフェルトとレイナルは喜んだ。師匠の極上の笑顔に、顔も綻びがちだった。
ティルザも初めて聞くリシェアオーガの詩に、少し興奮気味だった。
何故、彼等ここに居るかというと、興奮冷めやらずという感の人間達が、リシェアオーガの部屋に詰めかけた…という状況だった。
そんな中フェリスが、リシェアオーガへ話しかける。
「リシェアオーガ様、御願いがございます。
もう少し、詩を詠って、頂けませんか?」
珍しいフェリスのお願いに、リシェアオーガは快く承諾した。そして、何か希望があるかと、彼に聞く。
「先程の、あの楽しげな場では、言い難かったのですが、我が姉の為に、鎮魂歌を御願いします。」
「あ…俺も、お願いします。…亡くなった姫の為に…。」
素直に答えるフェリスと、騎士の口調に戻り便乗するティルザ。
彼等の願いにリシェアオーガは頷き、その詩を弾き出した。
我等は見送ろう
鳥の様に 風に乗り
飛び立つかの人を
縛られた身体から 自由になり
かの人は 遠くへ旅立つ
その旅は 安らぎへの旅
かの人が 神の許へ
辿り着くまでのもの
かの人の 魂が 無事に
神の許へ辿り着けるよう
我等は祈ろう
かの人の為に
物悲しく響く、音と、声。
美しくも悲しい詩が、部屋を満たし、消えて行く。
リシェアオーガの詩が終ると、フェリスとティルザは深々と頭を下げ、お礼を告げた。しかし、リシェアオーガは、まだ早いと返す。
「未だ巫女の魂は、解放されていない。未浄化のまま、あ奴等に囚われている。
礼は、彼女達の魂を解放してからで良い。」
「オーガ様…判りました。では、その時に改めて、御礼を言わせて頂きます。」
「俺も…そうします。」
フェリスの言葉に、ティルザも同調した。
それを黙って聞いていたアルフェルトが、我慢出来無くなったらしく、口を開く。
「ティルザって、丁寧な言葉遣いも出来たんだ~。
でも、姫って…あの、もしかして浄化した土地の…。」
口籠るアルフェルトに、ティルザは微笑みながら頷き、そして自分の身の上を、アルフェルトとレイナルに話し始める。それを神妙な面持ちで聞く彼等を見つめ、リシェアオーガとフェリスは、ティルザが彼等と打ち解けた事を感じた。
何時もの軽く、人を馬鹿にした口調で無く、騎士としての丁寧な口調。
恐らく、ティルザの本来のそれは、信頼を得た者にしか使わないのだろう。
ティルザの話を聞き終わった、アルフェルトとレイナルは、労いの声を掛けた。
「大変だったんだね。僕だったら、耐えられないな。
自害するか、相手に復讐しているよ。」
「アルフェルトだったか、今の俺は、お前が言った事を続行中だ。
姫を殺したルシェリカ・アレウドの連中に、一矢報いようとしている。」
「ルシェルド様じゃあなくて?」
「ああ、あの方は、騙されただけだ。
実際に姫の命を奪ったのは、奴等…狂信者だ。」
ティルザの吐き捨てるような言葉に、アルフェルトとレイナルは、納得した。
彼等も敵として見做しているのは、ルシェリカ・アレウドと呼ばれる、ルシェルドの狂信者達である。
何か手助け出来る事があったら、言ってくれと、二人から告げられ、ティルザは一瞬驚いたが、直ぐに嬉しそうな顔になり頷いた。
こちらからも頼むと言うティルザに、アルフェルトとレイナルも、嬉しそうに頷く。
如何やら、騎士同士も意気投合したらしい。
この後、彼等から事情を知ったディエンファムも、加わる事となる。
何処の世界でも騎士は主を第一とし、それを護る為、力を尽くす者だった。
「オーガ様。ファンレム様が御戻りになるまで、時間が空きますが、
如何なされますか?」
フェリスに尋ねられ、リシェアオーガは少し考えて言った。
「カルミラに、約束した神龍王の事とあの闇のを話して、訓練場が借りれるのなら、アルを鍛えようとは思うが…。」
「えっ、僕を?」
「以前、フェリスが言っていたから、良い機会だ。」
「そうですね。師匠の師匠からの手解きなんて、早々、受けられるものではありませんし、何ならレイナル様も、御一緒しては如何ですか?」
フェリスの何気ない暴露に、二人の弟子は驚いた声を上げる。
「えええ~!!オーガが、フェリス様の師匠?」
「オーガ殿が…フェリス師匠の…師匠?!」
2人の叫びをさらっと、受け流しながら、リシェアオーガは頷いた。如何見ても、フェリスより年下に見えるリシェアオーガが、実は年上だと思えない。
見た目だけでは17・8位にしか見えないので、それも仕方がない事だった。
「こう見えても、フェリスより、永く生きている。神龍の王の役目を受けた時点で、外見の年を取らなくなった故に、見た目で本当の年齢は判らない。」
「見たところ、17歳位だよね。それ位の年齢で、神龍の王になったの?」
無言で頷く、リシェアオーガだった。
凄いね~と言うアルフェルトと、未だ衝撃が残っているレイナル。
対照的な二人に、リシェアオーガの表情も和らいだ。
「何も、そんなに驚く事は無い。
神龍の王の役目は元々特殊故、不老に近い状態になる。人間より精霊に近くなると、言った方が判り易い。」
精霊と聞いて、彼等も納得した。この神殿にも沢山の精霊がいて、彼等と交流したアルフェルトとレイナルは、精霊とはどのような者か、学んだらしい。
「オーガ、もし、稽古を付けられるなら、楽しみにしてるね。」
「私もお願いします。滅多に出来る事では、ありませんしね。」
嬉しそうに言う二人の要望を、リシェアオーガは笑顔で受ける。
時間と場所が用意出来れば、明日にでもと、彼は思った。
今日はもう遅いですからと、フェリスに言われ、アルフェルトとレイナルは、リシェアオーガ達の部屋を退室した。
明朝にでも、この事をカルミラに伝え、許可を貰えれば良いと考えた。
翌日、カルミラに相談して、リシェアオーガの推測以上に、意外な結果を導くとは、彼等も思わなかったが…。
彼等が部屋に戻り、二人になったここで、ティルザはリシェアオーガへ話し掛けた。
「リシェアオーガ様。確か、神龍の王になる前に、ファムエリシル・リュージェ・ルシムになられたのでは?」
ティルザの戻らない口調で告げられ、リシェアオーガは、そうだと答える。
「私はファムエリシル・リュージェ・ルシムとなり、ルシム・ラムザ・シアエリエとなった。その後、ルシム・シーラ・ファームリア・シュアエリエとなった。」
リシェアオーガは、他の役目を受けた後に神龍の王となり、その体は王としての役目を受ける前に、不老となっている。
未だ語れない、もう一つの役目と加わった神龍の王の役目、そして、人と神から懇願されて、受け継いだ役目。
彼には、大切な役目が3つあった。
どの役目も自分の持てる力を注ぐ物であって、こちらで押し付けられた物とは全く違う、大切で大義のある物。
このリシェアオーガの言葉を聞いて、ティルザは叫んだ。
「…あ~~~思い出したァ。
ルシム・ラムザ・シアエリエとルシフの王って、同一人物だったァ~~~。」
驚きの余り何故か、普段の口調に戻ったティルザは、俺って馬鹿だ~と、独り言を連発している。随分昔の事の為、すっかり忘れていた名で、初対面の時に自分がやった無謀を、悔いていたのだ。
「あの時、思い出していればァ~~~。」
「こんな事には、ならなかったか?」
「こんな無礼は、しませんでしたよ~~~ォ。」
ティルザの返答に、リシェアオーガは笑っていた。正体を隠していたので、判らないのは当たり前だと諭しても、ティルザの後悔は終わらない。
「ああああ~~姫に何て言って、詫びれば良いんだ~~。
憧れのルシフ王に、無礼を働いたなんて。」
頭を抱え、未だ後悔を続けてるティルザに、リシェアオーガは、素直に謝れと断言する。それが出来れば、苦労しませんと、嘆くティルザへ、リシェアオーガは更なる追い打ちを掛ける。
「マレーリア王国の聖女・リリアリーナ姫か…まあ、頑張れ。」
リシェアオーガから、姫の名を聞いたティルザは驚き、覚えていたのかと問った。
答えは肯定だった。
実際、ルシフの王として、彼女と一度会っていた。
リルナリーナから祝福の金環を受けた、幼き聖なる姫・リリアリーナとは、ルシフの生誕祭で会っていた。
その時の彼女は、まだ、騎士を従えていなかったが…。
『早く終わらせて、帰らねば。
ルシム・シーラ・ファームリア・シュアエリエにして、ルシム・ラムザ・シアエリエ、
そして、ファムエリシル・リュージェ・ルシムとしての役目を果たす為に。』
リシェアオーガは、自身の世界を想う。
生まれ育ち、護っている世界を……。




