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破壊する者  作者: 月本星夢
炎と風を纏う者達
33/59

第四話

リシェアオーガ達は、今回の誘拐犯(?)であるファレルアを連れて、炎の神殿から大地の神殿・カルエルムに戻った。

如何やら彼が攫われてから、一日ほど経っていたらしい。出迎えたのは、フェリスとディエンファム、レイナルだけで、他の者は出るのを控えていた。

大神官と聖騎士2人が代表なら、誰も文句は言わないだろ。

「「お帰りなさいませ、カルミラ様、ルシェルド様、リシェアオーガ殿。」」

「御帰りなさいませ、カルミラ様、ルシェルド様。

御帰りなさいませ、リシェアオーガ様。御無事で、何よりです。」

フェリスは、リシェアオーガに歩み寄り、微笑み掛ける。心配かけて済まないと、言うリシェアオーガに、御気遣い有難うございますと、返すフェリス。

他の二人は、リシェアオーガとフェリスの体格の違いに気付き、驚いた。

何時もならフェリスの方が、少しばかり大きい筈のそれが今、リシェアオーガの方が、フェリスより少し大きいのだ。然も、声も幾分か普段より低く聞こえ、顔つきも男らしくなっている。

服も緩さが無く、寧ろ窮屈(きゅうくつ)そうな位だ。

だが、フェリスは、全く気にしていない様子だった。

「…リシェアオーガ殿。その姿は?」

「ファレルアを連れてくる為に、男に変えた。今、戻す。」

ディエンファムの問いに、そう返答すると一瞬で、何時もの背格好に戻った。

「やっぱり、便利。」

ファレルアの呟きに、ルシェルドは苦笑した。

然も、本当にそう思うのか?と言う問いに、思いっきり頷かれる。その様子を見たカルミラから、女性になりたいのですかと、聞かれると、少し考えて頷く。

理由は女性なら、イリーシアと一緒にいても、エルシアに嫌な顔されないからだった。

「ファレルアは、イリーシアが好きなのか?」

「友達。一緒に本を読んだり、話したりする。

でも、何時も、エルシアに見つかって、怒られる。」

リシェアオーガの問いに、素直に頷くファレルア。

その返答にリシェアオーガは、あの妹馬鹿の顔が直ぐに浮かんだ。

「ファレルア、今度イリーシアに会ったら、その事を彼女に話してみろ。

エルシアの撃退法が、判るかもしれない。」

リシェアオーガの意見に目を輝かせ、やってみると、ファレルアは宣言した。 

その後、リシェアオーガから教えられた方法は実現され、ファレルアとイリーシアが、一緒に遊んでいる処を、彼等の神殿で良く見掛けられる事となる。



「カルミラ様、そちらの方は、ファレルア様ですか?」

ディエンファムがカルミラに尋ねると、そうですよと返事が返ってきた。今回の悪戯の首謀者ですと、厳しい目でファレルアを見つめる。

「お騒がせして、申し訳ない。」

素直に頭を下げ、ここに居る3人の神殿関係者に謝罪する。良く出来ましたと、言う風にカルミラが微笑むと、ファレルアはほっと、胸を撫で下ろした。

「ファレルア様も御考えがあって、行動されたのでしょう。

ですが、御願いがあります。今回の様に、他の方々を困惑させないで下さいね。」

「フェリスの言う通りだ。(みな)に迷惑と、心配を掛けての行動は、(つつし)んでくれ。」

ルシェルドが釘を刺すように言うと、落ち込んだようにファレルアは下を向く。

きちんと反省しているなら、それでいいと言うルシェルドと、お説教モードに入るカルミラとで、両脇を囲まれたファレルアは、彼等に連行される様に神殿の中へ入って行った。

アルフィートは、他の一角獣とエセオシーオと共に、自ら放牧場に帰って行った。

残された4人、リシェアオーガとフェリス、ディエンファムとレイナルは、3人の神々の様子を、苦笑をしながら見つめていた。

「皆さんも、私の部屋に来て下さいね。」

振り向いたカルミラの一言で、残された者達も、その(あと)に続いた。



 カルミラの、駄々っ広い部屋に戻った一行は、先客がいるのに気が付いた。

空色の、波打つ柔かそうな肩までの髪、春の新芽を思い起こすような、若芽色の瞳は困惑を浮かべ、一歩も動けない様だった。

背はティルザと差して変わらない位で、体系もティルザより、やや肉付きが良い程の青年である。顔の作りは、ファレルアに似ていたが、少し大人引いた感じだった。

服装は膝位までの薄緑のチュニックと、その下には空色のシャツの長めの袖が、風に舞っている。渦を巻く様な風と羽の紋章、舞う羽を象ったような装飾が、紺碧の彩りを添えていた。

そして、彼の周りを取り囲む様に、ティルザとアルフェルトがいた。

「カルミラ、これは一体、どういう事なんだ?」

「勿論、貴方を逃がさない為ですよ。

目を離すと、直ぐに、何処かへ行ってしまわれるでしょう。」

「だからと言って、こんな頑固な結界作って…出られないじゃあないか!」

リシェアオーガが先客の方に目を向けると、そこには3重の結界が(ほどこ)されていた。

内側は、ティルザが張ったと思われる炎の結界、その外側は、フェリスが竪琴で張ったと思われる光の結界、そして、一番外側は、カルミラの大地の結界…だった。

確かに頑固だと思ったリシェアオーガの傍から、ファレリアが顔を覗かせ、その青年を見る。途端に、苦虫を噛んだ様に顔を(しか)めた。


「馬鹿が何故、ここにいる?」

「ファレルア…お兄様に向かって、何て口を…。」

「馬鹿を、馬鹿と言って、何が悪いか?馬鹿ファンレム。」

始まった言い争いに、カルミラが制止を掛ける。

「兄弟喧嘩は、それ位にして下さいね、ファレルア。ファンレムは、私が呼んだのですよ。

リシェアオーガ殿、こちらが貴女を選んで連れて来た、風神(ふうじん)のファンレムです。」

先程の青年・ファンレムを見る視線に、鋭さを増したリシェアオーガは、力強い足取りでファンレムの許へ向かった。誰にも止められない歩みは、向かった相手の数歩前で止まる。カルミラの結界に触れたのだ。

「…と、巫女?!やっぱり、実物の方が綺麗だな♪

だけど、微笑んだ方が、もっと綺麗だよ。」

リシェアオーガの視線に気が付かないのか、周りの固まった空気の読めない御仁は、極上の笑顔で馬鹿丸出しの台詞を()いた。

その馬鹿さ加減に溜息を()き、彼に向かって言い放つ。

「ファレルアの言う通り、お前は、本当に馬鹿だな。然も、救いようが無い。

無論、救う気もないが…。」

真面目な顔で、真っ直ぐ見つめて言われた言葉に、ファンレムの、馬鹿丸出しの笑顔が引き吊る。

「そうですよ、リシェアオーガ殿。あまり近付かない方が、宜しいかと。

馬鹿が移っては、困りますから。」

「馬鹿が移る。」

「ファレの言う通り、馬鹿が移る。」

3人の神の口から、同じ意味の言葉が発せられ、ひで~とファンレムが、愚痴を零す。

彼等の忠告を聞いてか、結界の前でリシェアオーガは、今までずっと聞きたかった事を彼に質問した。



「ファンレムとやら、何故、私を巫女に選んだ。」

微量ながら怒りを含んだ声に、声も綺麗だとファンレム感心して、本題を答える。

「今までの巫女より、綺麗で、強そうだったから…かな?」

「強そう?」

「強かったらルシェルドの傍に、ずっと居て貰えるしね。

それに奴等と対抗出来る…かな?でも、女の子は、守られた方が、良いのかも…。」

理由を聞いて、下らないとリシェアオーガは思った。

そして、告げるべき事実を言った。

「私は、ルシェルドの傍には居られない。元の世界に戻る。」

「え~っ、それは困るよ~。だって、ルシェルドが安定しないよ~。

それとも、奴等に殺されるのが、怖いの?」

ファンレムの言葉で、ブチっとリシェアオーガの堪忍袋が、切れかかる音がした。 

リシェアオーガは右手を伸ばし、3重にある結界を壊して(...)、ファンレムの首根っこを無言で掴み、その体を上に持ち上げる。

怒りに見据えた瞳はファンレムを捕え、その色を静寂の青色から、憤怒(ふんぬ)の真紅に変えて行く。その変化に、ファンレムは、(おそ)れ、驚いた。

リシェアオーガから受ける気が、人間のそれで無く、別の何者か、いや、怒ったルシェルドの気と、似ていたのだ。

「我は人間如(にんげんごと)きが、倒せる者では無い。

だが召喚の理由が、今までの巫女より美しく、強いとは下らない。更に下らないのが、巫女が傍にいないとルシェルドが安定しないだとは。」

リシェアオーガは、一番知りたかった巫女に選ばれた訳を耳にし、そんな下らない理由で自分が召喚された事に、更なる怒りを覚える。

そして…ここの神々の行動にも、意見を述べる。

「然も、閉じた世界の神としては当たり前であろうが、他の世界に関与しているお前達が、自身の世界の事しか考えてないのは、問題があり過ぎる。」

己達の事だけを考えていた事を指摘され、こちらの神々はリシェアオーガを、止める事が出来なくなった。

勿論、彼の纏う気配にも、圧倒されていたのだが…。

そんな神々の様子も気に掛らない様で、リシェアオーガは続きを口にしていた。

「加えて、お前達の禁忌(きんき)が難点だ。自身の世界の安定を、我等の世界に頼っているのに係わらず、此処の神々は我等の世界の事を知らない。

それ故に、今回の事が起こった。

我は、向こうの世界でいなくてはならない存在であり、無闇に世界を離れてはならない存在だ。…それをそなたは、こんな下らない無意味な理由で、我等の神々に無断で、我を世界と切り離した。」

一番言いたかった事を召喚した本人告げ、一旦口を閉じる。しかし、相手のファンレムから、反論の言葉が漏れる。

「…無意味…では…ない…ぞ…。」

だが、彼の言葉を、リシェアオーガは即答で否定をした。

「我を巫女と定めた事で、それは無意味だ。

そなたは此の結果、両方の世界の、崩壊の危機を招いた。」

リシェアオーガの言葉で、こちらの世界の全員が息を呑んだ。と、同時に、リシェアオーガを巫女とする事で、両方の世界の危機が本当に訪れるのか、疑問に思った。

だが、直ぐにそれが真実だと、リシェアオーガの口から語られる。

「…危機を…招く…なんて…嘘…だ…。」

「嘘では無い。我が存在は、我が世界を護る為にあるが、それが向こうの世界で消失すると、あるモノが動き出す。

今はまだ、他の守護する者達の御蔭で、封印が保たれている状態だが、それも長くは続かない。この世界が、閉じられている状態では、尚更だ。」

今現在の、向こうの世界の状況を話し、己の本音を付足す。

「もし、今回の事で、我等の世界が消失するのなら………

此の世界も無事では、済まさない。」

そう言ってリシェアオーガは、ファンレムから手を離した。ドスンと大きな音がして、彼が床に尻餅を搗いたが、誰も彼に近付こうとしなかった。

恐らく、真実を知って驚きのあまり、動けなくなっていたのであろう。只、フェリスとティルザだけが、真っ直ぐに、リシェアオーガとファンレムを見つめている。

首の(いさ)めから、解放されたファンレムは、咳き込みながら、リシェアオーガを見つめた。先程の気が消え、まだ怒りがくすぶっている瞳と逢う。

「この世界は、あちらと、繋がっていない。あちらが滅んでも、こちらは大丈夫だ。」

「誰が、そんな事を言うたか。

我等の世界が滅ぶのなら、我は、此方の世界を許さない。

……我が、此の手で滅ぼす。」

一番重い口調で、重い言葉を綴るリシェアオーガ。

怒りの炎を宿した瞳には、何の慈悲も無かった。

その瞳を静かに閉じ、(きびす)を返し、部屋を出て行く。

無言で出て行くリシェアオーガに、カルミラに一言、詫びを入れてから、退出したフェリスとティルザが、付いて行った。

一礼をして、退出して行く従者達を、彼等は遣る瀬無い気持ちで見送った。 

突き付けられた真実に、重い空気が部屋中を満たしていた。

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