表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破壊する者  作者: 月本星夢
血塗られた大地
21/59

第五話

 一通り相手を伸したリシェアオーガは、ゆっくりとフェリス達の所へ向かう。

しかし、まだ動ける輩が、リシェアオーガの後ろ姿へ剣を振るった。その一撃は、リシェアオーガに当たるかと思われたが、彼の剣の方が早く相手の腕の骨を粉砕した。

「ぐああああああ~~~」

物凄い叫びが、辺りに響き渡る。鞘に入り布に覆われたままの剣で、意図も簡単に人間の骨を粉砕したリシェアオーガは、穢れたモノを見る目で相手を見つめている。

かの暴漢の叫び声を聞きいて、集まった人々が、広場へ目を向ける。

そこで彼等が目にした物は、大勢の倒れる者の中に一人だけ、平然と立っている情景だった。

一人佇む、美しい姿を目の当たりにして、言葉を無くす者、騒然とした光景に恐れ(おのの)く者、そして、一人だけ立っている者が聖騎士である事に気付く者…。

騒ぎを聞きつけた人が集まり、段々と騒がしくなる辺りを無視して、リシェアオーガは、最後に剣を向けた者へ問う。

「誰に、頼まれた?」

リシェアオーガは素に戻った口調で問い、驚愕する相手を厳しい目で見つめ、答えを待つ。怒気(どき)を含んだ気配に圧倒され、一瞬、痛みを忘れた相手が、震える声で言う。

「…だ…れにも…頼まれて…いない…」

怯えながら告げられた言葉が、今までのリシェアオーガの経験上、嘘だと判る。

「嘘を()くな。お前は……ルシェリカ・アレウド……破壊神を(まつ)る、破滅の輩…だな。」

「何故…そう…思う…。」

「私がルシェルドの騎士と、知っていたからだ。

稀にしか出現しない為本来なら、どの聖騎士か判らない者を、騎士見習い風情が、一目見ただけで名指ししたのだからな。

ルシェリカ・アレウドの者なら、この(あか)き紋章で判るだろう。

……自分達の神の紋章だからな…。」

リシェアオーガの言葉を聞いて、更に相手の男は(おそ)れ慄いた。自分が考えていた事が見破られ、年若い少年に、的確な推測もされていたのだから。

然もリシェアもオーガは、この男から悪しき禍々しい気を感じていた為、あの輩だと見抜いたのだ。永年の経験で(つちか)った勘が鋭い上に、相手の纏う気が読めるこの御仁に、嘘は吐けない。

それに気が付いた男は、口の中の何かを噛み砕いたようだった。


「毒で自害か…。大したモノだな。」

目の前で自殺をされても動じる事無く、無表情で呟くリシェアオーガ。

事が終ったのを確認したティルザが、フェリスを連れて彼の許に戻り、自分の仮の主の前で倒れている男に気付く。

「コイツ、動かねェなァ~。」

リシェアオーガの足元に転がっている男に対してティルザが、汚い物を触るかの様に足で動かすと、力なく転がった。途端、彼は、相手が死んでいる事に気付き驚く。

「うわっ、何だァ、これェ。死んでるのかァ、コイツゥ。」

「自壊した。ルシェリカ・アレウドの連中らしい。」

破壊神(ルシェ)(リカ・)る、破滅(アレ)(ウド)?!コイツ等が?!」

怒りを顕にするティルザに、リシェアオーガが頷いた。

この騒動は、ここも安全では無い事を、彼等に知らしめたのだ。



辺りの騒がしさに集まった、この神殿の聖騎士と神殿騎士達が、その中心であるリシェアオーガ達に近付いて来る。

何かしら、注意をしようとしたらしい聖騎士が、リシェアオーガの付けている紋章に眉を潜め、それに気付いたリシェアオーガが、彼等に侮蔑の眼差しを向ける。 

「ルシェルド神の騎士か…、あまり派手な事をやらかすな。それでなくとも…」

「存在自体が、迷惑ですか?」

自分達の考えを指摘され、彼等は驚いた。だが、リシェアオーガは続けた。

「そういう愚かな考えが、己の隙を生みますよ。

その証拠にルシェリカ・アレウドの連中が、この神殿に入り込んでいます。」

「な!」

リシェアオーガの意外な反撃に、彼の傍に近付いた聖騎士が驚きの声を上げる。

それを横目に、リシェアオーガは言葉を続ける。

「この周りに伸びている奴等と、そこで死んでいる奴がそうです。

まあ、伸びている輩には、単に利用されただけの者もいるようですね…。」

言われて、辺りを見回す神殿騎士達だったが、見習いとは言え、自分達の仲間にしか見えなかったらしい。反論が、彼等から上がる。

「嘘を吐くな。彼等は、我々の仲間だ。そんな事は…。」

「おい、待てよ。此奴(こいつ)は見た事がない。見習いにしては、年齢も体格も可笑しい。」

リシェアオーガの足元で、死んでいる男を見た神殿騎士が、そう言った。他の仲間もその男を見分したが、見覚えのない事が判明した。まさかと口々に言う彼等に、先程の聖騎士が先導し始めた。

「他の見習いも、調べる必要がありそうだ。

手数を集めて、牢にでも入れておけ。手当の後で、全員調べる事にする。」

命令口調で纏める騎士に、他の騎士は従った。あれよあれよと言う間に、倒れている見習いは姿を消し、聖騎士数人だけがこの場に残った。


「しかし、お前、綺麗な顔している癖に、馬鹿力だな~。18人全員を、素手だけで伸したのか…。」

感心して呟く先程の聖騎士へ、無表情の瞳を向けながらリシェアオーガは、相手の様子を伺った。

アルフェルトと、あまり変わらない体格の男だったが、纏う空気が違う。

厳しく、真面目そうな雰囲気の男は、リシェアオーガの体格を(つぶさ)に観察している。

如何贔屓目(どうひいきめ)に見ても、眼の前の騎士は、華奢としか言いようが無い。

素手で、この人数を倒せる体格で無い彼の、何処にそんな力があるのか、見極めようとしていたようだ。む~んと、考え込んでいる相手に、痺れを切らせたリシェアオーガが口を開く。

「何にか、不都合があるのですか?無いのでしたら、部屋に戻りたいのですが…。」

「ああ、えっと、事の次第を聞きたいのだが。」

リシェアオーガの声で、慌てて考えを中断した聖騎士は、一番重要な事を聞いて来た。それに彼は、簡単に纏めながら答えた。

昨日(さくじつ)の食堂で、この者達から、言い掛かりを付けられたのです。その場は、エルシア様の聖騎士殿の御蔭で収まりましたが、それに気を悪くした彼等が本日、私達がルシェルド様の部屋から退室して、部屋に戻る途中に待ち伏せを掛けたようです。

その際に、神官殿と私の従者が人質に取られ、此処まで連れて来られたのです。」

「……。」

無言で聞いている相手にリシェアオーガは、起こった真実をそのまま語る

「幸い、私の従者が腕の立つ者だったので、神官殿に被害は及びませんでした。

従者に安全な所へ神官殿を避難させて貰い、私が奴等を全員倒しました。」

「素手でか?」

「はい。此処に死んでいる者と向こうで2人程、倒れている者以外は、ほゞ素手です。剣を抜いて相手をする価値も無い者達だったので。

此処で死んでいる者は不意打ちをされた為、鞘に入ったままの剣で相手をしました。その後、この者は自壊しました。

如何やら口の中に、毒を仕込んでいたようです。」

淡々と述べるリシェアオーガに、眼の前の騎士は義務的に頷いている。

彼は、フェリスとティルザにも同じ事柄を聞く。

当たり前だが、全く同じ答えが返って来る。

3人の話に、不審な点が見当たらなかったらしく、何かあったらまた聞きに行くと言って、リシェアオーガ達を解放した直後、レイナルを伴ったアルフェルトが到着した。

遅かったと、のたまう二人に、仕方無いですよと、フェリスが慰めていた。

…本当に仕方の無い事であったが、この件のお蔭で、リシェアオーガに、喧嘩を売る騎士がいなくなったのも事実だった。

彼等も、リシェアオーガの実力を知って、懲りたらしい。 

まあ、当たり前と言えば、そこまでなのだが。


 無事(?)部屋に戻ったリシェアオーガ達は、明日に備えて休む予定だったが、先程の騒ぎの一部始終を、アルフェルトとレイナルに、話す羽目となった。

大まかな遣り取りを話した後、アルフェルトが頭を抱えた。

「オーガ、あれ程、手加減しろって言ったのに、全くしなかったんだね。」

「仕方ありませんよ。オーガ様の、一番御嫌いな手段に出られたのですから。

御怒りになるのは、当然です。」

庇う余地無しと判断したフェリスと、それに頷くティルザ。

当の本人はと言うと…。

「アル、一応剣を抜かなかったから、手加減と言えるよ。素手だけで、相手したもん。

まあ、怪我が治ったら、使い物なるかどうか、不明だけど。」

「やり過ぎ。…って言いたい所だけど、人質って手段は頂けないな~。

まあ、及第点としょっか。」

お許しが出たとばかりに、座っている長椅子へ、体を預けるリシェアオーガ。 

お疲れになりましたか?とフェリスが問うと、首を横に振った。

疲れた訳では無く、気が抜けたと告げるリシェアオーガに、フェリスは何時もの様に微笑んだ。

その微笑を見て、レイナルは嬉しそうだった。師匠であるフェリスが、心から喜んで微笑んでいる事に、気付いていたからだ。

神官である為、何時も業務用の微笑を絶やさない師匠。

その彼が心から笑っている姿は、数える位しか、見た事が無かった。

そんなフェリスが、心からの笑みを絶えさずにいられる。

リシェアオーガという存在のお蔭と、レイナルとアルフェルトは感じていた。

2人の視線が自分に向いている事に、気付いたリシェアオーガは、何?と、いうような視線を彼等に返した。


「いや~、オーガのお蔭だな~と思って。」

「我が師匠でもあるフェリス殿が、こんなにも、お笑いになるのは、貴女の存在があるからです。感謝しますよ。」

2人の言葉を、不思議そうに聞きながら、リシェアオーガは答えた。

「感謝するのは、オレの方だよ?

フェリスが傍にいる御蔭で、怒りに我を忘れる事がないしね。だから、冷静な判断が出来るし、手加減も出来るんだ。」

「っていうと先程のあれでも、我を忘れていないってこと?」

アルフェルトの指摘に、大きく頷くリシェアオーガ。あの惨状でも我を忘れていな状態なら、それを忘れた場合、周りが如何なるか想像したくなかった。

恐らく、多分…血の海になっているだろう。 敵の命を奪う形で……。


アルフェルトの想像を察したか、リシェアオーガが不機嫌な顔で言った。

「アル、我は怒りで、無闇矢鱈に命を奪う事は無い。

寧ろ、その逆、永遠に苦しみを味あわせる事の方が多い。

死は解放であり、救済である故に…な。」

口調を戻したリシェアオーガの言葉の裏を、アルフェルトとレイナルは気付いた。

つまり自ら死を求めるまで苦しめ、痛めつけるが、リシェアオーガの信条である。

この物騒な御仁に彼等は脱力し、アルフェルトに至っては、ティルザへ同情の眼差しを贈っていた。彼の知り得る限り、ティルザが、リシェアオーガの怒りを買った事は明白であった。

ティルザは、向けられた同情の目を、判ってくれたかという視線で返した。

まあ、ティルザの罰がまだ手緩い方だと、アルフェルトは知らなかった。                                                 

上には上がある事を、(のちのち)々彼等は、目の当たりにする事となる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ