000 真夜中の狩り
「ねぇお兄さん。私と楽しい事しない?」
そう声をかけられた男が振り返るとそこには一人の少女が居た
ぱっと見た感じはまだ高校生だろうか
白いYシャツに膝丈のチェック柄のスカート
Yシャツの下にパーカーを着込んでいるらしく、そのフードを深く被っているので表情は窺いしれない
「どういう意味だ」
「言葉の通りよ」
男の問いにクスクスとからかうように答える少女
その態度に少しムッとしながら男は言い放った
「それは俺に援助交際しろっていってるのか」
「うーん、遠からず近からずってとこかな」
「だとしたら残念だったな。俺はロリコンじゃないんだ。君みたいに娘と同じ年ぐらいの子と関係を持つ気はないよ」
男には言葉の通り今年で17になる娘が居た
そして世間には娘と同い年の少女が数万の為にその体を売り、そしてそれを買う大人が居ることに以前から嫌悪感を抱いていた
だからこの少女に説教の一つでもして、こんな事はもう止めさせようと男は考えた
「君は何度もこんな事をしているのか」
「まぁ、週一くらいね。それより、ロリコンは無いんじゃない?私もう18よ。」
「俺からすれば赤ん坊みたいなもんだ」
「ふーん、でもさぁ……」
すると少女はコツコツと靴音をたてながら男の元へ歩き出した
何事かと身構える男
すると、直ぐに強烈な違和感に襲われた
なんだ……この匂いは……
少女から今までに嗅いだことのない匂いが漂っている事に気がついた
甘い甘い砂糖菓子のような、それでいてどこか病み付きになりそうなその匂い
不快では無かった
いや、むしろ何時までも嗅いでいたくなるようなそんな匂いだ
その匂いを嗅いでいると男は自分の頭に靄の様な物がかかっていく様に感じた
少女の匂いに夢中になる男は、いつの間にか少女が自分の目の前にいることに気がついた
「そんな風になりながら言っても説得力ないわよ」
そういいつつ指を指す少女
なんだろう、とその先を目で追う
そこにはこれからの情事に期待しているかのように膨らんだ男の下腹部があった
「なっ……」
「フフッ、……ロリコン」
耳元で囁かれた少女の声に反応してゾワリッと男の体に震えがはしった
そして再度少女の姿を見る
先程は劣情のれの字も浮かばなかった少女の体
しかし、よく見れば充分に膨らんだ胸がYシャツを押し上げていてスカートからは程よい太さの白い足が眩しくのぞいている
そして、先程はフードによって見えなかった顔が露わになっていた
「…………っ」
思わず言葉を失う
そこには男が今まで会った女性全てがかげるような絶世の美少女がいた
意地悪そうに微笑むその笑顔
気付けば男の目は彼女に釘付けになっていた
徐々に高鳴る鼓動に目は血走り、息は荒くなっていく
「ついて来て」
男の手を掴むと少女は歩き出した
大した力ではなかったが男に抗う意志は残っていなかった
少女に連れられ歩く事五分
二人は古びた廃工場についた
大通りから離れていること、さらに深夜一時という時間もあり辺りに人の気配はなかった
以前にも来たことがあるのか少女は迷うことなく進んでいく
此処にしましょうと、ある部屋の前で少女が告げる
以前は応接室にでも使われていたのか、部屋には黒皮のソファーが二つほど置かれていた
あっ、そうだと、少女が部屋の鍵をカチリと閉める
その音を聞いた瞬間男の中で何かが崩れた
「きゃっ!」
少女の悲鳴は既に男には届かない
いや、届いたとしても男の興奮を煽るスパイスにしかなら無かっただろう
少女の細い体を力任せにソファーに押し倒す
息荒く事に及ぼうとする男の顔には、先程少女の申し出を断った面影は無く、ただ獣のように雌を貪り尽くそうとする雄の顔でしかなかった
「待って」
すっと男の鼻頭に少女の指が添えられた
不思議な事にその言葉興奮の絶頂の男でさえ従わなければならないと思わせる何かがあった
「何だよ……、気が変わったなんて言ってももう遅いぞ。誘ってきたのはそっちなんだからな」
「違うわ、先に報酬を貰いたいの」
何だ金か、と男はポケットにある財布を探る
「あぁ、違うわ。別にお金は要らないの」
予想外の答えに驚く男
「じゃあ何だよ」
「フフッ、少し目を瞑ってくれればいいわ」
「はぁ…………そんなことでいいのか」
「えぇ」
少女の不可解な要求
頭をよぎる欠片ほど違和感
しかし、少女の魅了された男の頭に冷静の二文字は無かった
言われるがままに目を固く瞑る
すると、ふぅーと少女が息を吐く音が聞こえた
少女の息からは先程の甘い匂いが何十倍も濃縮された様な匂いがした
あ……れ……?
その匂いを嗅いでいると意識が朦朧としてきた
まるで刑事ドラマで犯人に薬品を付けたハンカチを嗅がされ気を失っていく被害者のように
薄れゆく意識の中で少女の声が微かに響く
「フフッ、ありがとう。それじゃあ、いただきます」
首もとに鋭い何かが突き刺さったような感触を最後に男は意識を完全に失った
男の意識が戻ることは二度となかった