まつりのあと
「いやーよかったよ! 完璧な行進だったよ!」
満面の笑みで頷く八幡さん。
「特に天王寺さん……だったか、あの神々しさは姫子にはだせなかったよ!」
八幡さんは声高らかに天王寺さんを褒めちぎる。すると後ろから怒りに満ちたような声が聞こえてきた。
「……ウチじゃなくてやっぱりよかったね!」
そこには姫子ちゃんがいた。
「あ、姫……そういうつもりじゃなくって……」
慌てて取り繕うと八幡さんはしたけど姫子ちゃんには届いていなかった。
「もう、みんな大嫌い!」
姫子ちゃんはうっすらと目に涙を浮かべて走り去っていった。
「姫っ!」
八幡さんの声に反応も示さず僕たちの視界から彼女は消えた。
「あーあ、私知らないからね。全部君のせいだから」
「どうして僕が!?」
天王寺さんは僕に無実の罪をかぶせてきた。
「どうしてって、ねえ美月ちゃん」
「い、いえ私は……!!」
「まあまあ冗談はそれまでにして、すべて私が悪いんだ。全くダメなおじさんだよ。君たちも悪い気分にさせてしまったね。すまなかった」
僕たちに頭を下げる八幡さん。お辞儀の角度から表情は読み取れないが、大人にこんな態度をとられると恐縮してしまう。
「八幡さん、姫を探しましょう。僕も一緒に探します」
「いや、大和くんにまで迷惑はかけられないよ。これは私の問題だからね」
八幡さんは僕たちに一礼をして姫子ちゃんが去っていった方角へ走っていった。
「僕たちも探そう」
その言葉に天王寺さんは訝しげな表情を浮かべた。
「私たちは関係ないよねぇ、ねぇ美月ちゃん。めんどくさいのはお断りだわ」
風原さんはきりかえした。
「八幡さんには色々お世話になったことですし、一緒に探しましょう」
天王寺さんは腕組をしながらも表情を次第に和らげ、
「美月ちゃんがそういうなら私も一緒に探す。決して大和君、君のためじゃないからね」
「もはや僕が戦犯扱いですか!?」
でも僕と八幡さんだけで探すよりは心強い。
「ゆかりちゃん、風原さんありがとう。僕は神社の北の方を探すから、ふたりは南の方向をお願い」
「なぁにそれは、私たちは戦力として捉えてないの? ふたりして南探せなんて。私は西を探すから」
天王寺さんは少し怒った様子で神輿蔵のある西の方へ歩いていった。
「風原さんは大丈夫?」
「私も一人で大丈夫ですっ! ちゃんと姫子ちゃんと探してみせますっ」
風原さんは気合の入った様子でそう言うと、出入り口がある鳥居の方へ走っていった。僕は本殿がある北の方を探さなくてはならない。あそこは隠れるところがいっぱいあるから大変だ。本殿の中は宮司さんの許可を得なくては入れないだろう。いま起こった事件を話すと厄介事になるのは明白だ。だからといってどうするべきなのか……。とりあえず本殿へ向かうことにした。
本殿前は先ほどまでと違って静かになっていた。宮司さんの姿も見当たらない。
(忍び込むには今がチャンスか……?)
そう思った瞬間に後ろから太い声が聞こえた。
「君はたしか……大和くんだったね。万人行列お疲れ様。これから直会殿で直会が始まるから大和くんたちもおいで」