表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/18

 てがみ

 テレビや雑誌を見ても相変わらず『ローズマリーの約束』が映画ランキング1位。評判としては「人生観を変えられました」とか「恋愛に積極的になろうと思います」とか、大層なコメントばかりだ。僕にとってはあまりいい思い出は無いが……。そんな折、一通の手紙が届いた。



 前略

 都斗みやと、学校はまだだと思うが新しい生活はどうだ? 父さんと母さんはパリに到着したよ。この場合ノスタルジックという言葉がふさわしいのか分からないが、美しい町並みに郷愁感を覚えているよ。そうそう、学校が始まるまでどうせ暇だと思うから、町内会に話をあらかじめつけておいた。アパートの101号室に町内会長が住んでいるから聞いてみてくれ。なんの話かは聞いてからのお楽しみだ。絶対さぼるんじゃないぞ、必ず会いに行くように。それじゃあ何かあったらまた手紙を送る、よい青春を。 草々



 それは父さんからの手紙エアメールだった。16年遅れの世界旅行ハネムーンはどうやらパリに到着したらしい。しかし町内会長に話をつけたそうだが、一体どんな用件なのだろうか。”どうせ暇”という文言が気になる。きっと厄介ごとなのだろう。町内清掃させられるか、地元のイベントに担ぎ出されるか、防犯パトロールさせられるか……考えたらきりがない。どれも嫌だ、めんどくさい。サボタージュするのもありかもしれないが、しかし手紙の最後に町内会長に会えといった意味の言葉が二度も書かれている。これも同義語反復なのだろうか。いずれにせよ会いにいかなければもっと面倒くさいことになるのだろう。僕は重い足取りで101号室へ向かった。玄関を叩くとしゃがれた声の中年男性が出てきた。


「こんにちは、ここに来るように言われた大和と申しますが……」

「おお、君が秀雄さんの息子さんか、いやぁ若いころの彼にそっくりだ。おっとすまない、私はこの大屋都町おおやつちょう界隈を取り仕切っている八幡やわただ、よろしくね」


 八幡と名乗ったこの男は僕よりずっと背が高い、180センチ以上はあるだろう。頭はおでこから頭頂部まで禿げ上がっていて、側頭部と後頭部はふさふさとしている。瓶底眼鏡をかけていて、唇は厚い。白いタンクトップにベージュ色のハーフパンツ、太っていてお腹は大きく出ていた。年齢は50歳前後といったところか。


「ところで僕はいったい何をしたらよいのでしょうか。手紙には内容が一切書かれていなくて」


 父さんから送られた手紙を胸ポケットから出し、八幡さんに手渡した。


「はは! 何も書かれていないね!」


 なぜか嬉しそうにうなずく八幡さん。


「なに、とても簡単なことさ。二日後に開かれる大屋都神社・例大祭の万人行列に参加してほしいんだ」

「万人行列?」

「本当に万人いるわけではないんだけど、それくらい大きな行列なんだよ」


 祭りに参加してほしいという件は理解できるのだが、内容が一切分からない。


「おっとすまないすまない、説明不足だったね。まず大屋都神社ってのは建立600年という古い神社で、4年に一回大きなお祭りするんだ」

「万人行列」


僕はつぶやく。


「そう! 理解が早いねさすが若者だ。まず神社で荒玉祭という境内での儀式を終えた後、お神輿みこしを出すのだけれど、その先導役が万人行列」


 八幡さんは踵を返して部屋に戻っていき、なにやら大きな本のようなものを持って来た。


「これは4年前に行われた例大祭のアルバムだよ」


 ページを開くと絢爛豪華な衣装に身を包んだ男女が大屋都町を歩く姿が写されていた。


「どうだい、すごいものだろう。この時期になるとこの寂れた町も多くの見物客が訪れ、まさに万人になるのさ」

「で、僕はどうしたら」


 八幡さんはほうれい線をくっきりとさせた。


「万人行列に参加してもらいたいんだ、ひとり怪我で出られなくなってしまってね。なぁに心配することはない。ただ歩けばいいだけだから」


 とくに断る理由もない。手紙にまで念を押されているから参加を拒否するのは難しいだろう。


「わかりました。どうしたらよいですか?」

「二日後の朝7時に大屋都神社・社務所まできてくれればいいよ。とくに準備するものはないからね」


 手紙を読んだときは面倒くさいことになるんだろうなと思ったが、楽しそうなイベントに巻き込まれた。こんな経験もなかなかできないだろうからと思うとワクワクしてきた。


「二日後楽しみにしてます」

「宜しく頼むよ大和くん!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ