乙ゲー傍観してた俺が攻略対象に告白された
別タイトル「乙女ゲームにBL要素が追加されました」。
こんな物語、いつか書きたい。
「好、き、なん、だ。俺、と、付き合って、くれ!」
わー。皆さん聞いて下さいよ。今自分の目の前で告白が行われてますよ。
女性が美形に言われたい台詞を吐くのは、この王立魔術学園の実力者の一人で、生徒会会長職に所属している紅 煌弥。『焔帝』とも呼ばれる程の、火属性の最上位種、焔属性の使い手である。
燃えるような紅い髪に紅色の瞳をしており、その顔は、学園内でも必ず五指に入るであろうレベルの整った顔立ちをしている。
――一方、そんな美形に告白されている人物とは。
「……あの、会長?」
「な、んだ!?」
「いやまあ……その台詞、俺に言ってるんスか?」
色々言いたいことはあったがとりあえずそう尋ねる。
……そろそろ現実逃避は止めよう。学園内でも有数の実力者で美形な生徒会長に告白されているのは、紛れもなく自分なのだから。
「そ、うだ!お前に、言って、いる!」
「…………」
声にはならなかった「マジで?」が自分の胸中をぐるぐると回っている。え、本当にマジ?何で俺?俺何かしたっけ!?
自分、夜叉神 久遠は転生者である。一度殺され、この『PALETTE~君にかける俺の魔法~』の世界に転生してきた。
『PALETTE~君にかける俺の魔法~』。あの有名な乙女ゲーム、『PALETTE~貴女を彩る俺の色~』のパラレル作品で、それぞれの作中に出てくるお伽噺の舞台が、別の作中の世界観として用いられている。
「~俺の魔法~」はタイトル通り「魔法」が存在する完全な異世界である。ただ、なぜか攻略対象者の顔や名前が殆ど変わっていないことから、プレイした人からは「これパラレルって言うか?」「運営の手抜きじゃね?」とバッシングを受けていた。
久遠は前世も今世も性別は男である。ゲーム内容を知っていたのは、前世の姉がゲーム製作に関わっていたせいだ。
そう、久遠は男である。そしてまた、煌弥も性別は男だ。
「……えと会長。俺のこと知ってんスか?」
「と、ぜんだ!」
なぜかドヤ顔してる件について。
それより先程から会長の顔が真っ赤なんですけど。しかもめっちゃドモってんですけど。え、この人会長?別人じゃなくて?いつもの「名前や見た目と正反対なクールキャラ」はどこいったの?
「え……と、とりあえず会長」
「!なん、だ!?」
「いや……場所変えません?」
ここ食堂なんですけど。周りに沢山ギャラリーいるんですけど。しかも全員俺たちのこと見てるんですよ。
仕方なく、頼んだカルボナーラを置いたまま食堂を立ち去る。久遠と煌弥が食道を出ると、後ろの方から爆音が聞こえた気がする……が、恐らく気のせいだろう。
二人は第二演習場に来ていた。幸い昼休みなのに練習している者がいなかったためここにしたのだが、一向に会長は口を開かない。しかしなぜこうなったんだろう。
この乙女ゲームは攻略対象者が生徒会役員+風紀委員+教師の計十人。その中でも一番人気だった会長が、一体全体何がどうなってヒロインではなく自分を選んだのか、久遠には全く分からなかった。
ちなみにそのヒロインだが。
「~~~~!」
先ほどから陰で自分たちのことを睨んでいる。それは仕方ないだろう。自分と同じくヒロインに転生した彼女は、逆ハーレムエンドを狙っていたのだから。
ヒロイン、叶野 朋美。彼女が学園に入学してきたことから物語は始まる。入学式の会場までに迷ったり、実は彼女は珍しい《無限魔力体質》だったりと徐々に明らかになっていく彼女の秘密、それを知りながら攻略対象たちとフラグを立てていくのがこのゲームだ。ゲーム本編では、彼女は天真爛漫でちょっと天然が入った可愛らしい女の子――だったのだが。
彼女が入学してきてから、彼女も転生者だと知った。それも、ヒロインとして。
ゲーム自体は選択肢を選ぶことで進めるものだったから誰でも簡単に逆ハーレムエンドを迎えられる。そう、ゲーム本編は。
しかしいくらゲームの世界に酷似しているとはいえ、久遠にとっては現実である。……例え神から膨大なチートを貰っていたとしても。
「…………」
いい加減口を開いてくれないだろうか、この男。だんだん腹が立ってきた。
はあ、とため息をこぼすと目の前の男が肩を揺らした。
「会長。あなたが俺に告白した、というのは理解できました」
「う……あ……」
顔を真っ赤にさせて口をパクパクさせている。あれ。ちょっと可愛く見えてきた。いやいや、相手は男だぞと自分に言い聞かせる。
「……だから、なぜ、俺に、好意を持ったのか。説明してください」
我ながら酷いことを言っていると思うがそれくらいは許してもらおう。あろうことか学園の食堂で自分を辱めてくれたのだ。自分の目の前で、好意を持った経緯をしっかりと、あなたの口から話してもらいましょうか。ねえ、会長?
☆ ☆ ☆
どうしてこうなったんだろう。
「へえ。すると会長、俺のこと昔から見てたってことッスか?」
会計に言われて食堂で告白して。返事を待っていたら食堂から腕をひかれて連れ出されて。え、うそ、俺今久遠と手繋いでる!?とテンパっていたらいつの間にか演習場まで来てて。夢みたいと思ってぼんやりしてたらいつの間にか自分の口から久遠に好意を寄せた経緯を話すことになってて。
……これ、どんな羞恥プレイ?
「具体的には?」
そう言われて思い出す。
昨年度の入学式の時には「うお、デケェ」としか思わなかった。新入生なのにもう身長百九十超えているな、としか。
しかしその内、気が付いたら目で追っていた。合同演習、生徒総会、遠征演習。背が高く目立っていたのもあるだろうが、久遠を見られなかったら寂しかった。そして自分が生徒会長に選ばれてからは壇上で探しやすくなって嬉しかった。生徒全員を見渡しても不自然じゃなかったし。
でも。今年に入学してきた女子生徒が行く先行く先で遭遇して気持ち悪かった。
初めて会ったのは食堂だった。
校内でも何かと有名な副会長の青木ヶ原 水珠の笑顔を「気持ち悪い」と一刀両断したらしく、帰って来た時の笑顔がヤバかった。口元は笑ってるのに目が笑ってなかったし。水属性の最上位種、雹属性の使い手故か、背後にブリザードが吹き荒れていた。いや比喩じゃなく。
そんな命知らずの顔を拝みに食堂に行った、はずだった。
「貴方が生徒会長?」
初対面の第一声がこれ。今考えてもおかしいだろう。俺歳上よ?生徒会長サマよ?……いや例え生徒会役員の中で一番地位が低かったとしても。
それからことあるごとになぜか出会う。煌弥のお気に入りスポットにずかずかと土足で踏み込んできたり、立ち入り禁止の演習場に許可証なしで乱入してきたりと、彼女が入学してきてから作成した始末書枚数はたった一ヶ月で二桁を超えた。これには先生方も驚いたらしい。聞くところによると学園の最速・最多記録を達成したらしい。
そのせいでここ数日は生徒会室に籠りっきりだったが、ふと思うのは久遠のことだった。あの笑顔が見たい。あの手に触れたい。あの。あの。
様々なIFが頭の中を巡り、仕事が手につかなくなったのも一度や二度じゃない――。
ふと意識を戻すと、目の前の久遠が頬を赤く染めていた。身長差から見上げることになり、こちらも顔が熱くなるのを感じる。
「……それ、マジッスか?」
「え、」
「去年の入学式から俺のこと見てて。いつも俺のこと思ってくれてて。仕事も手につかないくらいっての」
・ ・ ・ !
彼の言葉が脳に到達してその意味が分かって顔が真っ赤になった。うそ。え、まさかさっきの回想シーン口に出してた!?全部聞かれた!?
口を開いて閉じてを繰り返すことしか出来なくなった自分を、久遠はその差がある体格でギュッと抱きしめた。
「~~~~!?」
声にならない悲鳴が盛れる。え、抱きしめられた!?どうしよう。これ夢!?ああ、夢か。そうだよな。あの久遠が俺なんかを抱きしめるはずない。そうか、夢か。だったらいいよな。全部言っちまっていいよな。
「…………好き」
「……はい、俺も」
返事返されたあぁ!?し、しかもYES!ああ、これ本格的に夢だな。現実だったら久遠は気持ち悪いとか言いそうだし。
……自分の想像で煌弥は涙した。未だ抱きしめられているのを感じ、夢なら覚めないでくれと願った、ら。
その拘束が緩んだ。眉を下げて見上げると、久遠はにっこり微笑んで自分の顎を手で上げる。
そしてその顔が近付いてきて――。
……その後は生徒会長権限で割愛させてもらう。ちなみにあの女子生徒は退学を余儀なくされた。
そして学園には、二人の生徒が夫婦よろしくラブラブなカップルが一組誕生した、と噂になっている。