第六話「統括者の動向②」
一人目の『卒業』が済んだ。
統括者は自室の椅子に足を組み、息をついた。
『卒業』という言い方は『上の人間』が決めた言い方のため統括者はあまり好んでいなかった。そもそも、『卒業生』中二人は『浅葱園』に入園自体してないのだから。
――それにしても、八神永久の殺害は予想外だった。
千種陽斗は『卒業生』だった。しかし、八神永久はそうでない。彼はまだ片付ける予定ではなかった。あの小さな天才は統括者側と利害関係が一致していたのだ。
恐らく、千種陽斗の殺害時に彼がいたから、殺されたのだろう。
――まあ、殺す必要はなかったけど、殺さない理由もなかったからいいか。もともと脅威には変わらないんだ。
統括者はそう納得することにした。
――それに、八神永久の『病気』は外に出られないという問題があるものの、最も危険な『能力』だ。
自分たちの『能力』も視透かすことができるのだから。
統括者は薄く笑った。
統括者もまた、千種陽斗らと同じように『能力者』であった。
当然、八神永久はそのことを視透かしているはずだ。
――でも、それを口にすることはない。
何故なら、それを言えば、自分の安寧の地である『浅葱園』から追い出される。最悪の場合、口封じに殺される。八神永久はしっかりとそのことを心得ていたのだろう。
統括者はそれも予測して、八神永久を生かしていた。
さらに、他人にはまず露見することがない『能力』なのだ。統括者はその『能力』を密かに使用して今の地位にいた。
統括者の『能力』は物理的なものではなく、対人のコミュニケーション時に活用できるものであった。相手に自分の望みを呑ませたりするのが、簡単なの だ。
――さてと。
統括者は息を吸い込んだ。
――千種陽斗の死を受けて、他の『卒業生』はどのような動きになるだろうか。
その予測が、これからの計画の重要な点であった。
――最も注意しなくてはいけないのは零崎碑弥夜だ。
――彼の『能力』も危険だ。記憶を視られたら、ゲームオーバーだ。
――さらに、巡りめぐって『あの女』の正体が彼らに露見するのも危険だ。
計画が進めば進むほど、懸案事項が増えていく。それは仕方がないことなのだが、さすがに面倒だ。
統括者は心の中で悪態をつく。
――でもやらなきゃいけないことが面倒だというのはよくあることだ。
統括者はそう自分に言い聞かせて、立ち上がった。