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Oさん出棺

Oさんが亡くなった。女性。まだ八十代だったと思う。担当フロアが違うので詳しい事情は分からないが、一週間ほど前、急に様態が悪化して、昨日日中に息を引き取ったらしい。

亡くなると、たいてい失禁しているので躰を拭いて着替え。それから看護婦が処置。遺体をシーツに包む。遺族と葬儀屋の到着。担架に乗せて出棺。一通り終えて煙草を吸う。オクダさんが「ヤスタカさんがまたサボってる」と茶化す。お見送りの際、躰にかけられた塩を手で払う。

亡くなったOさんの部屋は綺麗に片付けられる。必要なものを遺族が引き取り、そうでないものは当施設などに寄付される。部屋の前の名前のプレートからOさんの名前を外す。シーツ交換。掃除。最初から誰も住んでいなかったように綺麗にする。次にまた新しい人が入るから、前の人の痕跡が残っていては都合が悪い。

介護業務日誌に「四階 O様 〇時〇分 逝去」と走り書きする。

四階の職員が一人、鬱が悪化して辞めた。手首を切っておかしくなったそうだ。

他、テレビ朝日からの取材を院長が拒否したと報告。すでに最寄り駅まで来ていたのをドタキャンしたそう。



仕事中、暇が出来たのでスズキさんと話をする。女性。鬱病。スズキさんが言うには「あたしは電車には近寄らない」とのこと。電車に乗る時は必ずホームの真ん中あたりに立ってるの。絶対に線路側には近づかない。死にたくなるからね。

鋼鉄の塊が自分の頭を吹き飛ばす情景を想像する。

入居者の大半は精神安定剤を服用している。デパケン、デパス、リスパダール、等々。

僕が見た中でいちばん凄かったのは、何といってもリスパダールだ。以前は泣きわめき、職員や入居者に暴力を振るっていた老女が、いつも服薬しているものにリスパダールを混ぜた途端、ピタリと静かになった。傍目からは、意識も吹っ飛んでいるように見えたが……。僕は尋ねた。

「これ(リスパダール)、勝手に飲んだらバレますかね?」

「一緒に仕事してる時はやんないでよ、事故おこされると面倒だから」スズキさんは素っ気ない。彼氏とかいるのかなあ、と思った。僕はスズキさんが好きだった。仕事も出来るし胸も大きいから。何よりすれっからしでサバサバした性格は好感が持てる。でもきっと自分は彼女に対して何もしないだろうとも思った。僕はデカイ躰をしているくせに根性無しだし、それに、いまさら何をしても仕方のないことだ。

夜になると哀しい気分になるので酒を飲むことにしている。



「俺は存在していること自体が違法」 mobb deep



最近は病状が著しく悪化。勤務中に嘔吐するようになった。トイレでうずくまりながら、物質アルコール性依存の末期的症状だなあ、と思った。これも現実逃避の一つの形か。哀しい気分に襲われそうな気がしたので、急いで多幸剤を二回ぶん一度に服薬した。

すぐに楽しくなってきた。

僕は笑った。

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