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眼鏡男子の日常  作者: きり
第5章 働く日常
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「あ、そうそう、瑠璃ちゃんにも紹介しておかなくっちゃね。こちら、今回臨時で影見師をやって貰う事になった……」

 何故、そこでまた詰まるんですか、柊さん。

「片瀬です。初めまして」

 立ち上がり軽く会釈をする。

 なかなか俺の名前が出て来そうもなかったので、仕方無く柊さんの期待の眼差しに応える事にした。

 ……と言うより、早く名前くらい覚えて下さい。柊さん。

「で、こちらは風師の榊田瑠璃さん」

「初めまして」

 そう言って握手しようと差し出された手を握りながら、手の持ち主を初めて真面に見た。

「あ!?」

 と、互いに相手に気が付き、驚きの声をあげた。

 彼女は以前、俺が麒翔館大で女性霊に憑かれていた時に助けてくれた霊喰い少女ではないか!!

「何? どうかした?」

 俺達の様子がおかしい事に気付いた柊さんが、不思議そうにこちらを見ていた。

「あ、いえ、何でもありません」

 先に立ち直ったのは俺だった。

 榊田さんも俺の言葉に我に返ると、続いて、何でもないです、と慌てて答えた。その割りには声が裏返っていて、何でもないようにはとても聞こえなかったが。

 柊さんは、しばし怪訝そうな顔をしていたが、気にしない事に決めたらしい。自分が先程まで座っていた席に霊喰い少女――じゃなかった、榊田さんを座らせると、鞄の中から小さなベルベット地で出来た巾着袋を取り出した。

「早速で悪いんだけど、これを探して貰えるかしら」

 袋の中から取り出したのは、昨夜、俺が柊さんに渡した偽の守護石だった。

「これ、ですか?」

 榊田さんは、受け取った偽石を親指と人差し指で摘むと、自身の目の高さにまで持ち上げ、見入った。

「そう、これ。デザインは基本的にみんなこんな感じね。石は、物によっては違う種類の石を使っているかもしれないわ」

 ねぇ、と同意を求められ、はい、と頷く。

「探して貰えそう?」

 柊さんはそう言って心配そうに榊田さんを見た。

 知り合いになってからそう時間も経っていないのだが、俺から見ても常に自信満々な感じの柊さんにしては、妙な気がした。

「……その石に興味を持ったみたいです。多分、見付けられると思います」

 榊田さんの言葉に、柊さんはほっと安堵の表情を浮かべた。

「じゃ、早速なんだけど、お願い出来るかしら」

「分かりました」

 榊田さんは、頷くと座ったまま両手を胸の高さにまであげ、次々指を組み合わせた。最後に両手の親指と人差し指をそれぞれ合わせ、そこに三角形の空間を作り、スーッという音を立てて息を吐き出した。そのまま固まった次の瞬間、あげられていた手が急に脱力したかのように、ポトリと彼女の膝の上に落ちた。

「少年、悪いんだけど、暫く彼女の面倒を見ててくれないかしら」

 俺に榊田さんの隣りに座るよう身振りで促しながら柊さんが言った。

「これから私達で偽石の持ち主が他にいないか探してみるから」

 そういって、彼女は空を見た。言われるまま榊田さんの隣りに腰掛けた俺も、釣られて何も無い筈の空を見上げる。

 するとそこには、先程まで生きていた筈の榊田さんの変わり果てた姿があった。麒翔館大の図書館で見た時と同じ、人にあらざる姿をした榊田さんがそこにはいた。

「ああ、心配しなくても大丈夫よ。彼女はちゃんと生きているから。ちょっと違うけど、生霊みたいな物だと思ってくれればいいわ」

 俺の呆然とした顔に気付いた柊さんが言った。

「と、言う訳だから、今の彼女を一人にしてはおけないのよ。じゃ、少年、後は頼んだわね」

 そう言うと柊さんは鞄の中から小型の望遠レンズ付きカメラを取り出し、鞄を俺の膝の上に放って走り出した。頭上には、霊体となった榊田さんを従えて。



 二人――と言うか、一人と一体と言うべきか――が偽石を探しに行ってから、一時間以上は経っただろうか。

 待っている事は大して問題はないのだが、ちと困った状況に陥っていた。横にいる霊喰い少女こと、榊田さんの抜殻と化した身体が傾いで、今、俺の肩に凭れ掛かってきている。

 これって、他人から見たらどうなんだろう?

 場所が校門側と言うだけあって、学生達の出入りも激しい。

 三限目の講義もとっくに終了し、四限目に突入している筈だった。四限目は、時間的に一限目同様、余り人気が無い為か、講義を終えた学生達が、校舎を出て思い思いに散っている。その為、益々その人出が増していた。

 案の定、チラチラとこちらを見て行く人間の姿も増え始めていた。

「あ、カタやん!」

 恐れていた事態発生。近藤が俺の姿を見咎め、近寄って来ようとしている。しかも、口に指を銜え、今にも指笛を吹こうと構えている。

 ここは素直に応対するべきか、榊田さんと他人のフリをするべきか、はたまた近藤を無視すべきか……。

 俺が一人悩んでいると、両手の指を銜えたままの巨漢の近藤は、背後から及川に羽交い締めにされ、両脇や前からも数人のツレ達に押されるようにして、連れ去られて行った。最後に岩久間さんが、ニヤリとイヤらしい笑いを浮かべ、敬礼をして去って行った。

 ……ぜってぇ、あいつ等誤解してやがるな。

 それでも何とか危機は去った。妙な気を利かせてくれた連中に感謝。

 しかし、安堵はしたものの、よくよく考えてみれば、明日にはどうせ必ず奴等は榊田さんの事を聞いてくるに違いない。

 俺は一人、深い溜め息を吐いたのだった。



「で、こっちのは文学部一年の角田さん」

 その後、ようやく帰って来た二人と共に、awfの事務所に戻ると、やっとのことで遅い昼食にありつけた。しかしそれは、柊さんが撮ったという写真を前に、俺は知っている人間の名前を答えた後だったが。

 事務所に着くなり、柊さんは大学内でデジカメで撮った写真をプリントアウトし、分かる範囲で構わないから、と写真に写った人物を答えさせられたのだった。

 写真に撮られた人物は、樹という榊田さんの風が見付けたという偽石の持ち主達らしい。勿論、俺が見た三人の偽石の持ち主も写真を撮られていた。

 驚いた事に保絡みの噂で嘘を吐いていると岩久間さんが指摘していた人間の多くが写真に写っていた。と言うか、俺が顔と名前を知っている限り、という事だが。

 と言う事は、写真に写った人物の中で俺が知らないだけで、彼女等の中にも偽の被害者が混じっている可能性はないだろうか?

 考え始めたら気になって仕方がなくなるから不思議だ。俺は全ての人間の写真を見終えた後、柊さんにこの偽の被害者の件についても言及しておいた。

「成る程ねぇ……」

 と、柊さんは呟き、麦茶を一口啜った。

「偶然にしては、よく出来ている話よね」

「もしかしたら、この辺の娘が、噂にあがった他の偽被害者かもしれないですね」

 身元不明の人物の写真を手に取り、数枚の写真を差し出した。

 それを受け取った柊さんは、一瞬、驚いた顔をしたが、急いで取り繕うと、何故そう思うのか、と尋ねた。

「服装が派手なんですよ。こっちの彼女達は、そうでもないんですが、ね。明らかにこの写真の娘達は派手でしょ。……って言うか、雰囲気が似ているんですよ。俺が知っている偽の被害者の娘達に。以前、友達と話していたんですけど、自分で嘘の噂を流したと思われる娘達って、皆一様にここ最近急に派手になった、って話していたんです」

 俺は食い終わった弁当の蓋を閉め、伸びをした。

 俺が顔を知っている偽被害者の写真数枚と、残った見知らぬ人物の写真数枚を分けて、柊さんに返した。

「この娘達が偽石を持っているのは、ただの偶然じゃないかもしれませんね」

 そう言うと、柊さんは、うーん、と唸ったっきり、両腕を組んで考え込んでしまった。

「実は今、君が選んだ写真の娘達ってね、さっき樹君が、妙な反応を見せた娘達なのよね」

 暫く経った後、柊さんは言った。

 そうよね、と、榊田さんに同意を求めると、彼女も深く頷いた。

「確かに妙でしたね。頼んでもいないのに偽石に自分から自分の石を貼り付けてましたしね」

 クスクスと笑うと、ご馳走さま、と手を合わせた。

「かなり興味津々なんじゃないですか? でもそれ以上に気になる事があるんですけど」

 と、榊田さんは言った。柊さんに促され、一つ頷くと話し始める。

「実は、まだ偽石は他にもあるんじゃないかと思うんです」

「他にも?」

「はい。何か、樹が探している感じが最後まで拭えなかったんです。マーキングしていても、何となくこれじゃない、って言っているみたいな……」

 眉間を指で押さえながら、榊田さんが言った。

「いずれにせよ、今夜、他の風にもその偽石を見て貰った方がいいと思います」

 私達で道案内しますから、と付け加えた。

「そうね。じゃあ、今夜、桂に見て貰いましょう」

 そう言うと、柊さんも箸を置いた。

「あの、ちょっと質問してもいいですか?」

 二人で今後の予定を話し合っていた所に、割って入る。

 何となく今日一日中、ずっと気になっていた事を質問してみようと試みた。

「ん? 何かしら?」

「今日、柊さん達が調べていたのって、保以外、全員、偽石の保持者ですよね?」

「ええ、そうよ。それが何か?」

「あ、いえ、大した事じゃないんですが、ちょっと気になって。あの、どうして事故に遭った娘達の事は調べないのかな、と」

 俺の問いに、ああ、と大きく頷いた。

「変な話、ターゲットにされている娘が特定出来ないからなのよ」

「ターゲット?」

「そう。言うなれば、呪詛された対象者。君の話によると、被害――と言うか、事故に遭った娘達は、一人じゃないでしょう? それに中には何度も事故に遭っている娘もいる。共通する事は、その日、新山君と話した事くらい。だからと言って、新山君と親しいかと言ったら、特に親しくも無い」

 彼女の言葉に、俺は頷いた。

「結局の所、今の段階では、呪詛を行っている人間の意図がはっきりしないのよ」

 だから手っ取り早く呪詛を行っている人間を見付けてしまおうと思っているのだ、と。



     *



「カタやーん、昨日の娘、彼女?」

 次の日、案の定恐れていた通りの一日の始まりだった。

 大学に着くなり、何人もの野郎連中に捕まった。

「んなんじゃねぇよ」

 溜め息を吐きつつ、何度目かの否定の言葉を口にする。

「片瀬ったら、一人だけさっさと彼女持ちになっちゃったんだな」

 いや、だからおめぇは人の話を聞いているのか?

「男の友情は、かくも儚い物だったんだな」

 もしもし?

「いるならいると言っといてくれなくちゃ。桃歌女学院との合コンのメンツに、お前を入れといてやったのに」

 別の奴を捜すか、等と通り過ぎる野郎までいる始末。

 待って! 合コン、カンバーック!



「片瀬君、昨日の彼女誰?」

 やっとの思いで妙な嫉妬心に苛まれた野郎共から脱出す事に成功した俺。

 講義を受講する為に教室に入り一息吐いていると、岩久間さんに声を掛けられた。

「岩久間さんまで。違うよ。あの娘は単なる知り合い」

 やれやれと、肩を竦めると、次の講義の準備を始めた。

 実は、昨日、awfと契約する際、一切仕事の事に関して第三者に話さない事を、約束させられていたのだ。だから、当然、榊田さんとの関係も説明出来るわけも無かった。

「やだ、片瀬君ったらぁ。私はただ、誰だって聞いただけなのにぃ。何深読みしてんのよ」

 むふふふふ、と、イヤらしく笑うと、隣りの席に腰を下ろした。

「でも、これで片瀬君が眼鏡を何で止めたのか、はっきり分かったよ」

 更にイヤらしい笑みを満面に浮かべて岩久間さんが言った。

 ……いや、絶対、分かってないから。

 そうはっきり言ってやれれば、どれだけ気が楽か。俺は顔を強張らせながら、まあね、とだけ答えた。

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