すごく……熱いです……
久々にこうしん。
次回からちょこちょこ戦闘開始。
俺は大会についての詳細を聞いていた。
「なんでも、ベルウィエッタ姫様が自分の騎士団を持ちたいと言い出したらしく、その上強い騎士でないと嫌だと言うことで、王もしぶしぶ大会を開き、沢山の人数は無理でも2・3人姫様直属の王宮騎士として取り立てるそうなんです」
「……ワガママだな。おまけに王は姫に甘いってなぁ……」
「おてんば盛りな十三歳の上に一人娘ですし仕方無いですよぅ。でも、姫様自身も強いそうですし、とても可愛、じゃなくて綺麗なので、かなりの人が集まってるんですよ?」
姫さん目当てかよ……やってるほうは至極真剣なんだろうがあまりにもあほくせぇ。しかも十三歳って一歩間違えたらただのロリコンだぞ?
ただ、選ばれれば王族とパイプどころじゃないもんが得られる。姫様の私兵になれるならいつ敵国との戦争が始まるかわからないし、出ないって手はないよな。
「そうか、で、メルは出るために来たんだろ?申し込みとかはどうすりゃいいんだ?」
「あ、やっぱりカンタローさんも出たくなりましたか!?開催前日まで申し込みは王宮の前でできますよ。まだ一週間くらいありますけど、私、明日申し込むつもりだったのでいっしょに行きませんか?」
「いいのか?」
「ダメなわけありませんよ!騎士たるもの嘘はつきません!」
「騎士なのか?」
「この大会でなるんです!騎士になってさらに強くなったらいつかおとぎ話の英雄みたいになるんですから!」
スゲーなこの子。
ものすごく「大会で選ばれるのは私!」みたいなオーラが出てる。おまけに英雄ときた、まぶしい奴だぜこいつっ!!
……でも多分無理だなこりゃ。
絶対に選ばれたいって思いはプレッシャーにしかならない。言葉は自信満々でも自分を追い込んでるだけだってことに気づいてないみたいだから、おそらく負けたら心折れるな。結構強いみたいだし今まで圧倒的に負けたことは無いんだろう。
俺はイズールドさんを思い出した。
あの人は俺より圧倒的に強かったから、俺は強さに溺れなかった。俺が少し強くなったとき、あの人に俺は完膚無きまでに叩きのめされた。「どれだけ強くともも慢心する者はアリすら殺せない」と言われ、強くなっても努力を怠らなくなり、絶対に慢心しなくなった。
メルには、それが足りない。それでは壁に当たったとき、諦めたり、無謀に挑んで返り討ちにあう。
ただ、俺は助けたりしない。それには自分で気づくべきだからだ。
「カンタローさんも頑張ってくださいね!負けたら私が仇をうってあげますから安心してください!」
「あ゛?」
……計画変更。ほんとは大会で気づいて欲しかったが、気が変わった。
「なあ、明日登録し終わったら、特訓に付き合ってくれないか?」
「へ?特訓ですか?」
「ああ。手合わせってやつだよ。強いみたいだしいいだろ?」
大会前に、へし折る。これは善意じゃない。これは負けると言われた俺のプライドの問題だ。さすがにねらって言ったわけじゃないだろうがそれでもちょっとカチンときたからな。
叩きのめされたあと、戻ってこれるかは知らない。
「やっぱり私強そうに見えます!?わ~嬉しい!!わかりました!手伝ってあげちゃいましょう!」
誉めたつもりはなかったんだが嬉しいのか……なんか、こんな純粋な子の心をへし折るのは俺としても若干罪悪感が……
それにさっきのはホントに敵討ちで言ったみたいだし逆恨みといえば逆恨みだよなぁ……
そこで俺は一度思考に強制的に結論をつけた。男としてなめられたままではいられない!それにやっぱりって言ったってことは変な自信があるんだろうな。ちょっとかわいそうだが許しておくれ。そのかわりその後のサポートはやっぱり少しは手助けしてあげよう。
「考えをコロコロ変える辺り俺もアホだな……」
「え?」
「なんでもない、こっちの話。とりあえず明日の申し込みもあるし、早めに寝た方がいいかな」
「あ、それもそうですね。それじゃ、私はお先に失礼しますね」
「ああ、おやすみ」
部屋に歩いていくメルを見送ると、女将さんが話しかけてきた。
「あんた、メルティナにずいぶん気に入られたみたいじゃないか」
「へ?メルと知り合いなんですか?」
「まあね。あの子は酒場の依頼を受けたりしてた頃によくここに泊まってたからさね」
「へぇ……ん?してた?メルは今は依頼を受けたりしてないんですか?」
「少し前から冒険者の間でも強いと噂になっててね。あたしがそれを教えたら、その時にバカな冒険者があの子に挑んだのさ」
俺は多分このときしかめっ面になっていただろうと思う。
このあとの展開が読めたからだ。
「で、まあ実際メルティナは強かったからね。難なくバカを倒したんだがその後も似たようなことが続いたら……」
「調子に乗っちゃった訳ですか……」
「ああ。純粋な子なんだがあの子も根はバカだからね。今じゃ『騎士になって英雄に』って言ってまともに依頼を受けないでおとぎ話の英雄が受けたような依頼を待ってるからね。にもかかわらず強いから簡単には負けないし礼儀正しい、おまけにあの性格だから手をつけられないわけさ」
これは……正直予想以上にアホの子だったな。
ただこのまま行くとその慢心のせいで絶対いつか周りに迷惑がかかる。思ったより強いみたいだけれども早急に何とかしてあげないと……
だが俺は一つやるべき事があるのを思いだし、女将さんとの話を切り上げ、部屋に荷物をもって帰った。
俺の命綱のいちごミルクを一刻も早く作らないと。
* * * * *
「味はみてないが、とりあえずこんなもんかな」
とりあえずできたのはビン四本分。できたあとに入れ物に入れて蓋をし、数分すると飲み物に魔力が吸収されて、やっと加護飲料として使えるらしい。
しばらくするといちごミルクが入ったビンが淡く輝きだして、しばらくすると次第に光は消えた。
「女神。これで加護飲料の完成か?」
『多分できてるわ~。甘ちゃんが試しに飲んでみるのが一番手っ取り早くわかるわよ?感覚はわかるでしょ?』
イズールドさんとの修行でいちごミルクじゃない飲み物で魔力の扱いも教えてもらったが、俺にとってはどれも50%。さした魔力を得ることができず、初歩だけ学んだ。
だが魔力を得たときの感覚は覚えている。飲み物が全身にゆっくり満ちていくような感覚で、なんとも言えなかったんだ。
俺は深呼吸をしてからいつも通りいちごミルクを一気に飲んだ。
喉を通り、胃に入り、全身に魔力が広がっていく感覚。だが、以前とは全く違う。
「い、一気に全身に……満ちていく……あ、熱い……!」
勢いが桁違いだった。200%はこれほどなのかと思うほど一瞬で爆発的に全身に行き渡る。
同時に体が熱くなり、俺はその場にへたりこんだ。
『か、甘ちゃん!き、救急車呼ばなきゃ!119!119!』
「おち……つけ……ハァ、ギッ……救急車ないし……この魔力量に体が慣れてないだけだ……」
『あ、ああそうね!考えたらまだ甘ちゃんにはまだ魔力入りそうだし体が驚いてるだけね!』
その後しばらく横になっていると、俺の体は次第に落ち着いてきた。
体を起こすと心臓と胃の辺りはまだ熱かった。
ナイフを一本持ち、軽く肩幅に足を開き、右腕に魔力を集める。集めた魔力をさらに圧縮、ナイフに移す。
構え、ナイフを虚空へ突く。集めた魔力をそのままに、ごく当たり前の動作の一部に織り込み、突いたナイフにそって解放する。
勢いに乗った魔力は放射されて拡散せず、一塊になってナイフの形のまま放たれる。
魔法剣・飛空
念入りに纏めあげたせいか、はたまたいちごミルクのせいか、放たれた飛空は窓ガラスにヒビ一つ入れずに貫いていった。
「……飲む速度が魔力の質。量が魔力量。それで俺は一杯でこれじゃ、調整は大変そうだ……」
だが、俺が想像していたより精度も威力も高い。
予想以上にいい収穫があった俺は残った三本のビンをしまってからベッドで眠りに落ちた。
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