俺はもしかしてついてるのか!?
ヤバかった。
この五ヶ月はマジでヤバかった。
動けなくなるまで筋トレさせられて、当然筋肉痛で倒れてあまり動けない次の日に「何時如何なる時でも戦えるようになれ」とか言われて森にいた熊みたいなモンスター(ヌカと言うらしい)の前に引っ張られていったときはイズールドさんが鬼に見えた。冗談抜きで。
「…………それでも生きている」
「死ぬ手前でしたけどね!?」
あの青汁EX飲んでなかったら耐えられなかったぞ……
あれ、見た目の割に効き目はバッチリで俺はいろんな事をあっという間に吸収してしまった。
修行の効率も劇的に上がって身体能力もかなり上がった。イズールドさんにはまだ組み手で勝てないが、まともに組み手ができるようになったことを考える辺り強くなってはいるみたいだ。この辺りのモンスターは倒せるし、冒険者になるにしても騎士になるにしても一応やっていける……はず。
ぬか喜びで無いことを祈ろう。
兎に角、青汁EXは凄いのだ。あれだけ苦いんだから効果はなくちゃ困る。
本人は遺跡で拾ったって言ってたけど賞味期限大丈夫だったのかな……?
おっと。下らないこと考えてるあたりまだ俺も余裕があったって事だな。
鍛えてもらってたからわかるが、イズールドさんはかなり強い。一体何者なのか謎だが正直知ったらまずそうな予感がしたから聞いてない。触らぬ誰かに祟り無しってね。
女神の魔力が万全なら心を読めたそうだが、悲しきかな、今の女神にそんな力は使えない。
『ねえ、甘ちゃんなんか失礼なこと考えてない?』
チッ、バレたか。
『今頭の中で舌打ちしたわね!?』
おおうこれは聞こえるのか。
なら頭の中で上手く聞こえないように念じて……
よし。これなら聞こえないだろアホ女神。
『無理よ~通信している間は甘ちゃんの思考も心も全部筒抜けなんだから!……ピアス付いてる甘ちゃんしか筒抜けじゃないんだけど』
くっ!このピアス外れないからたちが悪い!
だがまあ通信してなきゃ聞こえないんだからいざとなりゃ着信拒否してやる!
この女神との通信、電話みたいに両方が通信を許可していないと繋がらないらしい。どちらかの呼び掛けに答えることが許可となるので「もしもし」ってお互いに言うのも許可だから、さして電話と変わらないんだよな。したくなきゃ呼び出しに応じなきゃいいんだ。
全部見透かされるとかいうのはどうなのかと思うが……
いや、やられてたまるか!通信中だけとはいえそのたびに女神に全部見透かされるとか、プライバシーもあったもんじゃないよ!?
* * * * *
数日前から森を進んでいる。ここを抜けて街道に出るためだ。街道沿いに歩いていけば森から五日程で王都ジヲクチヲクに着くそうだ。
で、イズールドさんは無口だからつまらなくなった俺が自分から女神に通信したわけだが、女神はなぜかテンションが高くずっと話しっぱなし。話を切るタイミングがわからなくてこのまま。
どうやって話を切ろうかな……
とりあえずマカロンについて語りだした女神の話は聞き流して、新たに発見した事を考えることにした。
この地獄の修行の間に二人?に色々話を聞いた中で俺は二つ発見をした。
一つは俺はどうも珍しい外見だということ。
イズールドさんが言うには、黒髪黒目のやつは見たことがないらしい。体毛が黒いだけなら獣人族にたまにいるらしいが、人ではまず見たことがないそうだ。
隠すか隠さざるか。
……まあこれは女神も『目立つのがイヤなら隠した方がいいんじゃない?まあ目立っても「珍しい」止まりよ』とか楽観的なこと言ってたから今すぐ考える必要は無いんだろう。
見つかって即狩られるとかイヤすぎるけどその心配がないならまあ保留だなぁ。
問題なのはもうひとつだ。
俺の背中にでかでかとある紋章だ。
自分じゃ見えない場所だから気づかなかったがイズールドさんに言われて初めて知ったんだコレ。
まあ背中に紋章があることは珍しく無いそうなんだが……
「…………形も色も見たことが無い」
つまりこの紋章はイズールドさんの見た中限定だがこのグラジラスには無いって事だ。でもまあ理由は一つだよな……
クリスタルは女神がお与えになったものらしい。
どうやら女神が魔力を結晶化させたものが、クリスタルと言うことらしく、そこにある魔力を体内に入れることで、今後そのクリスタルの飲み物(どうもこれは加護飲料というらしい)で魔力を蓄える事ができるようになるわけだ。この一連の流れが加護か。
じゃあ俺は?
ぐちゃぐちゃになっていたとは言えクリスタル経由せず、直で女神から魔力を貰った訳で、俺の存在は新しいクリスタルみたいなものって訳だな……
あと色も気になる。イズールドさんの紋章は黄色。加護飲料はレモネードだそうだ。
王国のクリスタルは白。加護飲料は牛乳。
つまり紋章やクリスタルの色は飲み物に近い色なんじゃないだろうか。
どうなんだ女神?
『その通りだけど、でも紋章はあんな気味の悪い色ではなかったからそこまで重要じゃないと思うんだけど……?』
いや、違うよ。大ヒントだ。ってかほぼ正解だよ。
『え?もしかして私かなり重要なこと伝えてなかった感じなの!?』
うん。とりあえず次に会ったらO☆SHI☆O☆KIだからな。
女神も知らない飲み物が俺の加護飲料って事についてだが、あのとき混ぜた飲み物が女神が飲んで不味さにもどして、それを俺が飲んだから女神のぐちゃぐちゃになった魔力が俺に紋章として宿ったわけだろ。
『ええ、ていうかもどしたっていうのまだ続くのね……』
つまり、あのとき混ぜた飲み物が加護飲料になっていたと思っていたんだが、だとすると色が違いすぎる。だからあの混ぜた飲み物の中のどれかがそれになっていると思うんだ。
で、飲み物と紋章の色は一致するはずなら、ピンク色に近いもののはず。
『てことは……』
そ、俺が混ぜた飲み物でピンク色に近いのは一つだけ─────
「いちごミルクだ」
女神が知らなかったのはおそらくいちごミルクはグラジラスの飲み物としては未知の飲み物なんだろう。そりゃ牛乳がすでにクリスタルからの加護に含まれてるのにわざわざさらに混ぜたものを作る意味がないからだろう。
味の開拓をしてないってことだな。勿体無いことこの上無いぜ。
しかも運は俺に味方してくれたみたいだし。
俺の早飲みにがぶ飲みが一番発揮できる飲み物が魔力吸収に必要だとなると、作る手間があることを考えても、戦闘に関してはかなりグラジラスの人との差がなくなるはずだ!
その上これから行くところは王都ジヲクチヲク。加護飲料の牛乳はいっぱいあるだろう。あとは苺の有無か……
女神。この世界に苺ってあるのか?
『あ、そっか。いちごミルク作るには必要よね。安心して甘ちゃん!ちゃんとあるわよ~と言っても果物とか野菜は甘ちゃんの世界と共通してるものが多いわね。私がグラジラス創った時に参考にしたから』
サンキュー!とりあえず今はこれで聞くことは無いから通信切るぜ。
『はいはーい。私もマカロ、じゃなくて、色々試すことあるから甘ちゃんも頑張って!』
通信が切れた。
俺もそろそろ森から街道に出るはずだ。
王都に着いたらまずは……いちごミルクの調合からだな!
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