軽い女神とシリアスな女神って女神の中では比率どうなってんだろう
「いやー美味しかったわ~。このサクサクなのかフンワリなのかわからない感じ……うん、あなたの世界最高ね!」
「ご託はいいから……ってご託じゃないか。で、何なんだお前は?」
俺はこの時まだ女神が女神ってことを知らなかった。とはいえ知ったからどうなるものではなかったが。
「えーと、私は女神。で、あなたを呼び出したのも私なの」
まあ唐突に言われた時の俺の心情は察してほしい。 それにいきなり女神って言われても違和感がないくらい目の前の女性は女神らしかっただけになんとも……さっきのマカロン頬張ってるのを見ていなければ信じていただろう。俺はどこか興を削がれたような気がしていたが、周りの様子からしてもここは違う場所。そしてこの女神が俺を呼んだのなら全て教える義務がある。考える余裕があるくらいには冷静でいられた。
「呼んだのなら理由があるんだろ?教えて貰えないか?」
ここで世界を救うために勇者として呼んだとかぬかしたら即座に断って帰してもらうつもりだった。もし帰れないとしても勇者の責務とかやらずにストライキすればいいんじゃないかとも考えた。だけど、そのあと女神から言われた言葉は
「んー、確かに呼んだけどこれはあなたが特別だから選ばれた訳でも何でもないわ。あなたも私も自業自得でこうしなくちゃいけなくなったの」
はい?自業自得?そりゃないだろう!心当たりも無かったのに呼ばれたのは俺のせいとか言われても納得できない!
だが女神は「嘘は言ってないわよー」と一言言ってから俺に聞いてきた。
「あなた、あのグラスにいろんな飲み物混ぜたでしょう?」
嫌な予感がしたが俺は頷いた。あの味の開拓のせいだとしたら──
「あのグラスはね、私の力の器みたいな物なのよ。魔力って言うんだけど……あなたの世界風に言うとMPかしら?」
女神は俺の反応を見ながら喋っている。真剣に聞いているか話し半分なのか調べているようだった。
「本来こちらの世界だけにあのグラスはあって、あなたの世界には無いもののはずなんだけどね──それで、あそこに何か飲み物を入れると私のこのグラスの方にその飲み物の魔力だけが抽出されて、私がそれを飲むことで魔力を充電してるの。あ、そうそう、味もちゃんと感じるのよ?ここポイントだからね?」
俺は黙って聞いていた。おそらく俺が味の開拓に使ったあのグラスがそれだろう。だが疑問がある。
「なぜかってことは女神も何でグラスがこっちにあるのかわからなかったのか?」
「め、女神って呼び捨てにしたわね……まあ、そういうこと。こちらの世界で七つあったグラスが一つだけ100年前に無くなったの、その時は反応も感じれなかったから割れたのだと思って新しいのを作ったんだけど……」
「その無くなった一つが俺が使ったものかも知れないと?」
女神は俺がすぐ理解したのが嬉しかったのかブンブンと縦に首を振っていた。女神に見えるのに女神に見えない……そこそこいい年だろうにはしゃぐなよ、女神。
「なんか失礼なこと考えてない?」
「……で、今はそれより、そのあとが問題だろ?あれで混ぜたのと俺が呼ばれたのは関係あるのか?」
「なかなかのスルースキルねあなた……その前に先に教えなきゃいけないことがあるからその後でね」
女神は俺を見てから少し戸惑ったそぶりを見せた。
「私はこちらの世界を自分の魔力とリンクさせることで生み出したの。で、その魔力は飲み物で、つまり私が飲んだ飲み物とこちらの世界がリンクしているの。私がいい品質だったり美味しい飲み物を飲めば品質のいい魔力を取り込めて、こちらの世界は安定するの。逆も然りなのよね」
そこまで聞いて事の重大さになんとなく気がついた。あの飲み物を俺が作った時、恐らく女神もそれを飲んで魔力として取り込んだのだろう。
……で、魔力イコールこちらの世界の状態で、美味しければ世界がよくなる、逆も然りってことは……
「……あれ不味かった?」
「……ええ。この世のものとは思えなかったわ……」
やっぱりだ。
恐らく死ぬほど不味かったんだろう。だとしたら世界は……
「気づいたかしら?……そう、飲んでる最中に不味かったから半分くらいで止めたお陰でまだ大きな戦争なんかは無いけど、半分にもかかわらずもう私の魔力はぐっちゃぐちゃで使い物にならないのよ。私自身では何もできなくなっちゃったの。あなたを呼んだのはぐちゃぐちゃになる一歩出前。戦争もしばらくしたら始まるかも知れないわ。──正直甘いもの食べてはっちゃけてないとやってらんなかったわよ」
最悪だ……
飲み物混ぜた俺のせいで別世界とはいえ戦乱とか始まったら嫌すぎる!!
……ん?ちょっと待て、魔力が使い物にならないってことは俺が呼ばれた理由が何であれ俺って、まさか
「……帰れない?」
俺は蚊の鳴くような声で聞いた。
「私の魔力が戻らない限り今すぐにはね」
「時間が経てば帰れるのか?」
「戦争が治まらないと魔力も落ち着かないから……」
徐々に焦りが俺の中に生まれた。今すぐに帰れない、だがこの女神は帰さないとは言っていない。戦争が治まれば世界とリンクしている魔力も落ち着く。そういうことだろう。
放っておいたら戦争なんてものはいつ終わるかわからない。
つまり──
「……帰るためには俺に戦争を治めて世界を安定させろと?」
女神は静かに頷いた。そして泣きそうな顔で頭を下げた。
「巻き込んでしまって悪いとは思うけど、あなたを元の世界に帰すためにはそれしかないの。私の魔力の具合から考えると、あなたが放っておいたらあなたが生きている間には終わらないわ……さっきも言ったけどこれは私のせいでもあり、あなたのせいでもあるの。」
その瞬間、俺の冷静さの最後の一欠片がが砕け散った。
「ふざけんなよ!!俺はただの高校生なんだよ!!そんなことできるわけないだろ!!」
俺は叫んでいた。急に叫んだことで女神も少し驚いている。
でもそれだけ。やり場のない怒りが溜まっていき、恐怖もだんだん出てきた。
「あ、そこであなたを呼んだ理由がもういっこあるのよ。さっき私あまりに不味かったから半分で止めたって言ったでしょ?」
ただ後々考えるとこの女神は俺がここで我慢ができなくなることを予想していたんだろう。怒りを削ぎ落とすようにあっけらかんとした口調で話し出す。
「………ああ」
「その時偶然その残った半分の魔力があなたのグラスの方に戻ったの。それをあなたはイッキ飲みしたから私の魔力を得ているのよ!」
「……確かグラスに入れるとそっちに魔力が行くんだよな?」
「ええ」
「つまり魔力を戻すためには女神の方でももう一回グラスに入れなきゃいけないんじゃないのか?」
「うっ!!」
「……女神、お前不味くて一回口に入れたものグラスに戻したな?」
「あ、あはは……まあそういうこと。私も出来る限りのサポートはするから、一緒になんとかしましょう?ほらっ!?私もあなたも利害は一致してるんだし!!」
その時わたわたしていた女神がおかしくて、だんだん俺は怒りが収まっていったのを感じた。
これも女神の策だとしたら女神って本気で相手にしたくねえと心底思ったりしたが。
冷静に考えれば無理難題ではあるが、力が使えないとはいえ神様である女神もいるのだ、可能性はゼロではない。
帰るために、俺は女神にこちらの世界のことを聞き始めた。