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何も出来ないって言うのはこれ以上なく悔しいです

次回はインターバル。

女神……ナイフ片方折れちった……)


『まあ、ずっと通信繋がったままだったから見てたけどサ。それ、スペア無いわよ……?』


(ナイフの代わりになる性能のものとかは……)


『生憎武器は甘ちゃんにあげた女神様ナイフが今ある少ない在庫の中では一番なの。こればっかりは自分でなんとかしてもらう他ないわ』


(はあ……わかった。それと、シュマニさんもう居ないから一旦通信切るぞ)


『頑張ってね甘ちゃん! 私のた……ゴホン。世界のために!』


 何が「私のため」だ、こっちはテメエのせいで弱くてニューゲームなんてマゾプレイするはめになってんだぞコラ! と怒鳴ってやろうと思ったが周りから怪しまれるし思いとどまり、即アホンダラ女神の妄言を忘却の彼方へと放り投げて通信を切ってやった。


 今俺がいるのは医務室のベッドの上。

 エムアルから受けた一撃で俺の体は思った以上にダメージを被っていたらしく、決勝に間に合わせるために総出で集中治療を受けていた。

 再び来た医務室のそこにシュマニさんはいなく、代わりに包帯まみれのエムアルが横になっていた。逃げんのはええ。


 何にせよこの状態じゃメルの試合は見に行けそうにない。胸がチクチクしたけれど、せめて俺はここから応援するよ──


 ──武器がこれじゃ決勝はどうしよう……



 * * * * *



 カンタローさんは……師匠は本当にとんでもない人でした。どれだけ追っても背中が見えないほど遠くにいる。

 私は師匠に追い付くために前に進んでいるつもりでも、現状は目前の試合でいっぱいいっぱい。なのに、師匠はさらに先、優勝より先にある、何かもっと大きいものを見ているようでした。

 私が師匠から教わった技は、師匠本来の戦い方とは違うものなのに、私の考えた技よりずっと実戦的で、効果的で、それでいて、基本的。まるで、ここから先これをどうやって自分のものとするのか試しているみたいでした。

 畑が違うはずなのに私に望むまま成長するための水を惜しみ無く与えてくれて、さっきの〈極楽鳥〉という技を見ても、いったいどれだけの差があるのかと思ってしまいます。

 でも、私の師匠に向かって歩く速度はかなり遅いはずなのに、師匠は怒ったりしない。自分の歩みは止めなくても、遥か先から見守ってくれているんです。


 子供っぽくて、


 優しくて、


 甘くて、


 なのに、過保護じゃない。むしろ放任に近いと思っています。

 大成するかどうかは、お前次第。

 教えることは教えるから、活かせるかどうかはお前次第。

 過度に入り込んでこないで、ただただ受け入れてくれる。それが、師匠……カンタローさんという人なんだなと感じました。


 師匠は集中治療中のはずだから、見に来ては居ないでしょう。

 だけど、師匠はきっと応援してくれている。

 私は、それだけで戦える!

 たとえ、相手が自分より強くても……!


「さっきの人と違って力量差は理解してるみたいなのに私に挑んでくるの……? 意味わかんないよぅ……」


「戦争なら、生きるために逃げるのが正しいでしょうね。きっと師匠もそう言います。でも今は試合。師匠が応援してくれているのに、一対一の勝負で、背中を見せるわけにはいかないんです!」


「ふーん……そうなんだぁ……」


 年相応の少女のような声なのに、暗くて、ズルズルと心に影を落としていくような気持ち悪さがある……これが、ジルバリオ・ポルストロア……。明らかに、違う……!

 さっきの戦いからして、氷の属性魔法が使えるのは間違いない。あの抱えてるウサギの人形もさっき魔法をかけたのか、それとも魔法武器の類いのものなの……?


「えへへ……私のサヂュが気になるのぉ?」


 サヂュっていうのは多分、人形の名前……だと思う。

 私が視線を人形に移すとポルストロアは自慢気に、それでいて、少女のものとは思えないほど歪んだ笑みを浮かべた。


「いいでしょ? 私のトモダチのウサギのサヂュ……いろんな所からマジックアイテムの布の切れ端を集めて作ったんだよぉ……」


 布を……あれは、いくつかのマジックアイテムを繋げた人形だったんだ。つぎはぎはそういうことなのね……


「ところで……悠長に話してていいのかなぁ?」


「え?」


「もう、始まってるよぉ?」


「!! 痛っ!」


 なんの脈絡もなく背中に痛みが走り、咄嗟に身をひねると、後ろから氷の剣を持った人形が私を突いているところが見えた。

 背中が焼かれたように熱い……!

 足元には血が垂れていて、止まる気配がない。刺さりきるまえに避けられたから意識が飛ばずに済んだけど、そのせいで斜めに大きく切られたようだった。だんだんと傷口にもうひとつ心臓ができたような鼓動を感じ、背中から痛みが広がり始めた。

 軽鎧だったとはいえあんなにやすやす切るなんて……


「あはぁ! 串刺しになんなかった! お姉ちゃんすごいねぇ!」


「な、なんで、人形はまだ……」


「お姉ちゃん真面目な性格みたいだし……こういう不意打ちには弱いんじゃないかなぁ?」


 私が声をあげるとポルストロアはおもむろに人形を殴った。

 パキィンという氷の砕ける音がして、人形がバラバラの氷となったことで、手に持っていたのが氷のダミーだったのだと私はやっと気づいた。


「太陽の光でよく見えなかったでしょ……? 氷だし普通に作ったら透けててわかっちゃうけど、こうしてカバーできれば以外とばれないんだよぉ」


 彼女の背中側にある太陽を利用して……! それにおそらく会話に集中させているうちに〈消音〉もかけて姫様の開始の合図も聞こえなくされていたのかもしれない。私は、試合前からすでに術中にあったのかも……

 自分より強いのはわかってたけど、強さの方向が私とは全く違う。

 作戦では、勝てない。

 なにより汚い作戦でも平然とこの子はやるだろうから、手段を選ばないという点においては比べるべくもない。


「お姉ちゃん、血も止まらないし、私とサヂュ相手に戦ったらすぐおしまいだねぇ?」


 返事はしない。

 する余裕もない。


 私が勝つには血が足りなくなる前に決着をつけるしかないと結論づけ、私は体が動くいまのうちに、痛みを堪え走り出した。


 同時に目の前のウサギ人形がポルストロアと同じくらいの大きさになると前と同じく氷の鎧を纏い、剣を構えた。一歩後ろで控えるポルストロアもまた属性魔法を使うため魔力を溜めている。


「特攻したって無駄だよ……!

 いくよサヂュ、〈氷槍(ミソク・ヨクー)〉ぅ!」


 何本もの氷の槍が飛来するなか私が狙うのは、あの子ただ一人。

 急に全力で動いた上、攻撃も受けるから血が更に出て、若干目の前がかすみ始めたけど、そんなのに構ってられない。

 盾と剣で進路の邪魔になる氷の槍だけを強引に弾き、止まらずに相手に向かう。その途中、やはりというか、あと数メルトルのところで私の前に人形が立ちはだかった。


「時間がないの……邪魔、しないでよ!」


 走る速度を更に上げて、盾に魔力を集中させる。そして容赦なく振り下ろされた剣に〈破魔盾〉を──


「ぎっ!?」


「あはは、さっきの技? そんなフラフラなのに合わせられると思うぅ?」


 ──剣ごと吹き飛ばすはずが、盾でただ受け止めた形になってしまってた。

 そりゃそうか、目が見えててやっと成功できるのに、見えてない状態じゃ成功するわけが……






「ああ……」


 知らず知らず声がもれていた。


(負けた)


 一太刀も浴びせられずに……


 そう、一太刀も浴びせられずと考えた時、痛みからかなんなのか、私はフラフラしながらもボンヤリとした頭は回り始めた。

 単純な頭がが単純な思考を叩き出す。


 一回も当たらない。


 失血なんかで何もせず気絶して負け。


 師匠に無様なところを見せる。


 情けなくて師匠のところに居られなくなる。


(それは……や……)


 それはだめ。


 それはだけはだめ!


 後から考えたら、もしかしたらおかしい思考かもしれない。

 けど、今の私にはそれがすべてに感じられた。


 前のめりに倒れかけていた私はギリギリのところで踏みとどまる。


「……っああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーっ!!!!!!!!」


「……? まだ戦うの? ホントにこれ以上は血が足りなくて死んじゃうよぉ……?」


 力の限り叫んで沈みかけた意識を無理矢理戻す。

 まわりの音も聞こえなくなった中で魔力が動く事だけを確認して、自身を強化する。


 足に、


 腕に、


 体に、


 そして盾に、


 盾と身体を一体として、残る魔力をすべて流し、盾に〈闇断ちの光剣〉と同じように魔法をかけ、硬化させる。


 前に進む以外の力はいらない!


 進む力以外は、すべて不純物!


 阻むものすべて破壊して進む!


 血が足りなくて単純にしか考えられない。

 必要なのは、止まらない力……!


「まさか……本気で突進するつもりぃ!? サヂュ!」


 全身が魔力の強化に耐えられず悲鳴をあげる。

 痛みで声が出そうになるけど、でもそれを私は無視した。一矢報いてやるという思い、師匠に捨てられたくない思いが私を動かしてくれる。

 前に屈み、一点のみを見据える。


「……はああああああああ!!」



 そして、私は矢のように一直線に前に飛び出して──





 ──ハッと気づいたときに見たのは医務室の天井と、私を睨む師匠でした。


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